第03章

 リアム・キャンベルは性自認をかかえていた。


 自身のことを女性だと思っているのに、何故か体は男性のソレ。

 周りは自分を"男"と言うけれど、男の子が好きだし綺麗な物やカワイイものを身に着けたい。


 両親はそんな私のことを個性の一つとして受け入れてくれた。でも、他人の目はそんな優しいものばかりじゃない。


 初めて恋をしたあの子は、私のことを気持ち悪いと言った。

 初めてキスをした彼は、怒りに任せ私に暴力を振るった。

 肩幅は広がり、背が伸びて、髭が生え始めた頃、私の近くには誰もいなかった。

 

 口には出さないけど、みんな私を遠ざけている。

 態度には出さないけど、表情は隠せていない。


 『後ろ指を刺されても、きっとどこかにいる。アナタを受け入れてくれる素敵な人が』

 母のそんな言葉を信じていたけど、そんなものは何処にもいなかった。


 だから私は変わった……"普通"になった。


 男らしい格好に、ステレオタイプな言葉遣い。

 彼女も作って、自分を隠して、友人も出来た。

 

「………………」

「………………」

「………………」


 "普通"って何?


 私は普通じゃないの?

 私は"異常"なの?

 それは私のせい? おかしいことなの?


 数年以上我慢して溜まりに溜まった心の底、無意識の奥底に出来たうみが溢れ出た。


 私はおかしい……おかしい。

 おかしい、おかしい、おかしい、おかしい……。


 目の下がピクピクッと震え、痙攣を始める。

 胸や胃がギューーーーっと突っ張って、指先が冷たく息が苦しい。なんでもないような時に、涙が流れる。


「もう嫌……」

 もういい、終わりにする。


 気がつくと私はかかりつけの病院から貰った睡眠薬を1つ……2つ……3つ……と、あるだけ全てを手にとって口に入れた。

 ボリボリと噛んで飲み込めば、スーーっと意識が遠のいていく。


 あー……次生まれた時……"普通"の……"普通"の女の子に……なれま……────。


 それからどれだけの時間が経っただろう。

 数分にも満たない時の砂。


 オーバードーズの症状もなく、意識が落ちる前までの精神的な揺らぎも、


「……?」


 体が軽い。しかし違和感はある。

 胸元が重く、心なしか目線が低い。

 

「えっと……鏡は……えっ?」

 近くにあった手鏡を見て、私は驚いた。


 美しい長い髪の毛に、薄い体毛。

 小さな肩に大きな胸とくびれた腹部、大きな腰回りから、スラッとした足先までの曲線。

 

 それは、"意志"を持ったあの時。

 周りと自分の違いを知ったあの時から、夢にまで見た理想の姿。私は気がつくと────。


「なに、これ…………」


 女の子になっていた。

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