第51話 チャット


その後しばらく椿さんと楓さんは積もる話をしていた。 


主に楓さんが聞き役だ。

それから夕方には、椿さんの旦那さんも来るそうなので今回は会わずに帰ることになった。


楓さんと一緒に名古屋駅でお土産を選んでいると、楓さんに声をかけた男性がいた。

同じようにお土産を選んでいた黒縁眼鏡をかけて髪の毛を七三にわけてるインテリ風の人だ。


「陣開、まさかここでお前と会うとはな」


「鬼州ですか、何のようですか?気軽に私に声をかけないで下さい。耳が穢れます」


「それは、お前がここにいたからだ。目が穢れるから私の視界から消えてくれ」


なんか二人とも知り合いみたいだが、険悪な関係のようだ。


「それになんで陣開がここにいる。貴様のホームグランドは、東京だろう?さっさと帰るんだな」


「鬼州こそなんでここにいるのですか?貴方のホームは大阪でしょ。空気が汚れるからこれ以上息をしないで下さい」


「貴様、今度法廷であったら覚悟するんだな」


「貴方こそ、ひーひー泣きながらママに泣きつかないよう心構えしとけばよろしいかと」


「くっ!」「ふんっ!」


そして、二人は金のしゃちほこを模したお菓子を手にした。


「貴様、それを買うのか?これは私が選んだ物だ。貴様は、そっちのペナントでも買えばいい。古臭くて頑固な貴様にはお似合いだ」


「そちらこそ、これは私が最初から目を付けてた物です。貴方には、あそこにある金のしゃちほこキーホルダーが似合ってるのではなくて?新しくてキラキラした物がお好き見たいですし」


「「ふんっ!」」


そして、この男性はなんだかんだ言いながらキーホルダーも買って何処かに行ってしまった。

  

「楓さんの知り合いなの?」


「知り合いではありません。あれは家に時たま現れる黒い害虫と同じ存在です」


それってゴキ……Gの事だよね。


「法廷とか言ってだけど楓さんと同じ弁護士なの?」


「いいえ、あのGは検察官ですね。しかも、神代院の親戚です」


そっか、楓さんが神代院を毛嫌いしてる理由が少しわかった気がする。


「あのGは、なんの因果か、司法修習生時代に同じグループだったのです。その後度々法廷で対峙しましたが、私の方が3勝1負で勝ち越してます。ヤツが大阪に転勤になった時はひとりで高級ワインを開けて祝杯をあげたものです」


かなり因縁がありそうだ。

だけど、あの男の楓さんを見る目はそれ以外にもありそうだった。


本当に気に入らないのなら声などかけないで無視するだろうし、楓さんは気づいてないだろうけど気があるのではないかと思う。


小学生男子の対応だよな、あれ。


はあ〜〜男女の関係って面倒くさいもんなんだな。




 

『は〜〜い!みんな元気してたあ?ライム・レモンの雑談コーナーを始めるよー』


「あ、ライム・レモンちゃんのライブ配信だ」


結城陽菜は、パソコンの動画配信サイトYour Tubeを見ていたが、お気に入りのVチューバーがライブ配信を始めたので見ることにした。


画面には可愛らしい猫耳を生やしたキャラが配信者の言葉に合わせて動き回っている。


『何時もゲームとか好きな小説の話とかしてたけど、今日は雑談だよーー。何でもいいからお話しよーにゃん』


配信が始まり、人が集まって来たがまだ10人前後だ。


チャット欄には、観ている人達の書き込みが始まっていた。


◯こぶた  

 待ってたよー

◯けけけのけ

 雑談かよーゲームしようぜ

◯さなだむし

 雑談ってなにはなすんだ?

〜〜

〜〜

〜〜

◯ひなたぼっこ

 恋愛の話がいい


………


『こぶたさん、けけけのけさん、さなだむしさん、いつもありがとねー。今日はゲームしないよー、また今度ねー。ひなたぼっこさん、恋愛話ですねー。わかりました。数多の恋愛小説を読破した私なら何でも答えるよー』


………

◯メダルハンター

 実体験じゃねえのかよ(草)

◯かき氷

 恋愛ってどうするの?

