第25話 謎の模様

 あれから僕は少し鏡の中に行くことを止めている。あの動画に現れたゴブリンに遭遇したら生きていける気がしないからだ。


 決して鏡の中に行くことを諦めたわけではない。あいつに遭遇した際に倒す方法を考えていた。


 今ある装備品はホーンラビットのトングとゴブリンの首飾り。首飾りは武器ではないため、使えるのはトングしかない。


 そもそも武器がトングしかないのもおかしい。トングって料理の取り分けか調理道具だ。それを使って刺して戦うとか頭がおかしい人だろう。


 僕はスマホを開き、ゴブリンについて調べた。


 一般的にゲームや小説に出てくるゴブリンは人型で頭が悪い魔物モンスターと書かれていることが多かった。


 現実のあいつらが頭の悪いような気はしない。むしろ人を襲おうとする本能に関して、頭が悪いと言っているのだろうか。


 また、ゴブリンの構造だが人型なら頭蓋骨に覆われていると思ったが、頭にトングが刺さったことでさらに構造がわからなくなった。単に頭蓋骨が柔らかいのか、ホーンラビットのトングの殺傷性が高いのか。


 このことからやはり狙うなら、胸が一番的確なんだろう。


 僕はその後もゴブリンについての情報を探した。


 だが、有能な情報はなく、どこを見ても雑魚キャラ扱いとなっていた。結局はあのゴブリンに会わないように行動するしかない。そう思った僕は鏡の世界に行くことにした。


 いつも通りにステータスポイントを振り分ける。今回はHP体力STR物理攻撃力AGI素早さに1ポイントずつと幸運の持ち主によるLUKの計4ポイント。


【本日のクエストはゴブリンの討伐です】


 やはりゴブリンの討伐は変わらないようだ。そして、表示されるクエスト。


「あれ? 数が多いだけで今回は普通なのか」


――――――――――――――――――――


【デイリークエスト】

[クエスト名] ゴブリンの討伐

[討伐数] 10体

[制限時間] 3時間


――――――――――――――――――――


 前回が鬼畜クエストだったからか、3時間もあると余裕を感じてしまう。最悪また車に轢いてもらえばいい。僕はそう思っていた。


 今回も下駄箱に戻ってきたホーンラビットのトングを手に取ると、どこか違和感に気づく。


「あれ? こんな模様あったか?」


 トングの持ち手の裏にある黒い模様。どこかで見たことあるような気もするが、小さくて汚れているようにしか見えない。


 拡大するためにスマホをかざすと、なぜか画面が勝手に切り替わる。


――――――――――――――――――――


[装備品] ホーンラビットのトング(武器)

効果 DEX器用さ+5

説明 ホーンラビットの角でできたトング。トング本来の役割を忘れた可哀想な作品。ちゃんとした目的で使えるようになった頃には器用な人になるだろう。


――――――――――――――――――――



 武器の詳細がスマホの中に表示された。


 ホーンラビットのトングはSTR物理攻撃力を上げるのではなく、DEX器用さを上げる武器だった。


 いつものようにホーンラビットのトングを装備すると、どこか器用になった気がするのは気のせいだろうか。


 準備ができた僕はスマホをテーブルに置いた。しかし、画面に手が触れていたのだろう。いつのまにかスワイプして画面が切り替わっていた。


「ここで確認ができたのか」


――――――――――――――――――――


《ステータス》

駒田 健 Lv.9

[能力値] ポイント0

HP体力 20

MP魔力 17

STR物理攻撃力 18

INT魔法攻撃力 0

DEF物理防御力 10

RES魔法防御力 0

DEX器用さ 18  (装備品+5)

AGI素早さ 15

LUK 2

[固有スキル] キャラクタークリエイト

[スキル] 逃走

[称号] ホーンラビットの殺戮者

    幸運の持ち主


――――――――――――――――――――


 スマホに映る画面は見慣れた数字達。現れたのはステータス画面だ。


 ステータスは今までキャラクタークリエイトをするときか、現実世界に戻る時にしか見えなかった。それがまさかスマホで見られるようになるとは思いもしなかった。


 一度スマホの画面を閉じて再び開くが、アプリやネット履歴を探しても同じ画面が表示されることはなかった。


「さぁ、行こう――」


 次こそ外に出ようとスマホを下駄箱に置く。だが、やつらの視線が気になって仕方ない。


 今すぐ俺らも見ろと言われているようだ。


 こっちを見ていたのはゴブリンの首飾りだった。せっかくなら首飾りの裏側を覗く。


「うぁ!?」


 赤い瞳一つ一つを埋め尽くすほど模様が書いてあった。


 よく見るとそれはただの模様ではなく、埋め尽くされたQRコードだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る