第57話 出禁


警察に連行されたが、俺と柚子は直ぐに返された。


俺には監視してる国の人がいるから事情はそちらから聞くのだろう。

 

楓さんは仕事で出かけてるらしく、迎えには恭司さんのお姉さんの春香さんが迎えに来てくれた。


帰りの車の中で、春香さんは柚子と話してる。


「柚子の敵じゃなかったろうけど、実戦は何がおきてもおかしくない。油断せずに戦えたか?」


「はい、たくみの事が気がかりだったけど、おじいちゃんに鍛えてもらっているようで安心して背中を任せられたし、気兼ねなくぶっとばせました」


「そうか、拓海、今度私と立ち会い稽古するぞ。修造さん直伝の体術を見せてみろ」


少し興奮気味の春香さんは楽しそうに話す。


修造じいさんからはスカートめくりと盗撮しか聞いてないんだが……


「そうですね。時間があったら胸を貸して下さい」


「わたしの胸に興味があるのか?いつでも貸すぞ。ほれ」


そういう意味じゃないのだが……


「は!このエロたくみ!またメス猫と盛るつもりか!」


柚子の反応もおかしいよね?

意味わかって言ってるんだよな?


そうだ、この人達は脳筋集団だ。

恭司さんだって話通じないじゃないか。


「違います。胸を貸して下さいって言ったのはご指導お願いしますという意味で」


「勿論、知ってるぞ。拓海の反応が見たかっただけだ。うちのバカ弟と同じ反応するし、まだまだ修行が足りないぞ」


からかってたのかよ!

それに恭司さんと同じ反応って、なんかやだな。


そう思いながら、走る車の窓から外を見るのだった。


曇った空から少しずつ雨が落ち始めてきた。





「脆いな、人間っていう奴は」


民家に押し入り、好き勝手にしてるAー4号こと斉藤炎次は、小さな頃Cー46号こと蔵敷拓海の治療を受けた事がある。


能力が暴走して全身火だるまになったが拓海の治癒の能力で治ったのだ。


「あいつは普通に暮らしてるらしいし、BOSSからは接触禁止を言われてた。あいつの能力は今後役に立つ。絶対手に入れるぜ」


暴力によって支配して、この世界を好き勝手に生きる。それがAー4号、斉藤炎次の目標だ。


「BOSSはあまちゃんなんだよ。力は奮うためにあるんだぜ」


足下には、人間だったモノが倒れている。


「これで金も手に入れたし、東京に行くとするか」


今まで人里離れた民家ばかりを襲ってきた。家に置いてある金がほとんどなかったので、集まるまで犯行を繰り返してきた。


だが、やっと100万ほど貯められた。

あとは、この金でしばらく遊んでから仲間を暴力で従えて資金を調達すればいい。


斉藤炎次は施設に入れられて、まともな教育を受けていない。


BOSSのもとで勉強したが、つまんねーからすぐ飽きた。


「さて、駅の方に行くか」


車の運転も自転車にさえ乗る事が出来ない斉藤だが、身体強化を使い走れば車並みのスピードがだせる。


こうして、暴漢がひとり東京に向かって行った。

 



 

「先輩、どうですか?ここのカレー結構いけるでしょう?」


私こと樺沢沙織は、先日初めてギックリ腰というどうしようもなお激痛の病?怪我?を患った。


原因ですか?

ちょっと横着して、無理な体制で冷蔵庫を開けようとしたからです。


その時、先輩に助けを求めて迷惑をおかけしたので、お礼にご馳走しようとしたのですが、先輩は


「梅雨にはカレーだろ!」


と、理解を超えてる返答を聞かされたので、友達のみっちょんと一緒に来て美味しかったカレー屋さんに今来ています。


「おーーうまい、うまい」


先輩の食べ方は豪快ですが、食事をこぼすわけでもなく、口を開いたまま会話するわけでもない、とても品の良い食べ方をします。


「スプーンの使い方がうまいですね?」


「あ?スプーンに使い方なんかあるのか?箸ならわかるが」


「それがあるんですよ。でも、先輩は合格です」


細かいことだが、スプーンですくうのは2/3程度に抑える。

スプーンをふーふーして冷ますのはNG

音を立てる。これは食べ方ですかね。

その他にもあるようですが、スープやパスタの時に適用されるみたいです。


そんな先輩は、育ちがいいのか、親の教育が良いのか、「うまい、うまい」と言いながら綺麗な食べ方をします。


そんなところも好感度アップです。


「誰かに教わったのですか?」


「ああ、姉貴がそういうことうるせーんだわ。きたねー食べ方すると食う気無くなるとか言って鉄拳が飛んできたりしたぜ」


「お姉さんの教育の賜物なんですね。一度お会いしたいです」


「やめとけ、やめとけ。筋肉ゴリラだし沙織なんか抱きつかれてまた腰痛めるぞ」


「ギックリ腰は二度とごめんです。なら諦めましょう」


「そうした方がいい。特に姉貴は可愛いものが好きだから沙織なんて格好の餌食になる未来しか見えねえ」


え!?それって、先輩が私の事を可愛いって思ってるってことだよね?


