最強の魔王様、猫になる。そして変な女子高生に拾われる。
嬉野K
元魔王、拾われる
ご主人様
第1話 にゃーん
私は猫である。名前は、ケントニス・ノレッジ・コネサンス・シュテルケ・ポテンツァ・サジェス・ウィズダム・ヴィスハイト・ヴィゴーレ・マハト・フォルスだ。たぶん。
なんでこんなに長いのか、猫である私には問いかけることができない。喋れないからだ。だがご主人が決めたことだ。文句を言うつもりはない。
朝の日差しを浴びて、私があくびをすると、ポンポコチャンチャン、とマヌケな音が鳴った。
最近聞き慣れた音。ご主人の目覚ましだ。毎日決まった時間に音が鳴る。便利なものだ。
私が時計を見上げると、針は8時30分を指していた。
おいおい。今すぐ家を出ても学校に間に合わないだろ。ご主人はコーコーセーってやつらしいから、学校に行かなければならないのだ。こんな便利な機械があるのに……使用者がアホじゃ話にならん。相変わらす抜けている奴だな。
私は寝床である窓際から飛び降り、「ご主人。朝だぞ。早く起きろ」の意を込めて、
「ニャー」
と言った(鳴いた)。
が、返事は無い。目覚ましが止まる気配も無い。しょうがないな、起こしてやるか。
私はベッドに飛び乗り、布団の膨らんだ部分に行く。ご主人がいると思われるところを私は右手(右前足)で適度に叩いた。
布団がごそっと動き、寝ぼけた声が返ってくる。
「うー……カラスミ男爵のイカトマト……」
何言ってんだこの人。どんな夢見てんだよ。いつにもまして意味不明だな。
ふーむ……本腰入れて起こすか。私がそう思った時、
「……ニャ? (なんだ?)」
玄関の扉が開いた音がする。確かご主人は一人暮らしのハズだが……
「ニャー(またか)」
思わずぼやく。この辺りは本当に治安が悪い。泥棒か何かだろう。ご主人が鍵をかけ忘れるのはよくあることだ。
私はベッドから飛び降りて玄関へ向かう。そんなに広くないアパートだから、すぐそこだ。
玄関を覗くと変な男がいた。覆面を付けた、いかにもな泥棒だ。
ふと目が合って、男はビクッと体を震わせる。しかし私の姿をしっかり確認すると、
「なんだ、ただの猫か……」
と馬鹿にしたようにつぶやいた。人に見つかったと思って声の主を見たら、猫だったから安心したのだろう。
「にゃー。にゃーん(おい、訂正しろ。私はただの猫じゃない)」
「なんだこいつ……うるせえなぁ……」
シッシ、と強盗は手で払ってくる。とても面倒くさそうな動作だが、面倒くさいのはこちらだ。
「にゃー(おいコソ泥。最後の警告だ。そのままこの家に入ってくるなら――)」
「うるせえって言ってんだよ」
私の言葉(鳴き声)を遮って、コソ泥は胸元から何かを取り出す。黒く光る鉄の塊。……拳銃か。
「おいバカ猫。どかねえと撃つぞ」
ふむ。この朝っぱらから拳銃をぶっ放す気かこいつ。そんなことをしたら人が集まってくるだろうに。かなり判断力が落ちているらしいな。判断力が落ちているから、コソ泥なんぞに手を染めるんだろうが。
「みゃう(別に撃ってもかまわんが……その後の無事は保証せんぞ)」
「やたら態度デカい猫だな……もういい」
男はため息をついて、引き金を引く。
轟音が鳴って放たれた弾丸は男の頬をかすめて、奥の家の塀にぶち当たった。
「……は?」どうして猫に向けて撃った弾丸が、自分の頬をかすめていくのかわからない、といった状態だろう。「お前がやったのか……? いや、まさかな……」
ようやく私が弾丸をはじき返したという可能性に気がついたらしい。大正解だ。まぁ愚かなコソ泥はその正解を不正解だと認識したらしいが。
コソ泥はさっきの弾丸を暴発だと判断したようで、もう一度拳銃の引き金に指をかける。
そんな時だ、
「ん……ふぁ……」
アホみたいな声が後ろから聞こえた。どうやらさっきの銃声でご主人が目を覚ましたらしい。このコソ泥も結構役に立つ。
「にゃー(目覚ましご苦労だったな。もう用済みだ)」
「今度は暴発なんてしねぇぞ。覚悟しろ」
「ニャ……にゃー(覚悟するのはお前の方だ。これ以上やるつもりなら、命の保証はできないぞ)」
一応警告しておく。まぁ理解されていないようだが……
とはいえご主人の家の前に死体が転がるのも気が引ける。私はできる限りの手加減をして、男の腕を軽く叩いた。
「……っつ!」
悲鳴を上げる間もなく、男は回転しながら飛んでいった。開いていた玄関の扉を抜け、家の前の道を超えて、壁に激突した。
この辺りは人が少ない。見られてはいないだろう。大きな音は鳴ったが。
男は気絶したようだったが、とりあえず言ってやる。
「にゃー(だから言ったろ。私はただの猫じゃない)」
ご主人に飼われている黒猫。
そして、元魔王だ。
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