第40話 聖職者殺しの熱
その不吉な予感は的中した──
「プリーシア、しっかり!」
僕は馬車の荷台の中央に横たわる少女の手を取って声をかける。
《
「とにかく、熱を冷まさないとです」
「わかった、さっき通ってきたところに小川があったから水
フロースがプリーシアの衣服を緩めて呼吸を楽にさせ、フォルティスが
ディムナーテが静かに呟く。
「……ここまで
彼女の言う通りだった。
正直、
「だめ、《
プリーシアを《神聖術》の回復魔法で
子供たちの中で、
「──まさか、《
自らも《
《聖職者殺しの熱》──それは原因不明の高熱が続く病気で、稀に《神聖術》の使い手が発症する。特徴として挙げられるのが、《神聖術》や《
「くそっ、あたいの《水霊術》の回復魔法も、ディムの《地霊術》も効かないとなると本格的にヤバいぞ」
「本当に《聖職者殺しの熱》だったら──」
僕は言葉に詰まってしまった。
本当にプリーシアが《聖職者殺しの熱》を発症しているのだったら、それ相応の規模の《
「頼れるとしたら《
子供たちの
《王都トルネリア》は《
「と、言うことは。このまま北上して《レナンディ》を目指すか、少し戻ることになるけど東の《オリエンテルプレ》に向かうか……」
少しだけ考えた後、僕は決断した。
「《オリエンテルプレ》に戻ろう。距離的に《レナンディ》より近いし、今は
「うん、わかった」
フラーシャが力強く頷き、双子の弟フランも、安心させようと気を落としているサーミィとオーヴィの頭を撫でてやってた。
子供たちのうち、最年長のエクウスが人質として不在となり、次いで年長となったプリーシアが病に倒れた。順番的に今度はフラーシャとフランの双子
「おう、水
ちょうど、そこへフォルティスも戻ってきたこともあり、僕は
目指すのは《大運河》東端──《オリエンテルプレ》、《革命軍》に押さえられた
○
《大運河》東の入口──《オリエンテルプレ》。
《ディアリエンテ
《革命軍》と《王国軍》の内戦の結果、
「遥か東方から仕入れた珍しい
「滅多に手に入らない《
「そこの坊ちゃんたち、果物の砂糖漬けはどうだい!」
内戦下にあるとは思えないような賑わいに、僕らはさすがに面食らった。
戦火による
だが、今は余計なことを考えている暇はない。普段なら食べ物の誘惑に負けてしまう年少組も、必死の形相でプリーシアの看護にあたっているし、僕は
「《神聖神殿》なら、ほら、あそこの高台にある大きな建物がそうさ」
そう言って、指さす果物商人に僕は素直に礼を言って、リンゴやイチジクを子供たちの人数分購入した。
《オリエンテルプレ》は《王都トルネリア》と同じように《大運河》を挟んで、北側と南側に街区がそれぞれ広がっている。
幸いなことに、目的地である《神聖神殿》は北街区にあったので、南への渡し船を探す必要は無くなった。
それだけでも、時間は大幅に短縮できる。
ホッと安堵のため息を漏らす僕に、果物商人が憐れみの表情を見せる。
「病人でも運んでいるのかい? もし、そうなら、アンタたち運が良かったよ。今、《神聖神殿》には《
「《黒髪の聖女》……?」
「ああ、《黒髪の聖女》アンジェラ・カリタスさま──高位の《神聖術》だけじゃなく、医術全般に通じた慈愛に満ちた巫女さまだよ」
その名前に、僕はなにか引っかかるものを感じた。
だが、今は止まっているワケにはいかない。
「ありがと、とにかく神殿に行ってみるよ」
僕はもう一度礼を言って、馬車へと戻り、御者席のマースベルたちに行き先を指示した。
「プリーシア、もう少しで治してあげられるから、あとちょっとだけ頑張って」
その僕の言葉に少女は力ない笑みを浮かべてみせた。
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