第54話 カラオケ
『お昼のニュースです。麻薬取締法違反として家宅捜査を受けている宗教団体アペイロス教団ですが、他にも学生を狙った強引な勧誘で被害者が多数出ている様子です。
〜〜
先程入ったニュースですが福島県の◯◯市で老夫婦が住む住宅で火災がありました。既に鎮火されていますが、中から身元不明の二人の遺体が見つかっています。この家に住んでいた住人との関連性を調べているそうです。
〜〜
「割と近所だわ、怖いわねえ、火だけは気をつけないとね」
ニュースを見ながらお煎餅を食べていた主婦の遠藤信子は、お茶を入れ直す為に台所に行った。ニュースを見て火の元が気になったことも重なった。
だが、そこにはどこから入って来たのか見知らぬ男が冷蔵庫を漁っていた。
『だ、誰?』
その言葉の後は続かなかった。
悲鳴をあげるその前に信子は意識を永遠に失った。
☆
「こいつは、ただの焼死体じゃねえな」
「ええ、頭が無いですもんね」
火災現場から焼死体が発見され現場に駆けつけた警官から連絡を受けてその現場に駆けつけた二人の刑事は、遺体を見てすぐに殺しだと判断した。
「殺した後に火をつけたのでしょうね」
「おそらくな。司法解剖に回さねえと詳しいことはわかんねーがな」
この焼死体を見て、思い出したように若い刑事が言葉を発した。
「そう言えばこの間、山形県でも頭がめちゃくちゃな死体の事件がありましたね。山際に一人で住んでた老人みたいですが、訪れた訪問介護の人が第一発見者の」
「ああ、あったな。あの時火災は起きてなかったが、冷蔵庫の食料がなくなってたらしいし、金目の物も盗まれたらしいぞ。強盗殺人として捜査してるはずだ」
「火災以外は似てますねー、少し調べて協力を仰ぎます。もし、犯人が強盗殺人を繰り返しているなら、移動している可能性があります。方角的に関東に向かっていそうですね。連携が取れるように注意喚起をしておきます」
「頼んだぞ」
このまま終わるとは思えねー。
刑事を長年してきた男はそう呟いた。
☆
英明学園1年3組の高校生、山川相馬、海川翔、沼川仁志は駅前のロータリー付近で今回の合コン相手を待っていた。
「なかなか来ねえな」
「騙されたんじゃねえ?」
「先輩の紹介だ。あの人がそんないい加減なことをするとは思えない」
すると、駅とは反対方向の方角から女生徒がひとりやって来た。
「ごめん、遅くなったわ、まったあ?」
制服を着崩し、胸をはだけミニスカートにしてるその女性は、男好きする身体をしている。
容姿も誰でも振り返るような美人ではないが、普通の上ぐらいの顔立ちをしていた。
「そんなに待ってないよ。それより君ひとりだけ?」
「まさか、友達んちに居て待ってるから呼びに来たんだ。マンションだけどそこでいいよね?お菓子もジュースも用意してあるから」
男子高校生3人は歓喜した。
面倒な会話や口説くことをしなくてもなす事ができると。
「全く、問題ないよ、なあ?」
「「ああ」」
他の2人に同意を得て、男達はその女性の後をついて行ったのだった。
☆
学校の帰り道、俺と三人の女子はカラオケに来ている。
というのもアンジェが最近できた友人、森元莉里さんとカラオケに行く約束をしたらしいのだが、行ったことがないので事前に行ってみたいと言ったからだ。
「へ〜〜こうなってるんだあ。たっくんは来たことあるの?」
「ないよ。俺も初めてだ」
おれにはこういう場所には縁がない。
「私は何度も来てるよ。みんなに教えるね」
友達の多い社交的な渚らしい発言だ。
「私も来たことはあるが、身内とだけだ」
最近、このメンバーでは猫かぶりをやめた柚子がそう言う。
付き合いの多い渚は、こういう場所には慣れてるようだ。
柚子は家族と来たのかな?
