第15話 ドライブ


中間テストが始まった。

今日から4日間テスト地獄だ。


高校に入ってはじめての本格的なテストなので、みんな気合が入っている。


中には諦めモードの人達もいるけど、なんだか楽しそうに話をしている。


「そういえばさぁ、写真をめちゃ盛ってカレぴに送ったわけ、速攻、誰だよ、紹介してって返事きてキレたんだあ」


「嘘、あり得なくない?彼なら気が付けよって話じゃん」


「そう、だからキレまくってそのまま寝ちゃって朝みたら『別れよう』って返信きてた。マジムカつく』


少し派手目な女子のグループなんだけど、席が近いから会話が聞こえるのだが、意味が良く分からない。


(写真を盛るってなんだろう?)


疑問に思っているとスマホが震えた。


【調子はどうですか?】


結城さんからのメッセージだ。


【ぼちぼちです】

【試験、頑張ってね】

【結城さんも頑張って】


結城さんからは、連絡先を交換してから毎日メッセージが届く。


そうだ、結城さんにさっきの事を聞けばいいのでは?


なんか、結城さんにはこの事は聞きづらい。


他に連絡先を交換してるのは、楓さん、清水先生。あと明日香ちゃん。他は、竜宮寺のみなさんと蔵敷家の人達。


この人達に聞くのは論外だ。


となると……霧坂さん?

回し蹴りが飛んでくる未来しか見えない。


そうだ、うってつけの人がいるじゃないか! 


俺は恭司さんに【写真を盛るってどういうこと?】と、メッセージをいれた。


少したって恭司さんから写真つきのメッセージが送られてきた。


【こういうことだ】


一緒に送られてきた写真には、化粧で顔を黒くして、目の周りに白く縁取られてる。どう見てもヤマンバにしか見えない若い子が写っていた。


これが盛るってこと?

化粧が濃すぎて元の顔なんてわかりっこないじゃん。


確かあの女性は山中友香里さんだったよな。

仲間内から『ユカッチ』って呼ばれてたはず。


派手だけど綺麗な顔してるのに、なんでヤマンバみたいな化粧して彼氏に送ったんだろう?


彼氏もヤマンバを見て紹介してとか言ってたみたいだけど、妖怪系が好みだったのか?


(世の中、いろんな趣味の人がいるんだな)


それから恭司さんにはお礼の言葉を返信しといた。





4日間の中間テストも無事終わった木曜日、その間は仕事や襲撃もなく至って学生らしい平穏な日々を送っていた。


試験が終わると教室内は、解放感に溢れ友人どうしで、遊びに行く予定を話あっている。


俺ですか?

誰にも誘われてないですけど、何か?


霧坂さんを見ると落ち着いた女性のグループと楽しそうに会話している。


結城さんも仲の良い人達とおしゃべりしていた。


「さっさと帰ろう」


独り言を呟いて、鞄を持って静かに教室をでる。


そして学園の校門を出ると、ついこの間乗った覚えがある車が止まっていた。


運転席の窓が空いて『拓海、乗れよ』と、恭司さんが顔を出して誘ってきた。


車に乗り込み恭司さんに話しかける。


「大学どうしたんですか?」

「今日は、サボりだ」


悪気も無くそう話し、車を発進させた。

恭司さんの格好は、いつも派手目のものが多いが今日は白いシャツの下に虎が印刷してあるTシャツが透けて見えている。


「今日でテストが終わったんだろう」

「そうですけど、なんで知ってるんですか?」

「前に拓海が言ってただろう?もう、忘れたのか?」

「そうでしたっけ?大概のことは覚えてるはずなんだけど記憶がないです」


「拓海はいちいち細かいんだよ。そんなんじゃ女にモテないぞ」


「一週間で振られた人に言われたくないです」


「ぐはっ!HP半分もってかれたわ。これがブーメラン攻撃か」


「それでどこに向かってるんですか?」


「前に言ったろ?ドライブだ、ドライブ」


確かに言ってたけど、このタイミングで?


「それは聞いてますけど、俺に予定があったらどうするんですか」


「拓海は、ぼっちだろ。予定なんかあるはずないだろう」


「ぐはっ!今ので俺のHPは1しか残ってません」


「ははは、じゃあ軽く飯食って回復しようぜ」


その時、スマホが震えた。


霧坂さんからメッセージが来たようだ。


【駄猫、どこにいるのか今すぐ返事しろ!】


うわーー超怒ってるじゃん。


【恭司さんとドライブ中。行き先は不明】


そう返信しておいた。


その後、ドライブスルーに寄りハンバーガーを買って食べながら恭司さんは車を走らせた。



一時間半近く、車に乗り窓を少し開けると磯の香りが漂ってきた。


「どうだ、この曲イカすだろう?」


「初めて聞いたけど、良い曲ですね」


「そうだろう、これアニソンなんだ。俺結構オタク系に足突っ込んでるから面白いアニメとかラノベを貸してやるよ」


「俺、そういうのよくわからないから助かります。恭司さんは海に行きたかったんですか?」


「ドライブって言ったら海だろう!それに拓海は黒ギャルに興味あるみたいだから、海近くならその手のヤツ、結構いるんじゃないか?」


黒ギャル?


