第61話 香里奈はどこに?
僕は遠回りをしながら家に帰っていた。いつもは寄り道せずに家に帰っているが、持久走で一番になったのが嬉しかったのかケーキ屋に寄っていた。
お祝いに家族でケーキを食べようと思ったのだ。
「いらっしゃ……」
ケーキ屋の女性店員さんは僕の顔を見て驚いた顔をしていた。そんなに嬉しそうな顔をしていたのだろうか。
「あのー、オススメはなんですか?」
「あっ、はい! 当店のオススメはミルクレープとタルトタタンです。このカヌレも朝焼いているものなのでオススメですね」
お洒落で聞いたこともない名前に困惑してしまう。タルトタタンとかリズムを刻んでいるようにしか聞こえない。
「んー、女子校生が好きそうなのは――」
「KARINAさんにですか?」
「えっ?」
どうやら店員も香里奈のことを知っているらしい。香里奈も通っているなら好みも分かるかもしれない。
「香里奈がよく買っていくものってありますか?」
「よく買っていく……? いえ、KARINAさんは来店されたことないですよ」
何を言っているのか僕には理解ができなかった。香里奈を知っているのに、店に来たことがないってどういうことなんだろうか。
僕が考えていることに気づいたのか、店員はエプロンのポケットからスマホを取り出した。
「これでKARINAさんを知っているんです」
見せられたのは香里奈の写真が載っているSNSだった。そこにはたくさんの数字が書かれていた。
「フォロワーが一、十、百、千、万、十万、百万!?」
「そうなんです。KARINAさんは学生達のインフルエンサーなんですよ」
インフルエンサーって最近聞く人気の人みたいな感覚のことだろう。確かに一緒にいて声をかけられている姿を見るがそこまで人気だとは思いもしなかった。
「ちなみにお兄さんも人気ですよ?」
画面を切り替えるとそこには僕と香里奈が映っている動画が流れていた。自分の動画なんて見ることがなかったが、毎回香里奈が僕を撮っていたのはこのためだったんだろう。
その中には僕が制服をもらってお礼を伝えている動画もあった。
僕は店員に教えてもらったお礼を伝えて、いくつかケーキを買って帰ることにした。
♢
「香里奈があんなに有名だったとはな……」
僕は帰りながら香里奈のSNSを見ていた。途中から僕の動画や画像が増えてきて、仲良し兄妹と言われるコメントが増えていた。
「これが一番新しい動画なのか?」
それは僕が香里奈に髪の毛をセットしてもらっている動画だった。なぜ、そんな動画を撮っていたのかわからなかったが、SNSに載せるためのものだった。
そして、同じようにコメントを見ると、ここだけ急に誹謗中傷の言葉が増えてきた。
僕に対するコメントなら特に気にしない。だけど、半分ぐらいは香里奈に対する酷い言葉で溢れていた。
僕は急いで香里奈に電話をするが全く繋がらない。
どこか嫌な胸騒ぎを感じた僕は急いで家に向かって走った。
右手にケーキを持っているのを忘れて必死に走る。
家に着いた僕は玄関の扉を開ける。そこには香里奈の靴が置いてあった。
「香里奈帰ってきたのかー?」
声をかけても返事はなく、どこか家の中は静寂に包まれ寒く感じた。
家中を探しても香里奈の姿はなく、妙に置かれた通学用の鞄。
玄関に置いてあった靴も慌てて脱いだような形跡があった。
さらに僕の鼓動は早くなる。
急いで脱衣所に向かいお風呂に入っているのか声をかける。
「香里奈風呂か?」
それでも返事はない。さすがに溺れているわけではないと思うが、確認するためにゆっくりと浴室の扉を開ける。
しかし、ここにも香里奈の姿はなかった。
ひょっとしたら出掛けたのかもしれない、そう思った僕は脱衣所から出ようと扉に手をかけた。
「あれ? 何かおかしい」
脱衣所に違和感を感じた。いつもちゃんと片付けているドライヤーやヘアアイロン、香里奈が使っている物がそのまま出たままになっていた。
僕が代わりに片付けながら鏡を見ると、そこには走っている香里奈の姿が写っていた。
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