セックスが終わった後、光はいつもあっさり涼から身を剥がす。セックスの前にはああもしがみついて来たのに、と、不思議に思うほどだ。

 「和巳さんは、なんて?」

 「実の息子を買うやつがどこにいるかって。」

 「正論。」

 「実の息子じゃないもん。」

 「屁理屈。」

 「涼はいつも俺に冷たい。」

 「どこがだよ。」

 「やるだけやって後は放置だもんな。」

 放置はどっちだ、と思う。セックスするだけして、後は身体を剥がして和巳の話しかしたがらないのはどこのどいつだよ、と。

 「ピロートークでもしてほしいのかよ。」

 「なんかネタがあるわけ?」

 「ねーな。」

 「俺もない。」

 いつもの会話だ。どうでもよさそうに涼が煙草に火を点けるのも。

 「未成年。」

 「ウリ専。」

 「どっちが悪い?」

 「どっちも。」

 光の瞬きが早くなって、涙を堪えているのが分かる。

 未成年喫煙と売り専。

 どっちが悪いかなんて、論じ合っても仕方がない。

 涼は煙草を口にくわえたまま、光の細い首に手を伸ばした。

 赤くついた手形に、そっと自分の掌を重ねる。

 手形の方が、涼の掌より一回り大きい。涼とて手が小さい方ではないのに。

 身体のでかい男を相手にしたのだな、と思う。

 「一緒に死んでも何も、このままだとお前、普通にその内殺されるぞ。」

 「……それは、いやかな。」

 「そこはまともな神経生きてんだな。」

 「死ぬなら涼とがいいよ。涼と死にたい。」

 相変わらず、涼の幼馴染はだいぶイカれている。

 「だったらウリ止めろよ。」

 「そしたら一緒に死んでくれる?」

 「いいよ。」

 いいよ。

 本気で思う。

 もしこの幼馴染が自分以外の誰かと寝るのを止めてくれると言うなら、命くらいは犠牲にしてもいいかな、などと。

 「だったら、やめようかな。」

 涼が吐き出す紫煙をぼんやりと目で追いながら、光が呟く。

 どこまで本気か分からないその言い様に、涼は苛立つ。

 光の長めに項を覆う髪を掴み、目と目を強引に合わせる。

 「本気か? お前。」

 本気だよ、と、光は視線を彷徨わせたままで言う。

 本気か冗談か分からないいつもの物言い。

 その証拠に光は髪を掴む手を振り払い、もうそろそろ行かなくちゃ、とベッドから立ち上がる。

 行き先は分かっている。男女問わず立ちんぼが乱立しているあの通り。観音通り、などという妙な名で呼ばれる昔の赤線。

 行くなよ。

 言おうとして言えないのは、プライドが邪魔をするせいか。

 「じゃあね、涼。」

 運が悪ければ永遠の別れになるかもしれないその挨拶を、光はさらりと手を振ることで済ませた。

 じゃあね、じゃねぇよ。

 内心歯噛みをしながら、プライドに邪魔をされた涼はそっけなく頷くだけで幼馴染みを部屋から送り出した。



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