「あの〜〜黒ギャルって何ですか?」


「はあ!?前に写真送ったろ、アレだ、アレ」


「ああ、あのヤマンバのこと黒ギャルって言うんだ」


「ぷっ、ヤマンバかよ、腹いてー」


車は海沿いの道路を走っている。

松林から方から聞こえてくる波の音が気分を解放させる。


「この先行くと江ノ島があるんだ。そこ行こうぜ」


「お任せします」


しばらく走って目的地に着き、車を駐車場に入れて、浜辺を散歩する事になった。


海開き前なので人もまばらだ。


俺達は、ペットボトルのジュースを買って浜辺を歩く。


砂が靴の中に入って、歩きづらい。


「よし、拓海、ナンパするぞ」


「あの海を見てる麦わら帽子を被って白いワンピースを着た女性ですか?」


「あれは、ダメだ。深層の令嬢みたいな清楚系は好みだけど、経験上100パー失敗する。俺たちの目標はあっちだ」


恭司さんの視線の向こうには、派手な格好をしたイケイケギャルの集団がいた。


「恭司さん、あれ男連れですよ」


そのギャル達の方に手を振りながら3人の男たがジュースを抱えて近づいている。

ギャル達も手を振っており、どうみても一緒に遊びに来ている人達だ。


「くそっ、俺達の出会いは会う前におわってたか」


「そういうこともありますって、あっちの女性達はどうですか?二人組だし」


「いや、アレはやめとけ。てか、お前熟女好みか?どうみてもおばちゃんだろう」


「からかっただけですよ」


「お前、真顔で冗談言うから、つい本気かと思ったわ。でもこのままじゃ水着ギャルと過ごす夏の計画がおじゃんになる。今から確保しておかないとまた、むさ苦しい道場の連中と過ごすことになるじゃねえかあああああ」


それは、恭司さんの心からの叫びだった。


「まあまあ、ナンパじゃなくて大学とかにいないんですか?」


「拓海、よく聞け!大学ってところは伏魔殿なんだ」


「意味わかんないんですけど」


「拓海、俺を見てどう思う?」


「チャラい?」


「そういうことだ。これ以上は俺のMPが枯渇する」


「よくわかんないですけど、ファイト?」


「たくみーー!お前はいい奴だなあー」


「ええい!鬱陶しいから抱きつくな!」


その時『ドサッ』と音がした。

音がした方をみると海を見ていた白いワンピースを着た女性が倒れていた。


「拓海!」


そう声をかけて恭司さんは倒れた女性に駆け寄った。


俺も恭司さんの後を追う。


「おい、しっかりしろ!」


貧血みたいだけど、脂汗をかいている。

意識はあるみたいだけど……


仕方がない。

俺は倒れている女性の手を握って能力を発動する。


「ううっ……」


思ってたより重病だ。

血液のガンと呼ばれる『白血病』それが、この人の病名だ。


「拓海、どうした!」


俺が苦しんでいるので、恭司さんは心配してるようだ。


「今、力を使ってます。思ったより酷い状態なので俺の意識が飛ばないようにどこかつねってくれませんか?」


この人の感情が流れ込んでくる。

後悔…懺悔…そして死ぬ覚悟。


「ううっ!」


「拓海!しっかりしろ!」


恭司さんの声と太ももをつねってもらった痛みでどうにか意識を保てた。


もう、大丈夫なはずだ。


「あのーー私はどうして……」


女性も意識が回復したようだ。


「拓海もあんたも大丈夫か?」


「俺は大丈夫」


「あれ、苦しくない。痛みもない」


その女性は、恭司さんに抱えられていたことに気づいたのか、慌てて『すみません』と言って起き上がった。


「まだ無理するな。倒れたばかりだぞ」


「そうなのですね。でも、身体が軽いんです。病気になる前に戻ったみたいに」


「恭司さん、俺少し疲れたからベンチで休んでるね」


「ああ、大丈夫なんだよな、拓海は?」

「少し休めば落ち着くから」


恭司さんと言葉をかわしていると、その女性が言葉を挟んできた。


「私が倒れた時に巻き込んでしまったのですか?ごめんなさい、私のせいで」


「違いますよ。後は恭司さん、任せた」


そう言って少し離れた場所にあるベンチに腰掛け目を閉じたのだった。


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