第39話 思い出の味
僕は妹とともに昼食を食べるために電車に乗った。ランチデートってあえて
そもそもデートをしたことない僕にとっては、どこに行けば良いのかもわからなかった。
「ねぇ、お兄ちゃんっていつも動物に絡まれてるの?」
「動物?」
それは優樹菜と工藤のことを言っているのだろうか。確かにあまり関わってこなかったが、最近やけに絡まれるのは間違いない。
僕が小さく頷くと香里奈は遠くを見つめていた。何かを考えているのか急に静かになる。
「お兄ちゃんって小さい頃のこと覚えている?」
「小さい頃?」
僕の小さい頃は病弱であまり活発的ではなかったし、いつも香里奈と二人でいた記憶がある。途中から香里奈と一緒にいることも減ったが、昔のことだからあまり覚えていない。
「私がいじめられていた時にお兄ちゃんが助けてくれたよね。自分は息をするのも辛いのに、倒れそうになってもみんなにやり返しててさ」
香里奈は笑いながらも昔のことを思い出していた。
僕達兄妹は元々血が繋がっていない。僕は母親の連れ子で、香里奈は父親の連れ子同士の再婚。それがちょうど小学生の時だった。
香里奈の昔のことは詳しくは知らないが、生みの親からは教育だと言われ、必要以上に暴力を振るわれていたと父親からは聞いている。
きっと父親に親権があったのも、その時のことが関係しているのだろう。元々、父親は単身赴任で地方へ仕事に行っていた。
どうしても住んでいる街を離れたくないと言っていた元母親は、香里奈とともに二人暮らしをしていた。
そんな元母親は嫌なことがあれば、香里奈に暴力を振るっていたと父親からは聞いている。
きっと幼少期に色々あったのか、当時初めてあった時の香里奈の印象は、今と真逆で暗く、常に誰かの顔を伺っているような子だった。
母親と僕は二人で話し合い、香里奈のために家族になると決めたのをなんとなく覚えている。
兄である僕が香里奈を守るとあの時決意していた。
「そんなこともあったね。今は僕の方が香里奈に助けてもらってるけどね」
「本当?」
香里奈はどこか嬉しそうだ。僕が今の僕でいられるのも香里奈を含めた家族がなにも言ってこないからだ。
普通であれば学校を休んでいたら、何か言ってくるはず。
それでも両親はいつも通りだし、香里奈に関しては心の支えになってくれている。
あの時とはいつのまにか立場が逆転していた。
「あっ、お兄ちゃんお店に着いたよ」
「ここって……」
「昔から私達が行っているお好み焼き屋さんです」
街中で電車を降りるのではなく、家から最寄駅で降りたのは疑問だったが、いつのまにか家の近くにある"お好み焼き屋"に連れていかれていた。
お洒落なお店に行くのかと思っていたため、どこかホッとする。
小さい頃は共働きの両親の代わりに、よく香里奈と二人で食べに行ってたのを思い出す。
久しぶりにお店の扉を開けると、恰幅が良いおばさんが元気に今も働いていた。
「いらっしゃ――香里奈ちゃんと健くん?」
「あっ、おばさんお久しぶりです」
ここのお店をやっている夫婦は僕達にとっての第二の両親と言っても良いぐらいだ。
僕が中学生になってからは、お店に来ていないため五年以上は経っているだろう。
「いやー、あなた達こんなに大きくなっちゃって!」
必要以上に僕の体を触るおばさんに圧倒されながらも、案内された先に座ると早速おばさんが声をかけてきた。
「昔みたいにスペシャルデラックスでいいのかな……?」
「私達の思い出の味が食べたくて来たんですよ」
「じゃあ、大きくなった二人のためにお好み焼きも大きくしておくわね」
おばさんはメニューを奥にいる店主に伝えに戻っていく。
決して綺麗とは言えない店内。少し油っぽい店内に香里奈の存在が若干浮いてしまう。
「こんなお店でよかったのか?」
「私はここが良かったんだよ。私が変わろうと思った思い出の場所だもん」
「香里奈は昔から変わらないよ」
「ふふふ、お兄ちゃんはいつもそうだったね」
僕達はお好み焼きが焼けるまで、たわいもない小さい頃の思い出話に花を咲かせる。
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