第60話 お人好しのエルミッヒ
「え? な、な、なんだこれ?」
一人吊られなかった冒険者が、仲間に起こった出来事を呆然と見つめている。
それもそうだろう。
なんの前触れもなく、いきなり人が吊り上がったのだ。
しかも彼らは、身動きがとれないまま、「助けてくれ」だの、「痛い」だの、叫び声をあげている。
何が起こったか、まったく理解できていないのだ。
けど、こっちは超オモシロイ。
脱力したまま宙に浮いて叫び声をだす様は、なんとも言えない風情がある。
魔除けとして宿屋の裏庭に飾りたいぐらいだ。
しかし、いつもながら瞬殺だな。
まず普通のフックをつけたのは、最初に来た男。
一番手ごわそうだったから、コイツが残るのは避けたかった。
で、次にトリプルフックを三人に。まとめてヒモを引いたら一人が残ったわけだ。
「おっと、動くなよ」
フラットが残った冒険者の喉元に短剣を突きつける。
キャロもいつの間にやら距離をつめており、剣の柄に手をかけていた。
「動いたら斬るニャよ」
よしよし。ナイス連携。
フックを使い切った俺は無防備だしな。こうやってフォローしてもらえると助かる。
吊られたやつらには目もくれず、残ったやつを仕留めにかかる。
さすが、自分が一度吊られただけあって、よくわかってるじゃないか。
んじゃあ、今のうちにスカイフックを発動してと。
それから、ガチャコンコンと吊った冒険者どもをスカイフックに連結していく。
これでよし。もうこいつらはスカイフックの制御下に入ったわけだ。
また通常のフックとトリプルフックが発動できるってことだな。
「串焼き数本と店の修理代で金貨600枚になりま~す」
吊った冒険者どものフトコロを探る。もちろん、剣を突き付けられて、身動き取れない冒険者のフトコロも。
「なんだよ。けっこう持ってるじゃないか」
ぜんぶで金貨5枚、銀貨32枚、銅貨40枚を見つけた。
持ち合わせがないとか言ってたクセに。ウソつきは嫌いだ。
「でもこれじゃあ、ぜんぜん足らないね~。どうしようか?」
苦悶の表情を浮かべる冒険者どもを見上げながら、しばし考える。
「フン!」
「モゲ~!!」
残っていた冒険者もフックで吊った。そして、スカイフックに連結する。
「じゃあ、武器とヨロイも頂戴しとくか。よし、おまえら装備剥いじまいな。代わりにポケットに炭でも入れてやれ。アツアツのな」
奴隷たちに冒険者の装備を集めさせると、冒険者どもに語りかける。
「今度エルミッヒ商会をコケにしたらこんなもんじゃ済まねえぞ。頭カチ割ってモンスターのエサにしてやる。まあ今回は同じ冒険者のよしみだ。全額弁償すれば許してやるよ」
そう言うと、吊った冒険者の腰を順番に軽く押していった。
すると彼らは、街の外へと滑り出すのだ。
「がんばってね~」
みるみる遠ざかっていく冒険者たち。
「あの、彼らはどこへ?」
「うん、カルコタウルスを狩った草原だな。徒歩二日ぐらいの場所」
フラットの問いに、ニコニコ顔で返答した。
俺って優しいよな。わざわざ借金を返す手助けをしてあげるなんて。
「……大丈夫なんですか?」
「さあ? うまくカルコタウルスを狩れれば借金なんてすぐに返せるさ」
「……」
フラットはなんとも微妙な顔をしている。
ん? どした? 俺なんかおかしなことを言った?
変な間にちょっとだけ不安感を覚えたところでキャロが口をはさんできた。
「鬼畜ニャ。武器を奪ってあんなところに放り込んだら死ぬニャよ……」
え? そういうこと?
別にあんなやつら死んだところでどうでもよくね?
借金取りがそんなこと気にすんの?
う~ん。それにたとえ死んだとしても、殺したのは俺たちじゃなくてカルコタウルスだしなあ。
心配する必要なんかないと思うが。
――いや、待て。
死んだら借金を回収できないな。フラットの心配はそこか。
これはウカツだったかもしれん。金貸しとしての心構えが俺はまだまだってことか。
「そんな顔をするなフラット。そっちの事業はちゃんとお前に任すから」
フラットの肩をポンと叩くと、オルタレス商会の建物へと目をむける。
つぎはアイツらだな。
ちゃんと落とし前はつけさせてもらうぜ。
「なにを言っているのか分からニャいニャ! でも伝わっていないことだけは確実だニャ!」
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