第76話 童貞だけど魔法使いにはなれないようです
合成を終えた僕達は玄関から外に出ると、ホーンラビットが飛び跳ねていた。今回はゴブリンやイーヴィルアイよりもホーンラビットの数が目立つ。
チラッと僕達に目を向けたホーンラビットは後脚で強く蹴り、僕達のところまで飛び込んできた。
「ここは私の出番だね」
香里奈がスマホを操作すると、スマホを中心に見たこともない文字がスマホの周りをぐるぐると飛び交う。
『ファイアーウォールを起動します』
スマホからはシズカとは異なる声が流れてきた。次第に周囲の体感温度が変化している。気づいた時には目の前にどこからともなく炎でできた高い壁が出現した。
パチパチと火花を散らしながら、出てきた高い火の壁にホーンラビットは突っ込んでいく。
「キュ!」
――ポトッ
ホーンラビットの鳴き声とともに目の前に黒く焦げたホーンラビットが倒れていた。
「これって魔法か?」
「正確に言えばスマホのアプリで管理されている魔法なんだけどね」
僕が探していた魔法を香里奈は使えるようだ。スマホ自体も武器の種類としては短杖の扱いらしい。
これだけ強い魔法ならイーヴィルアイも簡単に倒せたはずだ。疑問に思った僕は香里奈に確認すると、イーヴィルアイに向かって魔法を放った。
突然衝撃を受けたイーヴィルアイは辺りをキョロキョロとしている。
「当たってない?」
イーヴィルアイは僕達に気づき近づいてきた。
流石に精神干渉系魔法を使われても面倒と思った僕は手裏剣を投げた。
流石に使い慣れてきた手裏剣はまっすぐイーヴィルアイに向かって突き刺さる。
「さすがお兄ちゃん! あいつらって
香里奈がイーヴィルアイに手こずったのは、精神干渉系魔法に弱かっただけではなく、単純に魔法でダメージが与えられず倒せないのが問題だった。
短杖という武器であるスマホでも、確かに物理攻撃としては弱そうだ。
威力としては寝ながらスマホを操作して、顔面に落ちてくる痛みぐらいだろう。
「逆に物理攻撃が当たらないやつはいるのか?」
「私が戦ったことあるやつだと、スライムは物理攻撃が効かないかな」
どうやらゲームの序盤の敵として有名なスライムは物理攻撃が当たらないらしい。そんな敵が序盤に出てきたら、今頃勝てなかっただろう。
「だからシズカと仲良くなるまでは、一人で大変だったよ」
香里奈はシズカに抱きつくと楽しそうに笑い合っていた。シズカが前衛で香里奈が後衛で戦っていたらしい。
『別に褒められても嬉しくないんだからね』
「シズカは素直じゃないんだから!」
ツンデレなシズカは香里奈に頬をツンツンと突かれていた。仲良しな光景に僕は微笑ましく思うが、未だに隣では真っ黒なホーンラビットの死骸が生産されている。
「そういえば、お兄ちゃんの武器って魔力を込めると戻ってくるんだよね?」
ホーンラビットの責手裏剣にはスキル:回帰というのが付与されている。魔力の通し方はわからないが、香里奈が言うには武器に見えない空道みたいな繋がりを感じることで魔力を通すことができるらしい。
簡単に言えば人間の指の先からホースが繋がっている感覚に近い。
全く意味のわからない説明に戸惑ってみると、とりあえず念じれば良いと言われた。
僕は手裏剣に向かって戻ってくるように念じる。
「こいこい! 戻ってこーい!」
だが、さっき投げた手裏剣は戻ってくる様子もない。
「ほら、やっぱり戻って――」
何かが大きな音を立てて僕の顔の横を通り過ぎる。頬が大きくえぐれたのか血が止まらない。あまりの痛みに僕はその場で倒れ込む。
「お兄ちゃん!?」
急いで近寄ってきた香里奈は再びスマホを起動させる。
『ヒールを起動します』
僕に回復魔法をかけ始めた。どうやら手裏剣の破壊力は思ったよりも強かったようだ。そして、スキル:回帰は封印することにした。
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