第39話 カルコタウルスの味
「こんなもんでいいか」
カルコタウルスを三匹狩ったところで切り上げることにした。
これ以上は荷台にのらないのだ。
ムダな労力はかけないに限る。最低限の労働で、最大の成果をあげるのがエルミッヒ流だ。
解体したカルコタウルスを荷台にのせていく。
優先するのは外側を覆っている青銅部分。ここはやはりウロコ状になっていて、皮にビッシリと張り付いている感じだ。
コイツをフックを使って荷台にのせていくわけだ。
青銅だけあってチョー重い。人力じゃなくてよかった。
こんなもん、一人や二人の力ではどうにもならん。フックに感謝だな。
本来なら一枚ずつウロコを剥いでいくらしいけど、そんなことはやってられないしな。
ジュっと肉汁が焼ける音がした。
目を向けると串に刺さったカルコタウルスの肉から脂がしたたっていた。
やべ~、超ウマそう。
いったん手を止めると、ベロニカを呼ぶ。
ここらでちょっと小休止としよう。
「ああー、いい匂い。美味しそう」
「だな」
ベロニカともども串焼きを手にとる。
一口ほおばると、肉の旨みが口いっぱいに広がった。
「うま!」
「でしょ!」
なんじゃこれ。カルコタウルスってこんなに旨いのか。
肉は味が濃くて甘みがある。適度な歯ごたえに、すっと溶けていくような舌ざわり。
これは病みつきになりそうだ。
あっという間に食べ尽くすと、次の串に手を伸ばす。
「コレもやべえな!」
「でしょう? 狩った人の特権ですよ」
いま食べたのは肝臓だ。独特の風味があってすごくうまい。
なんというかスタミナがつきそうな味というか。
「コイツも悪くない」
「歯ごたえがあっていいですね」
つぎに食べたのは心臓だ。コリコリした食感が心地いい。
これら内蔵は傷みやすいので、持って帰らない。狩りをしたこの場で食べてしまう。
まさにベロニカが言った狩った人だけが味わえる特権というやつだな。
「ふ~、食った食った」
「めちゃくちゃ食べましたね。エルミッヒさま」
内臓を中心に食いまくった。食べきれない分は捨てることになる。
できるだけ胃袋におさめたいところだ。
とはいえ、三頭ぶんの内臓など食べきれるはずもない。多くはあきらめることになりそうだ。
もったいないのう。
「じゃ、もうちょっと頑張るか」
「そうですね。あんまりのんびりしていると、モンスターが寄ってきちゃうので」
ちゃっちゃと済ませてここを離れよう。
せっかく得た収穫を捨てて逃げるハメにはなりたくない。
ベロニカが切り分けた肉を麻袋に入れて荷台の周囲に吊るしていく。
荷台の中は青銅。外側は肉といった感じだ。
なんとか全部持って帰れそうだ。俺たちが背負うリュックも使ってとにかくロスをなくしていこう。
しかし、あれだな。
自分を乗せて荷台が進まなかったのは痛かったな。
それができれば、わざわざカルコタウルスを解体する必要もなかったのに。
血抜きだけして街までカッ飛ばせばいいんだ。
その日のうちに帰ってしまえば、肉も腐らない。
カルコタウルスなんぞ、べつに荷台にのせなくてもいいしな。
デカイ板や丸太にくくりつけるだけでも運べそうだしな。
まあ、このあたりは色々と考えていくか。
人間とは失敗して成長していくものだ。つぎが今よりうまくできればそれでいい。
失敗は失敗にあらず。成功のための試行段階に過ぎないのだ!
「よし、コイツで最後だ」
麻袋につめた最後のカルコタウルスの肉を荷台に引っかける。
車輪が地面にメリこんで、どう考えても積載量オーバーだ。
大丈夫かなこれ? 運んでいるときバラバラになんない?
いや、大丈夫か。
フックで鼻が取れないように、フックで吊った荷台も壊れないに違いない。
どうも重さを無視しているっぽいんだよね。
痛みがあるから、ある程度の負荷はかかっているはずなんだけど、ちぎれるほどの重みにはならない。
なんというか、嫌がらせに特化した能力というか。
さすがあの女神から奪った能力だな。
穴の能力で希望を与えておいて取り上げるとか、底意地の悪さでブッチギリだしな。
持っているスキルもこんなんばっかりに違いないのだ。
まあいい。とにかく今は無事に荷物を運ぶことに集中しよう。
重さを無視できるとしても、衝撃で荷台が壊れないわけじゃないだろうし。
吊ったまま、カルコタウルスの解体はできた。ゴブリンにトドメも刺せた。
だから、ガタガタ道で車輪が破損するってのは十分に考えられるわけで。
「なんなら車輪取っちまうか」
もう箱だけでいいような気がしてきた。
ひっくり返らないように注意して、地面をズルズルと引きずっていく。
それが一番いいじゃねえかって。
結論。荷台はいらない。
ただ、獲物が落ちない支えがあればいい。
フッ、行きつく先は常にシンプルなのかもしれん。
まわりまわって、美しい形へと落ち着くのだ。
「オイ! ベロニカ! ちょっと乳首ツネらせろ。なんかスッゲーイライラしてきた」
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