第38話 カルコタウルス狩り

 大きな岩の上からカルコタウルスを観察する。

 ここから少し先の川のほとり、五十匹ほどの群れが、ペッチャペッチャと水を飲んでいた。

 いや、距離があって音は聞こえないんだけど、なんとなく顔から想像するに、そんな感じだ。


 マジ牛だな。

 カルコタウルスは青銅でできているにも関わらず、口をゆがませながら草を食うのだ。

 水なんかは、ベロですくい取るように飲んでいる。

 器用だな。どうやったらそう動くのだろうか?

 青銅って硬いよな? 弾力だってないはずだし。


 それとも、生きてるときは柔らかいのだろうか? あるいは、魚みたいにウロコ状になっているとか。

 いずれにしても、この青銅牛、なかなかの俊敏性を持っており、うかつに近づけない。

 けっこう獰猛なのだ。近づきすぎると襲ってくる。

 走る速度も人よりもはるかに速く、油断してたら一撃で殺されそうだ。


「そりゃあ、みんな避けるわけだ」


 一匹でも脅威だが、群れとなるともう手が付けられない。

 ヘタに攻撃しようものなら、仲間を助けるために集団でタックルをかましてくるという。

 一瞬でミンチだね、こりゃあ。


「大丈夫です。イザというときはわたしが盾になりますから」


 ブツブツ言っていたら、ベロニカにそう勇気づけられた。

 イヤン、男前!

 だが、ベロニカよ。そうならんように作戦を練るのが俺の仕事だ。

 おまえの体は生きていてこそ役に立つのだ。


「ちょっと、一匹吊ってみようか」


 とはいえ、このままではラチがあかない。

 やはりというか、群れをはぐれた個体など簡単に見つからないのだ。

 しかも、こちらが追う速度より、むこうの移動速度の方が速い。

 見つけたとしても、そうそう追い込めるものではない。

 だから、チャンスが来るまでこうして水飲み場の近くで待ち伏せしているのだ。


「けっこう距離ありますけど、大丈夫なんですか?」

「それは問題ない」


 ベロニカの心配には及ばない。

 鼻さえ認識していればフックで吊れる。この距離ならば十分だ。

 というか、この距離だからこそだな。

 失敗しても反撃されない遠さだからこそ、いろいろと試せるというものだ。


「いきま~す」


 どうせなら一番デカイやつを狙おう。

 後方で周囲の警戒をしているっぽいヤツを標的に定める。


「フン!」


 手元のヒモを引くと、カルコタウルスはぶい~んと吊り上がった。

 よし、成功だ!!


「すごい! さすがエルミッヒさま!! あんなに大きなものが、あんなに吊り上がって」

 

 ベロニカのめ言葉がちょっと卑猥ひわいに聞こえるのは考えすぎだろうか。


「こちらに引き寄せるぞ」


 吊り上がったカルコタウルスはグデンとしている。

 周囲のカルコタウルスはビックリして、距離をとっている状態だ。

 よしよし。ここからが勝負。


 吊ったカルコタウルスをゆっくりとこちらに移動させる。

 群れのカルコタウルスは心配そうに後をついてくる。

 どうしていいか分らず遠巻きに見守る感じだ。


「あ、だめ。ずっとついてくる」


 ベロニカが言うように、吊ったカルコタウルスをこちらに引き寄せた分だけ、ほかのカルコタウルスも近づいてくるのだ。

 そうとう仲間意識が強いんだろうな。

 このまま俺たちのもとへ引っ張ってきたら、そりゃあまあボコボコにされちゃうだろう。

 だからさ――


 さっとフック解除した。

 その瞬間、吊っていたカルコタウルスが落下する。

 ズンと大きな音。

 他のカルコタウルスは、またビックリして距離をとった。

 

 よし! いまだ!!

 今度は、落としたカルコタウルスに最も遠いやつをフックで吊った。

 落下にみなが注意を向けている隙に。


 いいぞいいぞ。だれも気付いていない。

 新たに吊ったカルコタウルスを、群れから引き離すように遠ざけていく。

 

「あ、なるほど。そっちを狙うんだ!」


 これにはベロニカも驚いたようだ。

 ふふん。陽動作戦成功。どんな力も使い方次第よ!


 十分に引き離したところで、カルコタウルスを岩の上まで引き寄せる。

 よ~しよし。今、楽にしてやるからな。


「すごい。こんな簡単に……」


 ベロニカはしきりに感心しているが、カルコタウルスは「フー、フー」と怒りの鼻息を発しているので俺はチョー怖い。

 さっさとトドメを刺して欲しいのだが。


「これなら、大儲けできそうです!!」


 ベロニカは笑顔を見せてくる。

 お、おう。

 荷台にいくつ乗るかはわからんが、いい稼ぎにはなりそうだな。


「さすがエルミッヒさま。カルコタウルス狩りを提案したのは正解でした」


 うん。そうだね。

 でも、まあ、おまえがいてこそできる作戦だけどな。


「わたし、エルミッヒさまに――」

「はやくヤレや」


 じらすんじゃねえよ。

 そういうテクニックは今はイラン。

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