「それなら、是非お会いしたいです。腰痛めたら拓海くんにまたマッサージしてもらいますから」


先輩の身内に好かれて外堀からじわじわと先輩を堕とすつもりです。

だって、先輩アホだし、私が好いてることすら気づかないのですから。


食べてる時に先輩のスマホが鳴った。


【拓海が警察に連行された。私が迎えに行く】


「はああああああ!?何やってんだ、アイツは!!」


急に先輩が大声を出すから、店の中は他の客が驚いて食べ物ぶちまけるわ、店の人は運んでいた食事を落とすわの大惨事になってしまった。


「あわわわわわ、どうしましょう?」


慌てている私を見て先輩は、


「何があったんだ?店ん中、カレーがあちこちに溢れてるぞ。もしかして、う〇こか?」


「先輩、それNGです!」


こうして、この店を出禁になった私達だった。





警察から春香さんに自宅まで送ってもらい、やっと落ち着いたのでスマホで近くの山を探していた。


「どこがいいんだ?富士山?奥多摩の高尾山……う〜〜ん迷うなあ」


電車で行けて、頂上まであまり疲れない初心者向きを探す。


「筑波山か、これなら秋葉原から電車とバスを乗り継いで行けそうだ。頂上まではケーブルカーやロープウェイで行けそうだし良さそうだな」


一応、筑波山を第一候補としてアンジェやルミに聞いてみよう。


夕食ができたと坂井さんが呼びに来たのでリビングに行くと渚と陽菜ちゃんがいてお手伝いをしていた。


「茜さんは楓さんとお仕事だっけ?」


「そうなの、今日は遅くなるんだって」


「陽菜もお手伝いしたんだよ。誉めて」


「渚も陽菜ちゃんもありがとう」


そう言いながら陽菜ちゃんの頭を撫でると渚まで頭を出してきた。


同級生の頭を撫でるって、抵抗あるのだが……


仕方なく頭を撫でて、さっさと夕食を食べよう。


「拓海さん、明日香様が来週こちらに遊びにきたいそうです」


「構わないけどまだ学校じゃないかな?」


「金曜の夜について土曜日は原宿に行きたいそうですよ。欲しいブランドの服がそこしか売ってないそうなので」


「そうなんだ。女の子はおしゃれだね」


「明日香ちゃん来るの?私も一緒に行くぅ」


竜宮寺家に来た時二人は仲良しになった。

今でもメッセージのやり取りをしてるらしい。


「そうだね。一緒に行こうか?」


「拓海くん、私も試験終わった後だし暇なんだけど」


「そうだね、渚も行くか。ルミはどうする?」


「人多い?」


「土曜の原宿といえば混んでるだろうね。最近は外国の人も多いし」


「じゃあ、行かない」


「え〜〜っ、ルミちゃんも一緒に行こうよ。きっと楽しいよ」


「楽しいの?」


「うん、美味しいものもあるしね」


ルミは迷っているようだ。

楽しいって言葉に反応したのは、俺達がそれを探そうと言ったからに違いない。


でも、土曜日の原宿に行くのはどうなんだ?

少し不安なのだが……


「陽菜、無理矢理はダメだよ。ルミちゃんにはルミちゃんのペースがあるんだから。ルミちゃんも今返事することないんだよ。行けそうなら行けばいいし、今回はパスするなら、また今度行けばいいんだからね」


「わかった、少し考える」


周りをよく見てる渚らしいアドバイスだ。

こういう時、柚子は静かだよな。何してんだろう?


見たら春巻きを食べてました。


「じゃあ、上の階を掃除しときませんとね」


「上の階って?」


「陽菜ちゃん、それはね。ここ28階と29階、そして30階は竜宮寺家の別邸になってるんだ。俺達は28階を借りてるけど、29階と30階は空いてるんだよ。家具とか全部揃ってるし少し掃除をすれば生活できるようになってるんだ」


「凄い。タワーマンション上の階を抑えてあるなんて、竜宮寺家って改めて凄いと思ったよ」


渚の言葉に何故かドヤ顔の柚子は、今度は焼売を頬張っている。


ドヤ顔してもそこは柚子の家じゃないからね。


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