第14話 ゴブリンの正体

 僕は新しい討伐対象であるゴブリンを倒すために、まずは外から奴らの存在を確認することにした。ただ、いつもと違うことにふと気づく。


 ホーンラビットの討伐の時は夜中だったからか、時間の経過とともに、外の明るさは変化していた。だが、今回に限っては違うようだ。


 鏡の中に入ったのが昼間だったはずなのに、外は夜中のように真っ暗だ。


「いつもより暗い気がするな」


 しかも外は普段よりも暗くなっていた。いつもはなんとなく外の様子が分かる程度だったが、今日は暗闇過ぎて、敵がいるのかもわからない。


 ホーンラビットが近くにいるのかもわからないのだ。


 部屋から明かりとなるスマホを取りに行き、いつも通りに外をライトで照らして確認する。


 この明かりに反応してホーンラビットが近づいてくるはずだ。


 僕は隠れて奴らがやってくるのを待った。


 ペタペタと鳴る足音は何かが近づいてくるのが、はっきりと分かるほどだ。


 僕はゆっくりと窓から覗くように顔を出した。


 だが、やってきたのは違う奴らだった。ホーンラビットとは異なる人型の形をしていた。何かを探しているのか辺りをキョロキョロと見ている。


 きっとあれがゴブリンなんだろうと直感で感じた。


 ゴブリンだと思われる存在はスマホの明かりに気づき近づいてくる。


 赤く光る目は獲物を探しているのだろうか。


 目の前に来たゴブリンの顔を見た瞬間、僕は震えが止まらなかった。


「なぜあいつらがここにいるんだ」


 ゴブリンを見て、初めて出てきた言葉だった。


 体格は小学生ぐらいで、小さく特徴的なのは赤い瞳と緑の肌だった。


 アニメやゲームで出てくるゴブリンとさほど変わりはなかった。


 だがそれよりも問題だったのがやつらの顔だ。


 僕をいじめてきたクラスメイトの顔に似て――いや、似ているどころか同一人物に見えるほどだ。


 吊り目で人を馬鹿にしたような視線を向ける植村悟史と顔が濃くどことなくゴリラっぽい工藤海。


 その二人と同じ顔をしたゴブリンが数体集まっていた。


 急いでスマホの明かりを消すと、赤く光った瞳だけが宙に浮いている。


 全部で8つの赤い瞳が瞬きをしながら動いていた。


「あいつらを倒さないと元に戻れないってことか」


 次第に頭の中は冷静になってくる。人間に似ている容姿だが、あれが今回の討伐対象だ。現実の世界にいるあいつらではない。そう思うことで体と心が軽くなってきている気がした。


 再び窓から覗くと赤い瞳が浮いている。顔が見えない分、どこにいるかが分かれば倒しやすい。


 僕はホーンラビットのトングを片手に玄関の扉を開けた。ポケットにはこの間手に入れた薬草を詰めている。


 手に持った時に薬草と表示されていたが、効果まではわからない。


 一般的にゲームの中と同じ薬草であれば回復アイテムだが、明らかに雑草のような草を食べる勇気は出ない。


 むしろゲームのキャラクターはどうやってこの薬草を食べているのか気になるところだ。


 ゆっくりとゴブリンに近づき、僕はホーンラビットのトングを全力で刺した。手に感じる感触もゴブリンの体にトングが刺さったと思った。


 だが、目の前にいるゴブリンは声を出して笑っていた。


「えっ!?」


 次の瞬間、腹部に強い衝撃を受ける。あまりの痛みに視界に火花が飛び散る。


 僕が気づいた時には庭から敷地外へ押し出されていた。


 さっきまで握っていたトングは手元には無くなっていた。辺りも暗いためどこにあるのかもわからない。


 ただ、分かるのはこっちに近づいてくる赤く光る瞳のゴブリンだけだ。


 家の場所は把握しているため、中に入ろうとするが、ゴブリン達が道を塞いで入ることができない。


 きっとあいつらに似た顔で、僕のことを見て笑っているのだろう。


 鏡の世界に来てまで僕は負け組だ。きっと一生変わることのない自分に嫌気が差し僕は再び逃げ出した。


 さらに辺りは闇に包まれ、聞こえるのは僕の鼓動と足音だけだった。

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