第27話 対峙


目の前には、殺しても飽き足らない男がいる。

骸骨のような外見。

他人を虫のように見るその瞳。

薄汚い白衣を纏った男。


風見屋玲二(カザミヤ レイジ)


日本帝国大学の医学部を卒業後、東大陸のマサチューセッツ工科大学博士課程を得、更にアッシュヘッド研究所の副所長を務めた人体科学の一人者として有名だった男だ。


あいつの姿を見て一瞬身体が膠着した。

出会ったことによって過去の仕打ちが思い出される。

呼吸と心音が響き渡るほど早くて煩い。


「Cー46、更に進化したようだね。化け物君」


その言葉を聞いたことによって、俺は我を忘れてしまった。


「お、お前はあああああああああああ!!」


怒り任せに電撃を放つ。

轟音と共にそれは直撃した……はずだった。


「ふふははははははは、そうか、そうか。どうもおかしいと思っていたんだ。傷や病を治すだけなのに何故お前が意識を失うほどの痛みを感じているのかをね。Cー46、君は治療した相手の能力を引き出せるようだ。恐らくその記憶までもね。あの幼い時からずっと秘密にしてたのかい。いけないなあ、大人に嘘をついては。

でも君には助けられたよ。内臓も腕や脚も、それに目玉も有効活用させてもらった。

今もまだ足りないくらいだ。また、私の元に帰ってくる気はないかい?」


敵ながら鋭い洞察力だ。

こいつの前に出たら何もできないのではないかと不安だったのだが、怒りの方が優っていたようで、身体はどうにか動けている。

それに、こいつを殺したくてうずうずしてる自分がいる。


「あんなことは二度とごめんだ。自分の手足を千切って済ませろ!」


「ははは、そんな化け物の能力は君ぐらいしかいないよ。さて、君の能力が再生だけではないとすると君に治療させた能力者は何人だったか?昔のことで忘れてしまったよ」


「そういう事だ。ここでお前を殺す」


「はははは、Cー46。お前の電撃を受けて何故私が無傷なのか疑問に思わないのか?遂に完成したのだよ。人類の進化した先を私は手に入れたんだ。君達という実験動物のおかげでね。ああ、お礼を言った方がいいかい。私はこれでも紳士なんだ」


「まさか、その為に俺達を!俺が化け物ならお前は人の皮を被った悪魔だ。人を…人の命をなんだと思ってるんだ!」


「科学が発展しても、人の身体の進化は遅い。確かに昔に比べて身長も体格も良くなった。だが、それは栄養状態が良くなったことによる当然の結果だ。


脆いのだよ、人間って生物は。


しかし、どうだ。ここに人類が進化した証がある。Cー46、君もそうだ。

これこそ、次なる世代の人類だ。

特殊な能力を持ち、枯渇する化石燃料に頼らなくても自らの力でそれを生み出す事ができる。

いわば、神の所業を体現できる、それがニューヒューマンだ」

 

「ふざけた事を言うな!人間は決して脆くなんてない。

みんな苦しくても頑張って努力して生きてるんだ。貴様が好き勝手にしていい存在じゃない」


「はは、意見の相違だな。変革期には犠牲がつきものだ。歴史がそれを証明している」


「それでも、貴様が好き勝手にしていい理由にならない。貴様は地獄の業火に焼かれながら悔い改めろ」


俺は炎を手の先から出して風見屋玲二に向けて噴射させた。


その炎は、風見屋の身体を覆い尽くしたが『パチ』っと指を鳴らして消え去ってしまった。


「ニューヒューマンたる私にそんなものは効果などない」


(あいつ、何がどうなってるんだ?)


さっさとあいつを殺してこの場から逃げようと考えていたが、どうもそうはいかないらしい。


「ああ、そう言えば紹介がまだだったね」


風見屋玲二が手を叩くと、施設から顔を仮面でかくした、同じ体型の同じ戦闘服を着た若そうな戦闘員が5人ほど出て来た。


その者達は、風見屋玲二の前に出て横一列に並んだ。


「紹介しよう。ニューヒューマンたる私が開発した人類に代わる新たな生命体であり私の下僕たるアンドロイドAーONEシリーズを」


両手を広げ笑みを湛えながら、誇らしげに叫んだ。


(なんだ、こいつらは……生きてる感じがしない。だが、人の気配がある)


「さあ、喜びたまえ。この3年間で完成したのだよ。君達化け物達のモルモットに何度も試行錯誤を重ねてね」


高らかに笑い出した風見屋玲二、その姿は悪魔ではなく、ただの狂人だった。

  




