スピノザのハレム

南雲ぜんいち

【序】始まり。

「000」

 電気が巡って心を溶かし、今日も静かに眠る。

 これが夢なのか現実なのか分かりはしない。


 世の中には精神的に曖昧あいまいな人間が多くいる。世の中には現実を直視せず、仮想の世界へと逃げる者が多く存在する。その一人がお前だ。


 倉本未来くらもとみらいはある施設の一室で「人間の脳」について研究をしていた。


 その研究は日の目を見る様子もなく、研究資金も有限。自身の生活すら切り詰めてデータ収集を行う毎日。


 苦虫を嚙み潰したような表情でり固まった倉本は、およそ実年齢には似つかわしくない程に年老いた見た目となってしまった。


 しかし、そんな倉本に天啓が舞い降りる。


 それは神頼み、藁にもすがる思いで訪れた神社で出会う。およそ一般人とは思えない服装に高い上背、肩まで伸ばした髪に、堂々たる姿勢で立つ謎の男。


 そんな見知らぬ彼に出会った倉本は"未知"の多くを教わった。


 それは行き詰まった理論を嘲笑うような導き。

 暗闇にさす一筋の光明。そんな教えを受けて更に長い長い時をかけ、ついに到達。


 生物の行動を決定する司令塔。記憶・思考・感情・感覚・運動・生命維持にいたる全てを司る内臓器官。その真髄を、倉本は真の意味で理解した。


 世紀の発見・稀代の大発明。

 しかし倉本は、その研究結果を学会で発表することなく一つの結論を導いた。


 この"知"を平和のために使おう。と────。

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