第26話 殺人鬼

 手に持っている気持ち悪い首飾りは、ギョロギョロと僕の方を見ている。早く装備しろと言っているような眼差しだ。


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[装備品] ゴブリンの首飾り(装飾品)

効果 精神異常の付与

説明 ゴブリンの瞳で作られた首飾り。付けた者に精神異常を付与する。


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 スマホに映る装備の詳細情報に息を呑む。やはり呪いの装備だった。あの時、装備しないほうが良いと咄嗟に判断できた自分を褒めたい。


「お前は今日も留守番だ」


 再び下駄箱の上に置くと、どこか寂しそうに僕を見ていた。目だけなのに感情が伝わってくるのは、精神異常を起こすほどの精神干渉系の装備だからだろうか。


 一方、薬草や何に使うかわからないゴブリンの耳にもQRコードがないか探すが何もなかった。


 薬草の効果や副作用も気になったが、一番は人間の耳に似ているゴブリンの耳を処分したかった。


 処分の仕方もわからないゴブリンの耳はそのままにして、持てるだけ薬草をズボンのポケットに詰める。


 あのゴブリンに会ったら、命が何個あっても足りないだろう。


 扉に手を掛けてゆっくりと外の様子を確認する。


 鏡の世界は基本的に暗いことが多かった。今日も夜中の二時に鏡の中に来たはずだ。しかし、今日に限っては完全に日が出ている朝だった。


「眩しい……」


 急な眩しさに僕は目を閉じる。


 近くにいるゴブリンも眩しいのか、ふらふらとしている。


 夜盲症とは反対に明るいところには目が反応しないのだろうか。


 僕はゆっくりと近づき、胸元にホーンラビットのトングを突き刺す。


【クリティカルヒットしました!】


 心臓を狙った一撃は見事クリティカルヒット判定され、ゴブリンはそのまま倒れる。


 ゴブリンが倒れた音に反応して、周囲からゴブリンが走ってきた。流石にあの人数を相手することはできない。


 僕は背を向けて足に力を入れた。


「うぉ!?」


 普通に出した一歩は大きく速かった。そのままの勢いでスムーズに足が出て行く。スキル"逃走"が発動しているのだろう。


 急に速くなる足につい転びそうになってしまう。そして、だんだんとゴブリンとの距離は遠くなっていく。


「おいおい、あいつらを連れて行かないと意味ないじゃん」


 ゴブリンに追いかけられたら交通事故作戦をするつもりだった。だが、ゴブリンが追いついて来ないのだ。


 意外に便利だと思ったスキルだが、コントロールしにくいのなら使えないようだ。


 僕は向きを変えてひっそりと隠れる。


「グギギ!」


 やっと追いついたゴブリンは僕を探していた。しかし、目がうまく見えていないのか、周囲をずっとキョロキョロしている。


 僕は近くにいるゴブリンに近づき、再び胸にトングを突き刺す。


「あれ?」


 たしかに心臓を狙ったつもりだが、デジタル音は流れて来ない。


「グギャ……」


 ゴブリンはまだ生きているようだ。トングを抜くと、ゴブリンの胸に向かって再び刺す。


【クリティカルヒットしました!】


 やはり運要素が関わっているのだろう。多少の狙いはDEX器用さとかで補正されていそうな気もするが、LUKがクリティカルヒットに関係しているのかもしれない。


 どちらにせよクリティカルヒットを狙うには両方上げる必要があるということだ。


【デイリークエストをクリアしました】


 その後もゴブリンを駆り続けると脳内に流れるデジタル音からクエストの終了が知らされた。あのゴブリンに出会わなければ問題はない。


 クエストを終えた僕は自宅に戻る時にあることを思いついた。


「そういえば、家の中にいたらみつからないんじゃないか?」


 前回、家の中に鉄パイプが入らないと感じたゴブリンは僕の頬に掠れるように投げていた。


 ゴブリン達も家の中に入って来れないのを利用すると、家の前に集まったところを隠れて倒せば良いのではないかと思った。


 過去にホーンラビットをたくさん狩った時に称号がもらえたことを思うと、クエスト以上に倒しても問題はないだろう。


 その後も僕は家から出て、ゴブリンを背後からトングで突き刺しては、逃げて隠れるという殺人鬼のようにゴブリンを狩り続けた。


 その姿はもはやどちらがゴブリンかわからないほどだった。

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