………


『メダルハンターさん、かき氷さんコメありがとねー。実体験が豊富なら私はここにはいないにゃん、で、恋愛をどうするのですかー、まだ恋愛未経験なんだねー好きな人とかできたら自然とわかりますよー』

………


◯金のしゃちほこ

 恋愛とは特定の人に特別な愛情を感じて 恋い慕うことであり、互いにそのような 感情をもつことを言う

◯めーぷる

 異性を好きになると芽生えますよ。

………


『金のしゃちほこさん、めーぷるさんコメありがと。そうなんだよねー、でも本人が好きって気づいてなくて恋愛始まる前に終わってたってケースもあるから恋愛って奥が深いよねー』


………

◯かき氷

 恋愛難しい

◯金のしゃちほこ

 本人が自分の感情を自覚してないアホがいるのか?情けない

◯はるばる

 今日は恋愛話なんだ。まぜてー

◯ひなたぼっこ

 ライム・レモンちゃんの体験談聞きたい

………


『そうです。恋愛って難しいんだよねー。はるばるさん、いらっしゃい。お話しよう。

そうだなあー自覚のない人結構いるよ。私の知り合いの話なんだけど、大学入学して危ないサークルの勧誘にあったんだって。それでそのサークルいわゆるヤリサーで私の知り合いは強引な勧誘にびびっているとその大学の見た目が怖い先輩に助けられたんだってさ。それから、その先輩が気になって少したってから好きって気づいていろいろアプローチしてるんだけど全然気づいてくれないって嘆いていたんだあ』

……

◯メダルハンター

 普通気づくだろう。ゆるせねえな、そいつ

◯はるばる

 アプローチの仕方が悪かったんじゃない?

◯金のしゃちほこ

 男なら気づかない方がおかしい

◯かき氷

 いろんなケースがあるんだね

◯メープル

 もっと積極的にいけばよろしいのでは?

………


『そうなんだよねー。相手が気づいてくれるアプローチってなをだろうねー私も知りたいにゃん』 


………

◯金のしゃちほこ

 直接気持ちを伝えるだけだ。簡単だろう?

◯メープル

 それができたら悩みませんよ、それは無神経な男性の発言ですね

◯金のしゃちほこ

 無神経ではない。事実を言ってる

◯ひなたぼっこ

 裸をみせるとか?

◯メダルハンター

 いきなりだと男もビビるぜ。いい流れになったあとなら有りかもな

◯はるばる

 恋愛する前に裸の関係になりそう。散々もて遊ばれて捨てられるよ、それ

◯かき氷

 裸見せてもダメなんだ。難しい

◯こぶた

 結構盛り上がってるね。見てる人少ないけど

………

『いきなり裸はナシかなあ〜〜そんな度胸あったら告ってるよねー』

………

◯八ツ橋

 初見です。参加させてもらいます

………

『八ツ橋さんいらっしゃい。それとコメありがとう。

今日は雑談なんだけど恋愛についての話になってるんだあ』

………

◯八ツ橋

 恋愛はうちにもよくわかりません。皆さんの意見を参考にさせてもらいます

◯はるばる

 みんな恋愛経験ないの?

◯メダルハンター

 俺はあるぜ。付き合ったこともある

◯ひなたぼっこ

 付き合って何したの?

◯メダルハンター

 聞くな。話せるほど長く続いてない

◯はるばる

 ご愁傷様


………

『恋愛経験ある人もない人もいるけど人を好きになるって簡単なことだけど、それが成就するのは難しいよねー。だからみんな悩むしいろいろな本やドラマなんかがそういう話を書いたり放映したりしてるんだと思う。みんなもそういうの参考にするのもひとつの方法だよねー』


それからも恋愛話で盛り上がっていたけど見てた人は30人にも満たなかった。





帰りの新幹線で、ノートパソコンを開きヘッドホンをしてチャカチャッカキーボードを打ってる隣の楓さん。


何故か熱くなっている。


そして30分後ヘッドホンを外した楓さんは『ふぅ〜』っと一息、達成感を感じさせる息を吐いた。


スマホで本を読んでいた俺は楓さんに話しかける。


「随分、熱中してたみたいだね」


「そうでしたか?上から目線で少し苛つく人がいたのでムキになってたようですね」


「うん、なんか真剣だったよ、楓さん」


「それはお恥ずかしいところを見られてしまったようです」


それからは、普通に調べ物をしていたようだ。





「恋愛話は盛り上がりますね〜〜」


そう言って配信を終えたライム・レモンは、冷めてしまった紅茶を一飲みして今日の閲覧者の人数を確認した。


「30人いってませんか……やはり個人では限界があるのかな。大手に入れればサポートもつくし閲覧者も多くなるけど、企画だとかイベントとかそういうのは面倒だしなあ。でも、チャットは盛り上がってたよね〜。少ない人数でもこれはこれでアリかも……」


ノートパソコンを閉じて、キッチンに行く。


「一人暮らしは面倒だけど、狭いスペースはお風呂やトイレにすぐ行けるのは便利だよね。こうしてすぐ冷蔵庫にも手が届くし……グキッ!」


「痛タタタタあああああ!」


こ、腰が、腰が痛い!


マズい、このままの姿勢でしか痛くていられない。

もしかしてギックリ腰?


医者に行かないと‥‥


スマホの連絡先を見つめて、めぼしい人材が見つからない。

私は女友達しかいないし、みんな運転免許を持っていない。

車で運んでもらわないと、あ、近藤先輩!


私は近藤先輩に連絡を入れたのだった。


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