第48話 潜入


俺とアンジェは、安藤さんと女性が乗ったエレベーターの階数をエントランスから見ていた。


「6階みたいだな」


「じゃあ、行こうか。たっくん、私の手を握ってくれる。絶対離しちゃダメだよ」


そう言われてアンジェの手を握る。

少し汗ばんでた手で握るのは気恥ずかしかった。


二人してエレベーターに乗り中にある鏡を見て驚いた。


「まさか、俺まで消えるのか?」


そう、鏡には何も写っていなかったのだ。


「どう、すごいでしょう?」


「ああ、驚いたよ。裸の状態でしか消えることしかできなかったアンジェが服を着たままで、それに手を握った俺まで消せるなんて成長したんだな」


「エッヘン!もっと誉めるのじゃ」


「なんだよ、その口調」


消えながら笑っていたが声は漏れるらしい。

どうやら6階に着いたようだ。


「ここから先は念話で会話だな」

『うん、よろしく』


俺の念話は能力者を治療した時に獲得したものだ。

今もその能力者が生きているかわからないが、頭に思い浮かべた人物同士で会話できる優れものだ。

施設時代からアンジェと念話で会話してるのでお互い慣れている。


『部屋が幾つかあるけど、どの部屋だろう?』

『透過は他人と試したことないのよね。たっくん、悪いけどそこのトイレの個室で待っててくれる』

『わかった。頼むよ』


俺をトイレに案内してからアンジェは一人で出かけて行った。


待つこと数分、アンジェから声が届いた。


『いたよ。今眠らされている。通路側の一番奥の部屋だよ』

『わかった。やはり、怪しそうだ』

『うん、なんか宗教施設みたいな感じがする』

『それはますます怪しいな。部屋には他に誰かいるのか』

『今はいないよ。他の部屋には中年のおじさんとさっきの女性が話してるよ。あ、今キスした』


その男と女性はできてるようだ。


『たっくん、すごいよ、大人のキスだよ』


興奮し出したアンジェ。

アンジェもそう言うお年頃なのか?

そうだよなあ。もう16歳だし。


『男の人が女の人の胸を触ってる〜〜』


『なあ、実況中継しなくていいから、ドアの鍵を開けてくれないか?』


これ以上はアンジェの教育に悪い。

それに真似したら困る。


『わかったよ。今、いいとこなのに、え、そんなところに手を入れるの〜』


何だかどんどん怪しくなってきた。

そして、しばらくしてから連絡がきた。


(時間かかったけど二人の行為を見てたのか?)


『たっくん、鍵開けたよ。この部屋にはあのエッチな二人以外他には誰もいないよ』


俺は部屋に入り、そして眠らされてる安藤さんの元に向かった。


『たっくん、担いで行くの?』


『アンジェ、俺とまた手を握ってくれ』


アンジェと手を握り、そして安藤さんを抱えた。

頭の中でイメージする。俺とアンジュ、安藤さんはひとつのものだと。

そして、俺は【転移】を発動した。


『あれ、ここって学校の空き教室?さっきまでマンションにいたよね』


『ああ、Aー8を治療した時にそいつの能力を真似た』


『たっくん、そんな事できたの?』


『うん、これは誰にも言ってないんだ。だから、内緒だぞ』


『じゃあ、私の能力も使えるの?』


『アンジェを治療すれば使えると思う。だけど、そんなことはしたくない』


『必要になったら言って。手でちょっと傷つけてたっくんに治してもらえばできるんでしょう?』


『だと思う。でも、今は安藤さんだ。ここに置いとくわけにはいかないしどうしようか?』


『匿名でこの子の親に連絡すれば迎えに来てくれるんじゃない?』


『そうするか』


アンジェが安藤さんの持ち物を漁ってスマホを取り出す。

そして、電話をかけてここで寝てる事を伝えた。



「あれ、何か忘れてるような……?」



……………


「可愛いのう、手なんてすべすべじゃあ」


「もう、修造さんてエッチね。ねえ、フルーツの盛り合わせ頼んでもいい?」


「かまへん、かまへん、たくさんお食べ〜〜。ビタミン補充はお肌が綺麗、綺麗になるからのう」


「私は、こっちのお酒飲みたいなあ。ちょっとだけお高いんだけど」


「かまへん、かまへん。たくさん飲むのじゃ」


「フルーツとボトル入りま〜〜す」


どこかのお店で、一人のおじいさんが店の売上に貢献していた。


……………


あれから、安藤家の家族が迎えに来るまで、空き教室で待っていた。

アンジェがマンションで仕入れてきた資料とかを寝ている安藤さんのお腹の上に置いていた。


しばらくして、安藤家の者が迎えに来て、無事資料と共に連れて帰って行った。


「アンジェは覗き見してたわけじゃなかったんだ」


「そんなわけあるわけないでしょ。ちゃんと証拠をせっせと集めてたんだから〜〜」


(本当はちょっと見てたけど……凄かった)


