第44話 ストーカー認定
オーガの金棒をどうやって持てば良いのかと考える。そもそも持てないと装備できないし、明らかに今のステータスでは振り回して戦うことができない。今は持ち上げるのに精一杯だ。
きっとスキルとステータスの影響でこの武器も持てるようになるのだろう。
「これは使用者の命を削る武器だな」
肩に乗せようにも、重みで背中に落ちたらホーンラビットの角の部分が背中を刺さるはずだ。
ひとまず両手で持ち手を持ち上げる。先の部分に角が付いていないため、玄関の床を傷つけなくて済みそうだ。
あとはホブゴブリンが出てきたら、武器をぶつければいい。もしくは最悪の場合、秘技"交通事故作戦"が頼りになってしまう。
この間はもうしませんと誓ったが、さっそくやる羽目になるとは思いもしなかった。
僕は玄関の扉を開けて、ゆっくりとオーガの金棒を引きずる。
「グギギ!」
扉の隙間からこちらを覗くのはニヤリと笑うゴブリンだった。
「うおおおおお!?」
驚きのあまり僕はオーガの金棒を落とす。その破壊力は再び玄関の床を削るほどだ。
また家族で何の動物が家に訪れたかという話題になるのだろう。
それにしても前回家の前まで着いてきていたゴブリンは玄関でずっと待っていたのだろうか。それとも、僕がここに住んでいることを覚えていたのだろうか。
後者であればもう逃げることも出来なくなってしまう。確実に今日倒さないといけない相手だ。
しかも、このゴブリンは目の前で交通事故作戦を見ている。そんな相手に武器もなく、作戦も封じられた僕が勝てるはずない。
僕は再びゆっくりと玄関の扉を開ける。
「グギギ!」
やはりゴブリンはこちらを見て笑っている。もうここまできたらストーカー認定だ。
その名も"ゴブリンストーカー"。
扉をチラッと開けてはニヤリと笑う。何度開けてもゴブリンが動く様子はなかった。
それがある意味今の僕にはちょうどよかった。近くにいるなら、この持ち上げられないオーガの金棒でも攻撃できると思ったのだ。
僕はギリギリまでオーガの金棒を扉に近づける。
扉を足で開けたタイミングで、両手で金棒を持ち上げればどうにか当てることができるだろう。
息を整えて両手で金棒を掴む。
「おりゃー!」
扉を開けた瞬間に大きく下から振り上げる。力がない僕にはこれが最後のチャンスだった。
「グギギ!」
だが、無惨にもそのチャンスは失ってしまった。ゴブリンはなぜか少し離れたところで様子を見ていた。
無駄に空振るオーガの金棒。僕の力はそこで抜けて金棒が手から離れてしまう。
その瞬間、遠くにいたはずのゴブリンが走って近づき、金棒を持ち上げてはクルクルと回っていた。
金棒を回していたわけではなく、仲間のゴブリンに見せつけるように回っているのだ。
「あっ……まじかよ」
あんなに重い物を軽々しく持てるゴブリンに勝てる気がしない。そう思った僕はゆっくりと玄関の扉を閉める。
――キィー!
「グギッ!?」
扉を閉める僕の動きに反応したのか、ゴブリンは扉まで走ってきた。古い扉から小さく甲高い音が鳴り響く。こんな時に家の建て付けが悪くなったのを実感する。
重さによる影響で
扉が閉まるまで残り10cm。
僕の方が扉を閉めるのが早かったようだ。
「よかっ――」
とりあえずは作戦を再び考えようと思った瞬間、玄関の隙間からゴブリンの手が生えてくる。
「グァー!」
ゴブリンの叫び声とともに大きく玄関の扉が開いた。数cmの隙間に手を忍び込ませてこじ開けたのだ。
「ああ、終わった」
ゴブリンは再び嬉しそうにニヤリと笑っていた。
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