11. 硝子と植物

そと、香りに潮目あり、先日思うに春が来た。

桜、開き、月光、冷まし、あるくあるく。

幾度も春は来たけれど、夏を夢見て逃していた。

冬はもう忘れただろうか。

夏を知っているだろうか。

ぬるい風が頬を染めたら恋の季節かもしれない。

周りに倣って、ね。


ひどい夜桜に轢かれて寝ていたのさ。

気づけば深緑に覆われていた。

蔦が四肢に絡んでエロい。

肌は透き通り目はきらり。

宝石のような毛虫が這う腹に舌をつける。

毒針を味わってのみ込んで夏が来てくらり。

君を観て指噛んでふたりしてゆらり。

ガラスの空を見上げれば温室の音がふと消える。

どうしたってここにいる。

濡れた胸に葉の雫が当たるとき、気づけば夏は終わっていた。


二つの季節をだましだまし。

水面に吹く風、神の霊を散らし奔りすらり。

星の間にゆられることを忘れたのだろうか。

盲目馬陸もうもくやすでの体は透き通り、なき月明りに満ちとろり。

怖いことなんて何もない。

君の顔が幻に過ぎないのだとしても。

写る笑顔の眩しさに、悠々恋々と煙り落ち涙。

声木霊して息はいて妙。

凡ては奇妙に踊り歌い喜々。


抱きしめて時過ぎて一人笑う君は霊。

わたしみちて雪おちて舌とかす君に礼。

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