第12話 なんとなく入れてみた

 こうして俺たちは英雄として国に迎えられることになった。

 リックも迷ったあげく、了承したのだ。


「しかし、すごいな。まさにお祭り騒ぎだ」


 城へとむかう俺たちを、沿道からたくさんの人が見つめている。

 声援を投げかけるもの、羨望のまなざしで見つめるもの、感謝をささげるもの、さまざまだ。


 俺たちが街へ帰って数日後、国は御触れおふれをだした。

『魔王を討伐したもの。コレを賛するものなり』と。


 ようは魔王を倒した俺たちを英雄として褒めたたえますよってことだ。

 街はお祭り騒ぎとなり、いちやく俺たちは有名人だ。

 

 そして、今日、みなの祝福を受けながら行進している。

 パレードだ。街をぐるっと一回りし、城へと向かう。そこで待っているのは王のありがたいお言葉と士爵の称号だ。

 これで、末端ながらも貴族の仲間入りってわけだ。


 その俺たちを導くのは騎士たちだ。

 もっとも近い距離にはブランすでぃーの姿もある。

 サマになっとるのう。

 あの時みたいに裸じゃない。式典用のきらびやかなヨロイを着ての先導である。


 ふいにブランすでぃーが、ツツツと俺に近づいてきた。

 そして、小さな声で語りかけてくる。


「手はずは整いました」

「おう。サンキュー」


 やるね。けっこう急だったにも関わらず、よく手回しできたな。

 やっぱ有能なんだね。ブランブランさせてた時とは大違いだ。


 ――ただ、別にちょっとした疑問もある。


「なあ、ブランすでぃー。よく国を説得できたな」

「ええ、まあ」


 そうなのだ。こいつは俺たちを「英雄として迎える!」とかエラソーに言っていたが、騎士にそんな権限あんのか? つー話だ。


「私、いちおう王の血縁者でして……」

「あ、そうなの?」


 なるほど。王の親族か。

 だったら力があってもおかしくないか。


 ちなみにブランすでぃーだが、完全にビビってしまっている。

 まあ、これからすることを考えればあたりまえだが。


「じゃあ、成功すると悲しんじゃう感じ?」

「いえ、血縁と言っても遠いですし、特別な感情はありません。それに……」


「それに?」

「以前お話した大臣がわたしの父でして」


 ああ、なるほど。

 封印を解いてこいと命令した大臣か。それが父親なのか。

 王の側近の息子。そりゃあ力はあるわな。どうせ大貴族だろうし。

 てことはだ。

 あわよくばって考えは常に心のどこかにあったのだろう。


「まあ、そんな気を張らなくていいんじゃない? うまくいかなきゃ俺が死ぬだけだし。失敗したら、シレっと騎士を続ければいいじゃん」

「いや、まあ、そうなんですが……」


 やがて俺たちは城へと到着する。

 巨大な門を通って中庭へ。兵の詰め所の横を通り二つ目の門へ。


 ちなみに先頭を歩くのがリックだ。

 それからジェイと誰かと取り巻き女子と続く。

 俺は最後尾だ。四人の荷物を持ってヘコヘコとついていく。


 魔王を討伐した金級冒険者パーティー、付き人つき。ただいま参上!

 

「おい! おまえ!」


 二つ目の門を通ろうとしたとき、見るからに弱くてみすぼらしい俺に近衛兵が待ったをかける。


「へい! なんでございましょう!?」


 ニッコニコで答える。


「ここはお前のようなやつが――」


 近衛兵は俺を指さしたポーズのまま穴へ落ちていった。

 さよ~なら~。


 ブランすでぃーが、あちゃ~という顔で俺を見る。

 そんな顔するなよ。予行演習は大事だかんな。

 ここ一番で不発とか困るじゃん。


「おまえヒドいやつだな」


 リックはあきれ顔だ。

 ヒドい? そう? みすぼらしいからってイヤガラセするやつの方がひどいと思うが。


 ブランすでぃーはさりげなく他の近衛兵の視線を遮る位置に移動する。

 穴が見えないようにだ。

 まあ、すでに穴は消したけどね。でも、近衛兵が姿を消したことが悟られない効果はあるか。

 やるね! さすがブランすでぃー。


 じゃあ、行きますか。

 この先が謁見の間だ。

 俺の一世一代の晴れ舞台だぜ!

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