第65話 火球


高架上にある新幹線の路線上に能力者が現れた。

緊急停車している新幹線の脇を進行方向から歩いている。

その姿を見てたルミと目が合い、能力者はルミを視認した。


奴は必ずここに来る。


「柚子、何か顔を隠せるような物はある?」


「ちょっと待ってろ」


自分のバッグをガサガサして取り出したのが丸メガネにちょび髭がついてるおもちゃの眼鏡だった。


「何でこんな物持ってるんだ?」


「パーティーするかもしれないだろう?」


パーティーしたってそれは使わないと思うけど。


「ほら、3人分あるぞ」


ルミは嬉しそうにその眼鏡をかけた。

俺は、柚子が何で3人分も持っているのか疑問だらけだ。


『緊急連絡です。新幹線全方で車両火災が起きました。乗客の皆様は慌てずに後方の車両に移りドアから速やかに駅に降りて下さい』


この新幹線は、緊急停車した時に全方部分は駅のプラットフォームからはみ出している。


ドアを開けても駅に降りれるのは後方の3車両だけだ。


その放送を聞いた前の車両に乗っていた人々がこの車両に流れ込んでくる。


楓さんが誘導しようとしたが、流れ込んでくる人々に追いつかない。


「煙が流れ込んできたぞ」

「早くしろ!」

「逃げろーー!後ろに逃げるんだあ!」


乗客の声が響き渡る。


「楓さん、誘導は無理だ。逃げてほしかったけど、少し付き合ってね」


楓さんを巻き込みたくはなかった。

知られたくもなかった。俺は覚悟を決めて力を使った。


【石弾】


能力を使い新幹線の窓を破る。


【風力操作】


風を操り煙を外に排出する。


「拓海様……」


「ごめん、黙ってて。後でちゃんと説明するから」


「ルミ、悪いけど一緒に来てくれる?俺、水系はないからルミの氷結で火を消してほしい」


「わかった」


「たくみ、私も行くぞ」


「わかってる。柚子はルミの護衛をお願い。俺は大丈夫だ。それと、楓さんには乗客の避難と後始末をお願いするよ」


「はい、わかりました。ご武運を……」


「じゃあ、行くか」





「ははは、燃えろーー!」


警察は物足りない。

自衛隊も来たが、機関銃は痛かったが傷が少しついただけだ。

でも、ロケットランチャーや戦車はマズい。

あれを喰らったら少なからず治療をしないとマズい怪我を負う。

だから、走ってその場を逃げ出した。

だけど戦車を一台燃やしてやったぜ、わははは。


俺のスピードに追いついてくる奴はいねえ。

だが、方角がよくわからねえ。

東京はどっちだ?


そんな時トンネルがあった。

俺はトンネルの中を走った。


そして、陽が当たる場所に出るとそこは線路だったようだ。

しばらく歩いて行くと新幹線が止まってるじゃねえか!


「あの新幹線に乗ればどっかに行けるはずだ」


しばらく新幹線の脇を歩いてみても乗れる場所がねえ。

向こうに駅があるからそこから乗るか。


すると、窓から俺を見てる女と目があった。


「あは、俺はついてるぜ!あいつは施設にいた小娘だ。ナンバー、そんなのは知らねえ」


ということはこいつが走ったら逃げられちまうってことか!

エンジンはどこについてんだ?

きっと前側だろう。

だから、俺は一番前に戻り、その車両に火炎を放ってやった。





前の車両の乗客が殆ど逃げた後に悠々と歩いてくるやつを見つけた。

服はボロボロだが、怪我をしてる様子はない。


「はは、出迎えてくれたのか小娘。何だそのチンケな眼鏡は?」


「パーティーグッズ」


「はは、最高じゃねえか!パーティーか。そうだな。派手に騒ごうぜ!」


「うるさい奴だな。少しは静かにしろ!」


「てめえ、誰に口聞いてんのかわかってんだろうなぁ?」


「バカで取り返しのつかないアホのAー4だろ。よく知ってるぞ」


「はは、おめーも施設の出か。だが、見たことねえ。エースナンバーなら大概知ってるんだがなあ。お前は弱っちいBかCだろ?」


「俺はよく知ってるぞ。幼稚園の時に好きだったのにいじめてた美代ちゃんのこともなあ。構ってもらいたくて虐めてたのに本気で好きになってくれると思ってたバカだよな。施設の連中に攫われて後、美代ちゃんはきっとお前が居なくなってせいせいしてると思うぞ。それに、施設で大暴れして能力が暴走して火だるまになったっけな。あれは傑作だった」


