第35話 次は遠征

「いや~、儲かった儲かった」

「さすがの交渉術です。エルミッヒさま」


 ベロニカとふたり銀貨を三枚ずつ握りしめて、ギルドへと向かう。

 依頼達成の報告だ。依頼主が板切れに書いた証を見せて完了となるのだ。


「なんかうまいもんでも食べよう」

「いいですね。じゃあ、ラビットバードにしますか? 丸焼きをふたりで分けるんです」


「いいね! てことは宿だな。もらったロックフィッシュもあるし、今日は豪華な食事になるぞ」


 そうなのだ。

 俺たちの働きにたいそう感動したトラビスが、ロックフィッシュを二匹分けてくれた。

 こいつも宿の食堂で調理してもらおう。


「しかし、スキル鼻フックですか? すごい能力ですね」

「まあな」


 ベロニカのヨイショにフフンと鼻を鳴らす。

 この能力、穴に比べたらショボイと思っていたが、使い方によってはいろいろ応用が利くかもしれない。

 なんか無限の可能性を感じるんだよね。

 まだまだ秘められた力があると見た。


「次はどうします? 似たような運搬の依頼を探しますか?」

「いや、そろそろモンスターを退治したいな。冒険者なんだからさ」


 戦いで慣れときたいしなー。

 相手が一匹ならほぼ無敵だし、単独かつ素材が高価な檄強モンスターを討伐したい。

 金も名声が手に入れば、奴隷も増やしやすくなるだろうしな。


「では、ちょっと遠征します? 稼いだお金で保存食を買い込んで」

「うん、そうしよう」


 遠征か。悪くないな。

 旅はキライじゃない。美しい景色を見れば心も穏やかになる。

 それにフックの能力は狩りに適してるんだよね。

 魚釣りはもちろん、草食動物も簡単に捕まえられるだろうし。

 アイツらすぐ逃げるからな。気配を感じた瞬間にどっか行っちまう。

 その点、フックなら一発だ。

 逃げようが隠れようが、一度フックがつけばまず吊れる。

 鳥もたぶんイケるんじゃないか?

 これで買い込む食料もかなり減らせるだろうしな。

 もう狩人で生きていけばいいんじゃないかってぐらいのレベルだ。


「エルミッヒさま着きました」


 ベロニカの声で我に返る。

 考え事をしていたらいつの間にかギルドへと着いていたようだ。


「少しお待ちください。依頼達成の報告をしてきます」

「いや、一緒に行くよ」


 ひとりで行こうとするベロニカを呼びとめる。

 なんか今日は一緒にいたい気分なのだ。


「フフ、分かりました。ではご主人様。お手を」


 ベロニカはギルド入口の段差に片足をかけ、俺に手を差し出す。


「わしゃジジイか」


 そう言いながらも悪い気はしない。

 その手を取ってギルドの中へと入っていった。





――――――





「さあ、いきましょう!」


 ベロニカが前方を指さす。

 その先にあるのは、巨大な山だ。その山を越えたところが今回の遠征の目的地だ。

 なんでもカルコタウルスなるウシのモンスターがいるんだと。


 こやつは全身が青銅で覆われており、非常に硬い。

 その突進力も相まって、多くの冒険者は避けて通るのだとか。

 そのぶん、倒した時の旨味は大きい。

 ガワの青銅部分がそれなりの値段で売れるだけでなく、中身は脂ののった上質な肉で、高値で取引されるという。


 弱点は腹。

 一部装甲が薄くなっており、唯一刃物が通るのだとか。

 そこを狙う。

 なんたって、こっちにはフックがあるからな。

 吊って無防備になったところをベロニカがサクッとバラす。

 非常に簡単な討伐になるだろう。


 ただ、問題はどうやって持ち帰るかだな。

 フックで引っぱってきてもいいんだけど、スマートじゃない。

 そこで俺は、もっと画期的な方法を思いついた。


 ジャン!

 ベロニカの後方にあるのは荷台。

 人が引いてコロコロ進むやつ。あれを使うのだ。


 こいつオンボロのクセに意外と高かった。

 おかげで昨日の稼ぎがほぼ飛んだ。

 まあいい。今回の遠征でもっと稼げばいい。


「エルミッヒさま乗ってください!」


 荷台についた手押し棒を握ってベロニカが言う。

 俺を乗せてガラコンガラコン運ぼうというのだろう。


「ちが~う!!!」


 それはスマートではない。

 なんで奴隷の引くボログルマにワシが乗らねばならんのか。

 そういうのは俺が求めている主従関係ではない。

 もっと優雅に、かつ、情熱的にいくのがエルミッヒ流だ。

 俺はガッっとベロニカのチチを鷲掴みにした。


「あ……」


 小さく吐息を吐くベロニカ。

 それも違う。

 へんな気になっちゃうじゃん。そういうのは夜にしてほしい。

 いまは、まさに冒険に出発しようとしているのだ。

 ここは明るくキャッとか言う場面だ。


「おまえも乗るんだよ」


 ビシっと荷台を指さす。


「え? エルミッヒさまが引っ張るんですか?」


 とぼけたことを言うベロニカ。

 なんでだよ。なんでご主人様が奴隷を乗せて運ばにゃならんのよ。

 どんな主従関係だっつーの。


「一緒に乗るの!」

「え?」


 そう、荷台を引くのはフックだ。

 手元のヒモは移動する。吊ったフックも移動する。

 だったら、俺が荷台に乗りこんでそれを吊ったら、俺ごとスイスイ進んでいくんじゃね? って話だ。


「ちょっとこれを持ってくれ」


 ベロニカに渡したのはシカの頭蓋骨だ。

 トンカントンカン。それをクギと金づちを使って荷台に固定する。

 んでもって、コヤツをフックで吊れば荷台ごと進むってわけだ。

 俺って冴えてるぅ!

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