第14話 テーマパーク

夕食会後の会合の後、そのままホテルに泊まることになった。

突然、明日香ちゃんが俺の部屋に来て夜遅くまでゲームしたりお話して遊んだことで張り詰めていた心がやわらいだ。


そして、今日は土曜日。

俺は明日香ちゃんと一緒に湾岸沿いにあるテーマパークに来ている。


「拓海お兄さま、今度はあれに乗りたいです」


トロッコがレールの上を走り、水の中に突っ込むという割とスリリングな乗り物だ。


「じゃあ、乗ろうか」


「はい」


嬉しそうに手を繋いで喜ぶ明日香ちゃんを見てると、妹がいたらこんな感じなのかな、とふと思った。


「ああいうのって怖くないの?」


「大丈夫です。病気で何もできなかったので、今はいろいろなことに挑戦してみたいのです。それにこうして遊ぶのは初めてですし……それにお兄さまが一緒ですから」


「そうだよね。じゃあ、これでもかっていうほど楽しもうか」


「はい」


午前中、目一杯遊んだ俺と明日香ちゃんはテーマパークの食堂で昼食をとっていた。


俺達の席の後ろには、霧坂さんとお爺さんが座っておりお爺さんは嬉しそうに孫娘と話がはずんでいた。


「お爺ちゃん、私はお仕事中なのよ」

「わしだって仕事中だわい」


一応、霧坂さんは俺の護衛、お爺さんは明日香ちゃんの護衛としてテーマパークに来ている。


「うしろ、賑やかだね」

「はい、修造お爺さんはいつも元気です。面白いお話もたくさんしてくれます」


(へーー、日本昔ばなしとかアンデルセンとかかな。明日香ちゃんって病気が長かったから、年齢より幼く感じるし、おじいさんが少女に絵本とか読んでる姿ってそういうのって、ほんわかするよなあ)


「修造さんはお話が得意なんだね」


「はい、特にキャバクラって言うお店で貢ぎ物をしないで女性を口説くお話が面白かったです」


「は!?」


小学生相手になんの話してんだ、爺さん!


「そ、そうなんだ。きっとその話は聞き流した方がいいと思うよ」


「そうなのですか?では、女性の方が裸でダンスするお店の話とかもダメなのでしょうか?」


「えっ!?」


驚きすぎて言葉が出ない……


「衣装の脱ぎ方で、その踊り子さんの技量がわかるって言ってました」


俺は思わず後ろを向いて爺さんを見る。

話が聞こえていたのか、霧坂さんも鋭い目つきでお爺さんを睨んでいた。


「お爺ちゃん!明日香様になんて話してるの?」

「そ、それは将来お嬢が魅力的な女性になる為の話とか」

「わかりました。この件についてはお婆ちゃんに報告させて頂きます」

「待て、早まるでない。わしが悪かった。2度としないから〜〜」


騒がしい席が一層騒がしくなったのは言うまでもない。





午前中は、割と激しい乗物で遊んだので、午後からは店を覗いて買い物をしたり、ふるゆわ系の遊具で遊んでいたりした。


途中から楓さんや奥様方が合流して賑やかに過ごすことなった。

大人の男性陣達は、日頃の疲れもありホテルでゆっくりしているようだ。


そういえば、生徒会長は夕食が終わって帰って行った。

中間テストや球技大会などもあり、学園関係で忙しいらしい。


俺もテストがあるんだが……


明日香ちゃんは、みんなが来てからも楽しそうに笑って遊んでいる。

こういう姿を見ると、忌避していた俺の能力が役に立って嬉しいと思える。


「拓海様、実はひとつお話ししておかなければならないことがあります」


みんなと遊んでいる中、楓さんが小声で話しかけてきた。


「どうしたの?」


「実は、前から言われていたのですが、保護施設にいる能力の発現がない子達の中で寝たきりになっている子達がいるのですが、その方達を治療してほしいと国の機関から言われていました」


楓さんが施設にいた時のことを出来るだけ思い出させないようにしてくれていたのは、知っている。


だから、そのような要請があっても先延ばしにしてくれていたのだろう。


「襲撃を受けたって聞いたけど、その子達は連れ攫われていなかったんだね」


「組織からも見捨てられたようですね」


旧組織の連中は、能力を発現させるための方法として、ある薬を投入したり外科手術で脳を弄ったりしてたのは知っている。


おそらく、失敗して廃棄された子供達なのだろう。

多くの子供達が亡くなっていたのもわかってたけど、その子達は、拉致されて間もない子達で、処分される前に国の機関の突入によって解放された子達なのだろう。


「治せるか自信はないよ」


治癒能力も万能ではない。

どういう理屈かわからないが、精神に伴う疾患は治せないことが多い。


軽い鬱病なら、治せた実績もある。

だが、長く患っている精神疾患の人は治せなかった。

俺自身の薬漬けの心を治せなかったのと同じなのかもしれない。


「ええ、理解しています。能力者たちの襲撃を受けて寝たきりの上怪我を負った子達が数人いるので、施設の管理者が打診してきたのです。先方には落ち着いたら連絡することにしましょう」


「うん、楓さんの好きなタイミングでいいよ」


この場でする話ではないのでは?と、最初は思ったが楓さんのことだ。

きっと遊んで気を紛らわせるこの場が最適だと判断したのだろう。


確かに、家や畏まった場で聞いたのなら、いろいろと考え込んでしまったと思う。


「拓海お兄さま〜〜、今度はあれに乗りたいです」


施設の事を思い出してしまった俺の心に明日香ちゃんの無邪気な笑顔が落ち着かせてくれた。


「うん、一緒に乗ろう」


明日香ちゃんだけではない。

こうして、無心で遊ぶのは俺にとっても初めてなのだから。





一日中遊び通した次の日の日曜日。

明日香ちゃん達は、名残惜しそうに家に帰って行った。


ホテルで見送った俺達も楓さんの車で帰ることになった。

家に帰ると、数日開けただけなのに、なんだか懐かしい気分になる。


自室に入り、ベッドに寝転んだ。

何だか良い匂いがするけど、なんだろう?


そういえば、着替えた時に着ていたシャツが見当たらない。

後で洗濯機しようと思ってベッドの上に置いといたはずなんだけど。


「楓さんが片付けてくれたのかな?」


まあ、考えても仕方ないので勉強を始める。

ある程度の点数を取らないと、みんなに申し訳ない。


それから、ほとんど部屋から出ることもなく1日が過ぎていったのだった。





「えへへ、たっくんのシャツゲットしちゃった」


そう言いながら、ベッドの上でゴロゴロする髪の長い金髪の少女がいた。


「アンジェ、そろそろご飯ですよ」


「うん、いま行く」


ゲットしたシャツをベッドの中にしまって、その少女は階段を降りてキッチンに向かった。


用意された夕食がテーブルの上に並んでる。


「ママ、いただきます」


「よく噛んで食べるのよ。でも、いいの?学校移って」


「うん、英明学園なら友達もいるし、どうしても行きたいんだ」


「そうね、施設を一緒に抜け出してあなたのママになって初めてのワガママだから、アンジェの好きなようにしなさい」


「うん、ママ、大好き。あ、これ美味しい」


母と子一人の家庭だけど、その雰囲気はとても暖かかった。

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