「俺達も帰るか?」

「うん、そうしよう」


俺とアンジェは手を握ったままその場で消えながら自宅のマンション近くに転移した。





家に帰ると、柚子が土下座をしていた。


「何してんの?」


「この度は身内の者が迷惑をかけた。私ならいかようにしても構わん」


「あれ、柚子さん、何してんの?」


後ろにいたアンジェが不思議そうにその光景を見ている。


「え〜〜と、柚子。修造さんは俺を遊びに連れてっただけだからそんな謝罪しなくても大丈夫だ。結構、面白かったし」


その言葉を聞いたアンジェが、頬を膨らませた。


「そうなんだあ、たっくん、面白かったんだあ〜〜」


そう言いながら自分のスマホを柚子に見せていた。


「まさか、誰にも見せないって言ったじゃないか」


「だって、面白かったんでしょ。じゃあいいじゃない」


そのスマホを見ながらプルプルしている柚子。


(おしっこだよな。おしっこ我慢してるだけだよな。そうであってくれ)


「き、貴様!私の覚悟を返せーー!!」


(違ったわ……)


怒り狂った柚子が追いかけてきた。

もう、逃げるしかない。


「待てーー!やはり、お前は駄猫だあああ!メス猫とイチャイチャしてる時、私は真剣に悩んで覚悟を決めてたんだぞーー!!」


フロアーを走り回る俺に迫り来る柚子。

足の速さは柚子のは上手だ。


(アンジェ、約束が違うだろ!誰にも見せないって言ったじゃん)


そう思いながら、柚子に飛び蹴りを喰らわせられるまで走り続けたのだった。





……安藤葉月……


目が覚めた私は、周囲を見渡してここは自分の部屋だと確信する。

少し頭が痛い。


「そういえば、私いつの間に寝ちゃったんだろう」


寝る前の記憶と辿る。

学校帰りに、見知らぬ綺麗な女性に話しかけられた。

兄の知り合いって事で油断してたのだと思う。


車に乗って池袋にある喫茶店に入った。

兄の話に夢中になり、二人で話が盛り上がった。

何でも彼女は兄と同じ大学で兄の友人の東雲さんの友達以上恋人未満の関係らしい。


それ以上の中に発展するために、兄さんに東雲くんのことを詳しく聞きたいらしいが、同じ大学なので兄さんと話をしていると誤解されてしまう可能性があるから、聞いていた妹である私に声をかけていろいろ聞いき出してほしいと言われたのだ。


東雲さんの事は知っている。

兄さんが彼の勧めで同じゼミに入った事は。病弱で友人が少なかった兄は嬉しそうに話していた。


そんな兄を見る私も嬉しかった。


だけど、トイレに行って紅茶を飲んだら何だか眠くなってしまった。

日頃の勉強の疲れが出たのかも、って思ってたらその女性の家が近くだから休んで行く事を勧められた。


眠気でフラフラ歩きながらマンションの部屋に着くと安心したのかそのまま寝てしまったはずだ。


時計を見るとAM10;30となっている。


「え、そんなに寝てたの?そうだ、学校!あっ、今日は土曜日で休みだあ、よかった」


着替えてリビングに降りていくとお客さんが来てるようで話し声が聞こえてきた。


お母さんが私が起きたのがわかったのか、こっちに来て顔を洗ってみんなのいるところに来てほしいと話した。


「なんなの?何がおきたの?」


兄さんも居たのだが、少し様子が変だった。なんか、落ち込んでいる感じがする。


身嗜みを整えてリビングに行く。

スーツ姿の男性2人と女性1人がお母さんと兄とで話し合っていた。


「警視庁特務捜査課の狩野です。葉月さんに昨夜起きた事を覚えている範囲で構わないですから、お話聞かせてもらえませんか?」


そう聞かれたので、怖かったけど昨日の事を話し始めた。

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