第二十四話 一緒に
「一緒に、佐久のことを助けてほしいんだ」
そう言うと3人は全く同じ、怪訝そうな顔をした。口を開け、首を傾げている。ポカーンという効果音がぴったりな表情だ。
「助けるって……? 桃花ちゃん、何かあったの……?」
よく見ると、藤島の目が潤んでいる。
古屋も口を閉じて唇をギュッと噛み、2人とも泣いてしまう1歩手前に片足で立っているかのようだった。トン、と軽く押しただけでも倒れて、涙を流してしまいそうな。
「信じてもらえるかわからないけど……」
僕は説明を始めた。
もう、最低でも5回はタイムリープしていて8月には入れないということ。
佐久が飛び降りることによってそれが発生しているであろうということ。
恐らく、佐久自身を含む周りの皆を大人にさせないようにしているということ……。
3人は黙って僕の話を聞いていた。信じられない、と顔いっぱいに書いてあるのが見える。
「——どうしたらタイムリープをもうさせないように出来るかわからない。どうして他人を大人にさせたくないのかも……」
だから、佐久をもう殺させないようにするしかない。
そのために、彼女と距離を近づける必要があると僕は考えた。
彼女と仲良くなって、受験生だからきっと忙しいだろうけれど、夏休みに遊ぶ予定とかを立てて……。夏だけではなく、その先にも彼女の心が躍るような予定を詰める。そうして、どんどんタイムリープを先送りさせて、いずれなかったことにさせる。
こんな単純な作戦が通じるのかはわからない。でも、これしか思いつかなかった。
大人にさせたくない理由。タイムリープを繰り返した本当の理由。それが彼女の口から語られなくても良い。……聞きたいのが本音ではあるけれど。
もう、自殺をしないようにしてくれたら。
タイムリープがもう起きないようにしてくれたら。それで良い。
大人になるのが怖いのであれば、僕が君と一緒に大人になる。
他に何か大人になりたくない、人に大人になってほしくない理由があるのならば、タイムリープ以外の解決法を僕が一緒に考える。
だからこの先の時間に、一緒に入っていこうよ。
「……そうか……。それで昨日、タイムリープがどうのって言ってたのか?」
学の問いかけに頷いた。
彼は顎に手を当て、考え込むような仕草を見せた。藤島や古屋は俯いていて顔に暗い陰を落としている。
「うん……。信じられないけど、信じるよ。玉置くんは別に嘘をつくようなタイプじゃないもんね」
古屋の言葉に藤島が同意するように頷いてくれた。
「俺も信じる」
「私たちは何したら良い?」
古屋の言葉に続いて、学や藤島がそう尋ねた。
「僕と一緒に、佐久と遊んだり……。近くにいてほしいんだ」
そうしたら、君は1人じゃないと伝えられる気がするから。
僕の言葉に、佐久と普段から一緒にいる2人はようやく笑顔を見せた。
「もちろんだよ! 皆夏休み忙しいだろうけどさ、遊園地とか花火大会とか……。遠出したりもしない?」
それで、テスト前は一緒に勉強会して、終わったらお疲れ様のお菓子パーティー。桃花ちゃんの誕生日は皆でお祝いにカラオケ行こう!
藤島が「楽しそう」と、学が「それ良いな」と賛成した。2人とも口角を上げ、ワクワクしたような顔をした。
僕も同じで、頬が緩んでいくのを感じていた。ワクワクしているというのはもちろんだが、皆が僕の話を信じてくれたということに対する安堵も混ざっていた。
『お菓子パーティーしようよ!』
『ケーキ食べに行こうよ!』
何度タイムリープしても、楽しげなことを提案してくれる古屋。
その古屋と一緒に、楽しい時間を佐久と過ごしていた藤島。
僕と佐久の関係性はタイムリープするごとに少しずつ変わっていて、全く関わらないときもあった。
だけど、この2人はずっと変わらず、佐久といる。彼女たちがいたら、きっと大丈夫かもしれない。
「関係性」で思い出したことがあり、僕はあっと声を上げた。
「あのさ、タイムリープする度に僕と佐久の関係性が変わってて……。もう頭がゴチャゴチャしてて『今回』の僕が今までどんな感じに関わっていたのか覚えてないんだ」
この世界では、僕はどういう感じだった?
古屋と藤島にそう尋ねる。
いつかのときのように、疎遠になって全く喋らない、という関係なのであれば、いきなり「一緒に勉強会しよう」とか「夏休みに遊ぼう」と誘うのは不自然すぎる。仲が良かったのであれば都合が良いのだが……。
僕の質問に2人は顔を見合わせた。
どうなのだろう、と思っていると藤島が口を開く。
「結構、話す方だったと思う」
「うん。たまに、一緒に帰ったりしてたよね」
「そうなんだ……」
良かった。これで、自然に話しかけることが出来る。
桃花、巡くん、と下の名前で呼び合っていたことまで教えてくれた。呼び方に困ってモゴモゴすることがなくなるだろう。
「じゃあ、まずは一緒に勉強会するところからかな?」
古屋が言い、僕たち3人は頷く。
「俺は今日は塾だから無理だけど、明日ならいけるぞ」
ここにいる4人のスケジュールは合った。あとは、佐久……桃花本人に確認を取るだけだ。
僕たちは中庭から移動して教室に向かった。全員一緒だとなんだか怪しいので、僕と学はゆっくり歩いて向かい、藤島たちに先に入ってもらった。
「ねぇねぇ桃花ちゃん、明日の放課後って空いてる?」
扉の前に立つと、少しだけ開いた隙間からエアコンの風と一緒に古屋の声がした。
僕たちは扉を開けて教室に入っていく。
「明日? 空いてるよ!」
「良かった! 明日放課後さ、教室残って勉強会しない? って玉置くんと田宮と話してて! どうかなぁ?」
僕たちが室内に入ったタイミングを見てくれたのかはわからないが、桃花たちがいるところに近づいたところで名前を出してくれた。
「あ、おはよう! そうなの?」
桃花は僕たちに挨拶をしつつ尋ねた。
「うん。桃花もどう?」
「良いの? 一緒にしたいなぁ」
穏やかに微笑みながらそう言った。
それを受け、その場にいた他4人はバレないように視線を交わした。皆内心でガッツポーズをしていたはずだ。
よし、今度こそ。
皆と一緒に、戻らない時間を過ごしていけるように。
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