第13話 王を入れてみた
なかなかの広さだ。100人以上がゆうに寝泊まりできそうな感じ。
部屋の左右には武装した衛兵が幾人も並んでおり、二階にある傍聴席のような突き出し部分からは魔術師らしき者たちがこちらをじっと見つめている。
なかなかに厳重な警備だのう。
俺たちがおかしな動きをしたら一斉に攻撃してくるんだろうな。
怖えー、怖えー。
その中で最も目を引くものがある。
こちらと奥とを
カーテンと言っても布でできているわけでも、風になびくわけでもない。
すこし青みがかった光の
「あれがブランすでぃーの言っていた障壁か」
なんでもあの障壁は、いかなる武器も魔法も通さないのだとか。
この王と謁見する者とを隔てる障壁があるからこそ、王はどこの馬の骨とわからぬ冒険者の前に現れるのだ。
さて、うまくいけばいいが。
事前に軽くテストをしたいところだが、おかしな動きに警戒されては困る。
これだけの数が見張ってるんだ。余計なことはしたくない。
穴の能力を信じるほかはない。普通の魔法じゃないんだ。たとえ失敗しても、何をしようとしていたかは分かるはずもないからな。
そうこうしているうちに、奥から人が現れた。
高そうな服をきたオッサンが五人だ。装飾品をシャリンシャリン鳴らしながら近づいてくる。
王……じゃないよな。
ちらりとブランすでぃーに目をむけると、彼は首をわずかに横に振った。
やっぱり違うか。
では、こいつらは国のお偉いさんかな?
大臣とか書記官とかそんな感じのやつらなのだろう。
とってもキタナイものを見るような目でこちらを見ているから、きっとそうだ。
「え~、よく来てくれた。英雄たちよ。歓迎する」
オッサンの長話が始まった。
障壁で区切っておいて、歓迎しているもクソもないと思うが。
まあ、暗殺が怖いんだろうな。
しょーがないっちゃ、しょうがないか。
しかし、なげぇな。
オッサンどもは代わる代わる長話を続けてくる。
その間、こちらは頭を下げっぱなし。
片膝をついて敵意がないことを示し続けなきゃならない。
ちなみに付き人ポジションの俺は正座だ。それで頭を下げているものだから、かなり屈辱的なポーズである。
ただ、チョコチョコ顔を上げて周囲の様子を確認している。
礼儀を知らぬ田舎者が! って思われているんだろうな。
むしろそれがいい。
ふいに奥からまた人が入ってきた。
そいつはオッサン五人の内の一人に、なにやら耳打ちしている。
口の動きを読む。
「でに……りました」
なんだ? いや――おいでになりましたか!
ついに王が現れた。
取り巻き二人を連れて、ゆったりと歩いてくる。
頭には王冠。
きらびやかな衣装をまとい、歩きにくそうな先が丸まった靴で、カッコンカッコン音を鳴らしている。
……デブだな。
衣装以上に体型が気になった。
さぞ、うまいものを食べているのだろう。
「おもてをあげ~い!」
五人オッサンの誰かがそう言った。
俺はすでにガン見していたが、リックたちはやっとここで顔を上げたようである。
王はこちらと目が合うとニッコリ微笑んだ。
しかし、目の奥はまるで笑っておらず、おのれの身をおびやかす可能性がないか値踏みしているように思えた。
王はとなりの者にそっと耳打ちをする。
「寄生虫などはおらぬのだろうな」
「大丈夫でございます」
ヒソヒソ話がまる聞こえだ。
寄生虫って俺たちのことか? なかなか失礼な王様だな。となりのオッサンの大丈夫ですの根拠もよくわからんが。
「さっさと終わらすか」
王が小さい声で言う。
これも聞こえている。この王さん、ボリュームの調節がバカになってない?
まあ、早く終わらせたい気持ちは俺も同じだけど。
「皆のもの。大儀であった! この偉業をなすには、並々ならぬ努力があったことだろう」
王の演説が始まった。それを聞きながらタイミングを
できれば一番面白いタイミングで仕掛けたい。
「惜しみない賛辞をおくろう。よくぞ魔王を倒した! 王として礼を言――」
「てい!」
俺が手をかざすと、王はスポンと穴に落ちていった。
「え?」
「え?」
まるで時が止まったかのように、あたりがシンと静まり返る。
みな、何が起きたか理解していないのだ。
そんな中、俺の仕業だと感づいた者がいる。
リックたちだ。
「うそ!」
「まさか……」
「やりやがった……」
そうなのだ!
リックたちには内緒にしていたのだ。
俺とブランすでぃーたちだけの秘密だ。まあ、サプライズだね。てへ!
「おまえ、なんてことを……」
リックたちは見るからに、うろたえている。
サプライズは大成功のようだ。やったね!
そして、ここからが一世一代の大勝負。
俺は声を張り上げる。
「今から、俺が王だ!!!!」
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