第46話 猫耳娘

 奴隷商の男はスレ―ブルと名乗った。

 彼の案内で奴隷を見て回る。


「う~ん。あんまりいいのいないね」


 ついこぼしてしまう。

 貧相な中年女、汗臭いオッサン、目つきの悪いガキ。俺の求めているようなやつがいないのだ。

 たしかに若い女もいた。

 だが、賭け事の借金で首が回らなくなったやつや、旦那を毒殺しようとして失敗したようなワイルドすぎるやつしかいない。

 清楚なんて要素がある者は皆無だった。

 まあ、そもそも戦闘のできる清楚系なんてものは矛盾してるしな。

 そりゃあ見つかるはずがなかろうもんて感じだ。


「このクズども! はやくここから出すニャ!」


 そんな中、元気いっぱい悪態をついているやつがいる。

 鎖につながれ、オリに入れられている猫の耳がついた女だ。


「めずらしいな。猫耳族か?」

「さようで」


 俺の質問に奴隷商の男スレ―ブルは、すかさず答えた。

 なかなか接客上手だな。

 ペラペラ説明するのでなく、客が必要とした情報だけ教えるスタイルだ。俺の好きなタイプだな。


 この猫耳族ってのは亜人に分類され、人里離れたところに住んでいる。

 見た目は人間とほぼ変わらないものの、俊敏性や聴力と嗅覚は、人と比べ物にならないほど優れている。


「コイツか? 新しく入荷した奴隷は」

「よくおわかりで」


 うん。まあ態度でわかるよね。

 奴隷ってのは最初は威勢がよくて徐々に諦めるもんだから。

 こんなに元気なヤツは奴隷になりたてに違いない。


 そして、なにより首輪をしていないのだ。

 今売られたばかりで、まだつけるところまでいっていないのだろう。

 借金取りどもが連れてきたと考えるのが自然だ。


「おまえらよく捕まえられたな」


 借金取りどもに尋ねる。

 というのも、猫耳族は狩猟民族だ。個の戦闘能力も高い。

 俺の穴を避けたリーダー格の男は、なかなか強いみたいだが、それでもおいそれと猫耳族を捕らえられるとは思えないのだ。


「ふん」


 リーダー格の男は俺の質問を鼻でいなした。

 コイツもまだまだ奴隷としての自覚が足りないな。


「クスリを使ったんス。それで寝ているところをフン縛って連れて来たんス」


 代わりに子分のひとりが答えてくれた。

 俺にコビを売ろうというのだろう。なかなかに切り替えが早い男だ。


 つまりこういうことか。

 薬を使ってこの猫耳娘を連れてきた。

 そのまま売っぱらったが、首輪をつける前に目を覚まし、こうして暴れていると。

 噛みつかれでもしたら大変だとばかりにスレ―ブルは助っ人を呼ぼうとして、俺と鉢合わせした感じだな。

 オーケイ理解した。


「スレ―ブル。こいつをもらおう」


 瞬間的にそう言った。

 希望していた奴隷ではなかったが、これはこれで掘り出し物なのだ。

 性格に問題はありそうだが、若くてカワイイし、なかなかエッチな体をしている。

 そもそも、猫耳族の奴隷など滅多にお目にかかれるものではない。

 ここはぜひとも手にいれておくべきだ。やっぱり今日はツイてる。


「承知しました。準備に二週間ほどいただければ」

「いや、いますぐだ」


 間髪入れず答えた。

 だって、二週間も待っていられないのだ。


「え? まだ隷属も調教もすんでいませんよ」


 スレ―ブルは驚く。

 だが、そんなに驚くことか?

 隷属ってのは首輪をはめるだけだ。そんなもん、ガチャコンとつければ終わりだしな。

 調教ってのに時間がかかるのはわかるが、そんなもんは俺がしつけていけばよかろうなのだ。


「いいのいいの」

「近づくんじゃないニャ、このうすらハゲ! それ以上近づいたらオマエのチ〇コを食いちぎってやるニャ!」


 問題ないとスレ―ブルに手を振って猫耳娘に近づいたところ、ガッツリ悪態をつかれた。

 だれがうすらハゲじゃい!

 俺はまだフサフサだ!


 まあ、これぐらい元気があったほうがいいか。

 俺の壁役になってもらう予定だしな。


「汚い手でアタシに触ろうとするニャ! オマエみたいなヨワヨワなやつに触られるかと思うとゾッとするニャ!」


 さらに近づくと、悪態とともにツバが飛んできた。

 なるほど。これはスレ―ブルも手を焼くわけだ。


「オマエみたいなモヤシっ子は自分でシコシコしてればいいニャ!」


 さらに悪口の追い打ち。

 ほんとうに口が悪いなあ。このネコ娘は。


「オイ! 賭けをしないか?」


 俺は猫耳娘にそう提案した。

 あんまり時間はかけてられない。一か八かに打って出るのも悪くないだろう。

 まあ、賭けの内容は十ゼロで俺が勝つんだけど。

 相手が勘違いして乗ってくれば、それでいいのだ。

 ところが――


「ゴミのクセにエラそうに言うニャ! オマエみたいな卑怯者はズルするに決まっているニャ!」


 なんてヒドい言いようだ。

 俺だってゴミと言われれば傷つ……いや、まったく傷つかないな。

 むしろ心が痛まなくていい。だってズルするんだから。


「まあ、聞け。力比べだ。どっちが強いか試そうじゃないか。俺と一対一でお前が勝てば無条件で解放してやろう。その代わり負けたら大人しく言うことを聞いてもらう。どうだ?」


 この言葉に、猫耳娘は黙った。一生懸命考えているのだろう。

 まあ、考えればいいさ。どうせ食いつくんだ。

 こいつの言葉のはしはしに、強さに対するコダワリみたいなものが見えた。

 弱いヤツの下にはつきたくないんだろうな。人間より野生に近い考え方なんだろう。


 ここでガッツリ力の差を見せつければ後が楽になる。

 二週間どころか一瞬で調教が終わるってもんだ。


「ほんとうに一対一かニャ? ズルはしないニャ?」

「あたりまえだ。ズルしてどうなる? そんな約束しなくても、金だしゃお前は俺の奴隷になるんだ」


 猫耳娘にとっては、やって損はない勝負だけどな。勝てば解放されるし、約束が守られなくても逃げるチャンスはでてくるし。

 ――まあ、勝つ可能性も逃げられるチャンスもないんだけど。


「わかったニャ! やるニャ!」


 ほら乗ってきた。


「よし、決まりだ! スレ―ブル。檻からだして鎖も外してやれ!」


 俺はそう言ったが、スレ―ブルは渋った。

 だが、用心棒の男に耳打ちされると、しぶしぶといった感じで猫耳娘を解放するのだった。



 猫耳娘と俺は少し離れた間合いで対峙する。

 お互い素手での戦いだ。ちなみに魔法については特に取り決めはしていない。

 そのあたりちょっと抜けているな、この娘は。


「さっき言った言葉を忘れるニャよ」

「ああ、約束は守る。いつでもいいぞ」


「ふふん。おまえニャンかひとひねりにして、さっさとここを――」

「フン!」


「ニ゛ャー!!!!」


 俺がヒモを引くと猫耳娘はバイ~ンと吊り上がった。

 瞬殺だ。だって檻に入っているときからすでにフックはかかっていたからな。

 逃げるのすらムリに決まっている。


「じゃあ、今からお前は俺の奴隷な」


 そう言って、猫耳娘にガチャコンと首輪をはめてやった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る