第16話 エピローグ――穴があったから入れてみた

「待ちなさい!」


 声を荒げながら走るのは第103夫人のマリリンである。

 その顔には、とっても臭い花から抽出した塗料でラクガキがされている。


「まったく。陛下にそっくりのワルガキね!」


 その姿を見て笑うのは第8夫人のニナだ。

 元冒険者の彼女も、今ではすっかり宮廷の人である。


「追うだけムダよ。父親ゆずりの能力ですぐ行方をくらませてしまうもの」


 知ったような口を利くニナであるが、自分の鼻の下にチョビ髭が描かれていることをまだ知らない。


 あれから王国は発展した。

 国王の能力だ。国を囲むように設置された穴は、生まれた魔物を瞬時に落としてしまうのだ。

 民は魔物の脅威に怯えることなく、豊かに暮らしていけた。

 また、民が素直で誠実なことも国の発展を後押しした。

 だまし、だまされることがない世界では、みな一つの方向に歩むことができたのだ。


 ――ただ、国王とその子供たちを除いて。


「すみません。陛下を知りませんか?」


 ニナに語りかけてきたのはブラスディーだ。こうして王を探し回るのが、彼の日課となっている。

 エルミッヒ国王はスキあらば職務を放棄して、行方をくらませてしまうのだ。


「さあ? また誰かをクドいてるんじゃない?」


 王の女癖の悪さに最初は怒っていたニナも、今では完全にあきらめている。


「またですか? もう後宮はパンク寸前ですよ」


 エルミッヒ王は自身の地位をフル活用して、とにかく女性を口説きまくっているのだ。

 その結果が100を超えるきさきと子の大発生である。

 彼らが住まう後宮を、増築しても増築しても、すぐに足らなくなってしまう。


「豊かになったとはいえ、おきさき様とそのお子で財政が破綻しそうです」

「ブランすでぃーも苦労が絶えないわね」


 諦め切ったニナにとっては、すでに他人事である。


「何度も言いますが、わたしはブラスディーです」

「いいじゃないブランすでぃーで。もう定着しちゃったもの」


 エルミッヒ王が、ことあるごとにブランすでぃーと呼ぶものだから、それが完全に浸透してしまった。

 本人がいくら訂正しても焼け石に水である。


「わたしは諦めませんよ。何度でも否定しますから」


 ブラスディーはそう言い残し、どこかへ消える。エルミッヒ王が出没しそうなポイントへ向かうのだ。


「やれやれ。やっと行ったか」


 掛け軸の後ろから姿を見せるのはエルミッヒ王だ。

 ちゃっかり、今の会話を聞いていたのである。


 王はこうして抜け道をいくつも作っていた。

 敵の襲撃に備えてではなく、ブランすでぃーから逃げるために。


「アンタいい加減にしなさいよ。国中の女に手を出すつもり?」


 王の性格についてはもう諦めているニナであったが、未婚の男女比率がいちじるしく偏るのではと心配にはなる。


「そんなこと言ったって、穴があったら入れてみたくなるじゃん」


 とても王とは思えない発言に、みなあきれ返るばかりだ。


「そのうち刺されるわよ。アンタが死んだら墓標に今の言葉を書いてあげるわ」

「そいつはありがたいね。この目で見られないのが残念だ」


「あ! 陛下!!」


 ブラスディーが声をあげる。

 もしやと思い、引きかえしてきたのだ。

 

「やべ! あいつ行ったんじゃなかったのかよ」


 エルミッヒ王は必死で逃げていく。

 どうやら今日も、この国は平和みたいだ。




 『穴があったから入れてみた』


  ~~Fin~~


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