「拓海くん……そんな酷いことされてたなんて」


「あのぼうずは心配いらぬ、わしらがいたら足手まといじゃ。少し離れるぞ」


修造爺さんの登場で、危機的な状況を脱したが、未だ危険な状況なのは変わりない。


それに、ここには連れて来られた子供達もいる。


「お爺さんは、どうしてここに?」


「うむ、わしはお主達の護衛じゃ。ピンチの時に駆けつけるのは当たり前じゃろう?」


と、かっこつけて話す修造だが、たまたま襲われてるところに遭遇して慌てて追いかけ襲撃犯の漁船に乗り込み隠れていたとは言えないようだ。


(慣れない船で少し腰を痛めたわい)


修造達は、出来るだけ拓海の側を離れるのだった。


腰を押さえながら……


「あの男は知ってます。人体科学者の風見屋玲二です。医学生時代にあいつの論文を読みました。身体が一部が欠損した人や難病で身体の自由がきかない人を遺伝子の特別な操作によって再生、治療が可能だと書いてありました。

人を救う為の医療知識をこんな事に使うなんて許せません」


「人は必ずしも心に闇を抱えているもんじゃ。それを上手くバランスをとって生活しとる。ちょっとしたきっかけで、そのバランスは崩れる。その時の選択で人は悪魔にも天使にもなるのじゃよ」


「そうかも知れませんが子供達を攫って人体実験をするなんて、悪魔の所業です。許せるはずがありません!」


「それに関してはわしも同じじゃ。彼奴は、人が犯してはならない一線を超えた。情状酌量の余地も無い」


こうして話している間にも拓海は、施設から出てきた戦闘服を着た人と戦闘をしている。


拓海が、能力を使わないで戦っているのには何か意味があるのだろうか?


施設から別働隊が出てきた。数人だが、小銃を持っている外国人だ。


「む、こっちに来そうじゃわい」


(子供達を人質に取られては、拓海も動きずらいじゃろう。だが、この人数を守りながらじゃとわしでもちとキツイのう)


その時、後ろの城壁の上から声が聞こえた。


「おーーやってる、やってる」


「いた、あいつがあそこにいる」


「ぼ、僕だって、あいつだけは許さない」


「まあ、そんなこと言わずに、施設の中にも捉えられてる子達がいるかもよ。ここは二手に別れようか」


「ああ、だが、俺はあいつのところに行く。絶対に」


「分かったわよ。じゃあ、行こうか」


城壁から飛び降りた6人の少年少女は、二手に分かれた。

ひと組は、さっき小銃を構えて出てきた外国人達のところに行き、もう1組は拓海が戦闘している場所に向かって行ったのだった。





「こいつら、何なんだ?」


電撃や炎などの能力を発動しようとすると『やめろ、やめて』と、念話のように頭の中に声が届く。


仕方なく、身体ひとつで相手をするが、鉄で殴られたような感触を受けた。


通常の人に比べて数倍の力と速さを兼ね備えているこのアンドロイド達に真っ向から立ち向かうには、こちらも身体強化を施さなければならない。


以前、闇組織の暗殺人や武術の達人達の治療をした者達の記憶を手繰り寄せて身体を動かし、どうにか相手になっているがこのままではジリ貧だ。


それが5体もいれば尚更だ。


「はははは、どうだ、Cー46。私の造ったAーONEシリーズは。いくら複数の能力を使えてもこの数ではどうしようもあるまい。さあ、能力を使え!そうすれば、AーONEシリーズも完成に近づく」


能力を使えって?

あいつに能力が効かない理由もわからないし、迂闊なことはできない。


右手で敵の一体のハイキックを防ぎ、左手で別の奴の拳を逸らす。

前から繰り出される顔面に向けたパンチを首を捻ってかわし、背後にいる奴の飛び蹴りを屈んで避けた。


「どうだ、AーONEの身体能力は?いくらお前が化け物でもいつまで耐えられるかな?逆に持久戦を狙っていたとしても無駄だぞ。私の下僕達は、疲れを知らないのでな」


戦っていてわかった事がある。

このAーONEと呼ばれる存在は、人間の姿を形とっているが身体は機械のようなものではないかと。


そして、俺は恐ろしいことを思っていた。

頭の中身、つまり脳は人間なんじゃないかと。


そんな時、辺り一面暗闇に包まれた。

そして、俺はボディーに一発強烈なパンチを受けてしまい、その後の蹴りでその場から弾き出されてしまった。


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