「てめえー何でそんな事まで知ってんだあ?」


「誰が教えてやるものか。でもお前が死んだらわかるかもな。バカは死ななきゃわかんねぇって言うしな」


「もう、許さねえ。てめえはここで死ね!」


奴の手から火炎が噴き出た。


【バリア】


前面にバリアを展開する。火は行き場をなくして逆流し始めた。


「うおー、てめえ何しやがる!」


狭い新幹線の中で火炎を出すから、火はAー4の元に逆噴射したのだがその火は列車内のシートに燃え移った。


「ルミ、頼む」


「うん、凍って」


静かな言葉と共に冷気が列車内を吹き抜け燃えていた火は消えシートは凍りついた。


「ルミ、凄い」


柚子は初めてルミの能力を見て素直に感心してた。


「ちっ!そういえば小娘は氷だったな。じゃあこれはどうだ」


そう言ってAー4はその場から消えた。

いや、物凄いスピードで俺を殴りに接近しただけだ。


奴の拳が俺の顔面を狙う。

俺はその拳を左手で掴んだ。


「なに!」


「お前の能力は俺の能力でもある。そういうことだ」


手を掴んだまま、腹に思いっきり蹴りを撃ち込んだ。

その瞬間に手を離したらAー4は先まで吹っ飛んで行った。

激しい破壊音が響き渡る。


「死んだ?」


「これくらいで死なないよ」


「油断するなたくみ。お前が強いのは何となくわかっていた。だが、実戦はなにが起こるかわかないぞ」


確かにその通りだ。


「ここから先はルミには見せたくない。だから俺だけ行って来る」


「私も行く」


「ルミは火災を消しといてくれる。すぐ戻ってくるから」


俺は何も言わない柚子を見て目でルミを頼むと合図した。

柚子は黙って頷いた。


俺は瓦礫に埋まり、そこから出ようとするAー4の手を掴み【転移】した。





真っ青な世界に白い雲が遥か下の方に広がっている。


「テメー何をした」


落下をし始めたAー4は、地に足がついていないことをやっと悟ったようだ。


「空の散歩だよ」


「は、何が、まさか転移か?」


「正解だ」


「それはAー8の能力だろう?」


「そうだ。言っただろう。お前の能力は俺の能力でもある。そして、治療したAー8の能力も俺の能力だ」


「治療だと!お、お前はまさかCー46」


「死ぬ前にわかってよかったな。今度はあの世で逢おうか。でも、お前は地獄行きだし無理だな」


「まてーー!このやろーー!!」


奴が何か叫んでいたが、俺は元いた新幹線に転移したのだった。



その日のニュースで、新幹線の車両火災と空から火球降ってきて山に落ちたという話がテレビで放映された。





「タクミ」


新幹線に戻った俺はルミに抱きつかれた。

柚子は安堵したように大きな息をはいた。


「ご飯泥棒は?」


「星になったよ。もうすぐ見えると思う」


「たくみ、後で説明してもらうぞ」


「ああ……」


その後の言葉は濁らせた。


「星は怖いから見たくない」


「その星じゃなくって流れ星だよ。西側を見てご覧。そろそろ降りてくるから」


新幹線の窓から西の空を見る。

すると、綺麗な火球が山に向かって落ちてきた。


「な、まさか!」


柚子は気づいたようだが、俺は何も言わない。


その火球は山に落ちたようで、少し煙が上がったのだった。


「綺麗だった」


「そうだろう。命の輝きは綺麗なんだ」


俺の言葉に柚子は黙ったまま震えていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る