セックスフレンド

「セックスしよう。」

 そう言いながら光が涼の部屋のドアを開けた。

 ベッドに転がって漫画を読んでいた涼は、のそのそと身を起こし、和巳さんとなにかあったんだろ、とあくびまじりに言った。

 「ないよ。」

 光はそう答えたが、それが嘘だと言うくらいは涼にはすぐ分かった。長い付き合いだ、お互いの表情や動作のちょっとした癖はもう頭に入っている。

 「なにがあった?」

 「なにもないよ。」

 「嘘つくな。」

 「嘘じゃない。」

 「白状しないならヤらない。」

 「なんでだよ。」

 「なんでも。」

 「なにも、ないよ。」

 呟くように言って、光は涼のベッドの端に腰を掛けた。

 しばらく無言の間があった。

 それに耐えきれずに口を開いたのは光の方だった。

 「和巳さんが観音通りまで来たんだよ。俺のこと買いに。」

 その言葉に、涼はさすがに驚いて幼馴染の白い小さな顔を凝視した。

 「なに、ヤったの?」

 「まさか。なにもしてない。」

 なにも、と、独り言みたいに光は繰り返した。

 「母親の話をしたよ。」

 涼の前で、光が玲子の話をすることは珍しい。

 光を助けられなかったことを、涼が今でも悔いていると知っているからだ。あの頃は涼も幼かったのだと、そんなことを言っても涼の悔いは消えないし光の傷も癒えない。

 「……そっか。」

 ぽつん、と、涼がそれだけ言葉を落とした。

 すると光は目の縁を赤くしたまま少し笑って、シャツのボタンに手をかけた。

 「俺は、汚い?」

 短い問い。

 涼はその問いにどう答えていいのか分からないまま、光の肌に触れた。

 「……汚かったら、触らない。」

 そっか、そうだよね、と、光が自分に言い聞かせるようにそっと言葉を唇に乗せる。

 そうして二人は涼のベッドに転がり込んだ。

 「涼はなんでいつでも俺を抱いてくれるの?」

 「……今日は質問ばっかだな。」

 「気になって。」

 「幼馴染だから。」

 「なにそれ。」

 「分からない。」

 「セフレだよね、やってることは。」

 口づけの間にそんな言葉を交わした。

 もう喋るな、と、涼の唇が光のそれを塞いで深く吸う。

 光は涼に従って口をつぐんだ。

 そんな幼馴染を見おろして、涼はため息をかみ殺す。

 一緒に死んでなどと言い出すイカれた幼馴染。やっていることは確かにセフレ同然だけれども、涼にとって光は子供の頃と同じ、大切な幼馴染だ。

 なにがあっても手放したくないくらい、大切な幼馴染。

 その執着をあらわすかのように、その朝のセックスは長かった。疲れ切った光が眠りに落ちたところでようやく終わりになるくらいの。

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