第46話 もう、静かにしてくれよ!

 僕はいまだに頭が追いついていない。テイムというわけのわからないことよりも、デジタル音がため息を吐いたのだ。


 普段よりも話すデジタル音声にも驚いていたが、ため息をするとは思いもしなかった。


「うぉ!? 今はホーンラビットを避けるのが先か!」


 角を突き出して突っ込んでくるホーンラビット。ゴブリン達もホーンラビットを警戒しながらもジリジリと近づいてくる。


 気づいた時には魔物達に囲まれている。


【テイムしたホブゴブリンに名前をつけてください】


 脳内に直接流れてくる声がさらに避けるのを邪魔している。脳内から直接聞こえてくるような気がするため、耳から入ってくる音より大きいのだ。


 イメージとしては骨伝導に近い。


【テイムしたホブゴブリンに名前をつけてください】


 ゴブリンは大きく腕を上げて走ってきた。僕は少し体の向きを変えてスキル:逃走を発動させる。


 このスキルは追われている時に発動していたが、実際は相手が近づいたタイミングで少しでも背を向けたら発動することがわかった。


 その結果、敵が攻撃したタイミングで一瞬だけ背を向けると、素早く避けることができる。


 目の前にいるホーンラビット2体とゴブリン3体の計5体でも、この方法であればどうにか攻撃を避けることができる。


【テイムしたホブゴブリンに名前をつけてください】


 そろそろ静かにして欲しい。何度も言わなくても名前をつければいいのはわかっている。


「少し静かにしてくれ!」


 思っていたことがすでに口から出ていた。流石に言うタイミングがあるだろう。攻撃を避けたタイミングで隙をついてその場から離れる。


【チッ!】


「おい、今舌打ちしただろう!」


 ただ走っているだけの脳内に舌打ちが響く。明らかに今日の声の主はいつもと別人だ。そもそもどこから聞こえているか、わからない声は担当性なのかも知らない。


 魔物の攻撃に合わせて邪魔をしてくるところが卑怯だ。


【テイムしたホブゴブリンに名前をつけてください】


 僕がその後も何を言うのか待っていると、声の主は開き直っていた。


【テイムしたホブゴブリンに名前をつけてください】


【テイムしたホブゴブリンに名前をそろそろつけろよ】


【おい、ポンコツ! テイムしたホブゴブリンに名前をつけろ!】


 何度も繰り返す名前をつけてくださいとの催促アナウンス。次第に声も荒々しくなっている。


「あー、もう静かにしてくれ!」


【了解しました! ホブゴブリンの名前を"シズカ"で登録します】


「えっ、ちょっと待っ――」


【変更はできません】


 あの見た目で流石に"シズカ"という名前はダメだ。明らかにシズカではない。


 シズカって言ったら有名ヒロインだし、入浴シーンを覗かれるほどのエッチなキャラクターだ。


「シズカってなんだよー!」


 僕はその場で叫ぶと背後に嫌な圧を感じた。この感覚は明らかにあいつの存在だ。


 ゆっくりと後ろを振り返る。


「グギギ!」


 オーガの金棒を持ったシズカがニヤリとこっちを見て笑っていた。その足元には魔法陣のようなものが広がっていた。


 ここに知能が高いホブゴブリンことシズカが誕生した。


 そういえば、あいつホブ・・ゴブリンだったのか。

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