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あなたが好きだと、正直に言えればいいのに。
抱いてくれ、と迫るのは簡単なのに、その一言はどうしても言えない。
理由は分かっている。
あまりにも性行為を間近で見すぎたからだ。それはつまり、様々な男と母親との。
そのおかげで光にとってセックスは、好きだ、の一言よりハードルが低い。ずっとずっと、低い。
抱いてよ。セックスしよう。ねえ、早く今ここで。
迫れば和巳はたじろいだ。たじろぎ、ベッドに膝を乗り上げた光の肩を掴んで抑えた。
「光くん。話し合おう。」
「なにについて?」
「光くんの悩みごとについてだよ。なんでこんなところでこんなことをしているの? 金がないと不安? 俺のことは信用できない?」
「信用するしないの問題じゃないよ。ただ、あんたは赤の他人ってだけだ。」
「俺は光くんを実の息子だと思っているよ。」
「どうして。」
「玲子さんの息子だから。」
その言葉は、ざっくりと光の胸を切り裂いた。言葉は時たま刃になる。そんなありきたりの文句を、光は生まれて初めて自分の実感として理解したのだ。
玲子の息子だから。
ただそれだけの理由で光を実の息子にできるほど、この男は玲子を愛しているのだ。
あの、男好きで無責任な女。母親には絶対になれず、光のことを幾度でも捨てたあの女。
「……俺は、あの人を母親だと思ったことなんてないよ。」
「なぜ?」
「いつだって置き去りにされてた。物心がつく前からだ。よくこの年まで生きてこられたって思うくらい。」
思い出すのは、母のいない暗い部屋。幼い光のために用意されたのは菓子パンとコンビニのおにぎりが幾つかだけ。それを食べきってしまえば後は飢えが襲う。
光が生まれて初めて万引きをしたのは、まだ6歳の頃だった。
あんな女のなにがいい。
「あの女は、子供なんかいらないって言ってたよ。堕ろせばよかったって、いつもね。」
男の家から戻って来るたび、玲子は光にその手の言葉を投げつけた。
あんたなんかいらなかった。堕せばよかった。邪魔なんだよ。
男と上手くいかないのは、子どもがいるせいだと思っていたのだろう。実際それは事実だったのかもしれないが、幼い光の知るところではなかった。
絶句したまま和巳は、光の肩を押さえた姿勢で固まっていた。
玲子の無責任と浮気性くらい身を持って知っているはずなのに、まだ信じられないのか。いや、信じたくないのか。
そんな和巳の無言の抵抗を、光は鼻で笑った。
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