修造じいさんがひとりで盛り上がってる場面が目に浮かぶ。
「このタッチパネルで曲を選ぶんだよ。アンジェちゃん、何か入れてみる?」
「う〜〜、歌をあんまり知らないんだよね。今流行りの歌なんて特にわからない」
「知ってる曲でいいんだよ。流行りの歌じゃなくて大丈夫」
アンジェが選んでいるうちに柚子が曲を入れたらしい。
厳粛な音楽に合わせて画面には綺麗な桜が咲き誇っている。
そして、柚子が歌いだすとコブシの効いた高音が室内に響いた。
「わあ、柚子ちゃん、上手!」
「雰囲気に合ってるわねえ」
「確かに、この曲演歌だろう?上手いなあ」
そして、曲調が変わりリズミカルな感じとなった。
「私も何か歌おうっと」
渚は、直ぐに曲を入れた。
俺はよくわからないのでコーヒーを飲みながら柚子の歌を聴いてる。
アンジェは、少し迷ってたみたいだが、曲を入れたようだ。
「はい、たっくんも何か歌いなよ」
「そうだけど……」
歌らしい歌など知らない。
俺は恭司さんがダウンロードしてくれた曲を探してみよう見真似で入れてみた。
柚子の歌が終わった。
曲の採点が始まり『98点』という高得点を叩き出した。
「「「凄い!!!」」」
みんな拍手で応えた。
恥ずかしそうにしている柚子は今まで見たことない表情を浮かべていた。
「次は私ね」
出だしからアップテンポの曲に合わせて、渚の早口な歌声が重なった。
今流行りの曲のようで、ノリの良い曲だ。
「渚も上手いなあ」
「うん、聴いてて安心する」
「本当にね〜〜次私だしこの後歌うなんて渚さんと比べられるし緊張しちゃうよ。たっくんの後にすれば良かった」
「おい!」
渚の歌が終わり、みんなの大きな拍手が鳴り響いた。
「へへ、お粗末さまでした」
採点結果は『89点』難しい曲なのに高得点だった。
そして、アンジェの曲が流れ始めた。
初期のビートルズの曲だ。
俺達のいた施設では英語と日本語が入り乱れていた。
だから、産まれた国を知らないアンジェでも、英語の発音は完璧だ。
「アンジェちゃん、上手」
「本当だ。これなら他のみんなと行っても恥をかくどころか絶賛されるだろう」
「上手いな、どこで覚えたんだ?」
アンジェの曲が終わりその採点は『92点』だった。
アンジェも照れくさそうな顔をしている。
そして俺の番なのだが……
〜〜〜
歌を歌い終わって、その採点が『62点』と表示された。
「うん、うん、なかなかだよ」
「うん、うん、良かったんじゃないか?」
「うん、うん、たっくん、ドンマイ」
俺は、もうカラオケには二度と行かないと誓ったのだった。
☆
「やはり、あいつは逃げ出したか……」
「ああ、BOSSの掲げる『能力者達が差別されない楽園を作る』というコンセプトに否定的だったしな」
「無能力者が上に立つ時代は終わったって風見屋みたいな事を言ってたし、矯正は初めから無理だったんじゃない?」
マンションの一室で、数人の男女が会話していた。
そのメンバーはとある倉庫で拓海とアンジェに会い謝罪した人達だった。
「しかし、国の奴らも抜け目がないな。Cー46に監視が付いていたことは知っていたが、行動が早すぎた」
「Aー8が治って良かったよ。うまく逃げられたし」
「それよりAー4の件だ。あいつあちこちで殺し回ってるぞ。いいのか?」
「BOSSは放っておけって言ってるし静観するしかないんじゃない?」
「ぼ、僕はできれば捕まえたいけど、抑えられる自信はないよ」
「そうだよな。身体強化に加えて火炎能力者のAー4を止めるのは怪我する覚悟で望まないと難しい」
「きっと、BOSSは国がどの程度能力者に対抗できるか知りたいんだと思うよ。Aー4はその実験体にされたんじゃないかな?」
「そうか、いずれ俺達も国と戦う日が来るかも知れねえ。その予行演習ってわけか」
「じゃあ、静観するしかないね。無能力者達のお手並み拝見といこいか」
新しい組織の名前はまだ無い。
だが、元組織にいた仲間達は今の生活が気に入っていた。
好きなことをして好きなように生きる。
それを叶えてくれたのが今のBOSSだ。
だから、離反した能力者をどうのこうのする理由はない。
その能力者はそれがしたかったのだから。
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