2

光の首についた手形を見た和巳は、絶句した後、大きなため息を付いた。

 「危ないことはやめなさいって、言ったはずだよね?」

 そうだっけ、と、光はわざとらしく首をかしげた。

 そうだよ、と、和巳は疲れたように長く息を付く。

 「どうしたら売春なんてやめてくれるの?」

 問われた光は、簡単なことだよ、と両手を広げて見せる。

 「和巳さんが俺を抱いてくれればいい。」

 「実の息子相手に買春するやつがどこにいる。」

 「お金なんていらないよ。それに俺は和巳さんの実の息子なんかじゃない。」

 和巳が眉根に深く皺を寄せる。

 目玉焼きにトースト。簡単な朝食が二人分並べられたテーブルを眺めながら、光はじっと和巳の返答を待つ。

 テーブルに肘を付き、頭を抱えていた和巳は、とにかく朝ごはんにしよう、と絞り出すように言った。

 当然それはほしい返事ではなかったから、光は首を横に振った。

 「いらない。」

 そして玄関へ向かうと、当たり前のように和巳が後を追ってきた。

 「光くん。ちょっと話をしよう。」

 「話すことなんかない。」

 「俺にはある。」

 「抱いてもくれないくせに。」

 スニーカーをつっかけ、玄関のドアを開ける。和巳は追っては来なかった。

 光の家から涼の家までは、歩いてほんの5分程度だ。その道程を、光はスニーカーを引きずったまま走った。

 「やっぱり来た。」

 ベッドに腹這いになって漫画を読んでいた涼が、だるそうに首を傾げて光を見る。

 「来たよ。」

 光はそっけなくそう言い放つと、ベッドに上がって涼の肩に頭を乗っけた。

 なんだよ、と、涼は光を押しのける。

 なんでもないよ、と、光は涼の胴体に腕を回す。

 「しがみつくな。」

 「うるさいな。」

 「うるさくねーよ。」

 「黙ってて。」

 短い言い合いの後、どうしてだかセックスになだれ込む。服を脱ぐのは光が先で、涼は光に跨られたままぼうっとしている。ぼうっとしている内に、早く。と耳元で囁かれる。

 その声に、バカみたいに欲情した。

 キスはしない。お互いの目を見たりもしない。なんなら顔も背け合っている。それでも身体を繋げた。

 涼にだって、性欲はある。それを発散できる機会を与えられたと喜ぶには、相手との距離が近すぎる。なにせ、ほとんど兄弟同然に育った幼馴染だ。

 「涼。」

 また囁かれる、幼馴染の低い声。

 「一緒に死んで。」

 いいよ、と思う。

 一緒に死んでもいい。こうやって身体を繋げたまま、いっそ死んでしまえばいいと思う。

 それでも涼は頷かない。自分が和巳の身代わりでしかないと知っているから。

 「バカ。」

 一言だけ言いかえすと、涼の上で腰を振る幼馴染は、じわりと両眼をうるませた。









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