第10話 昼は師匠、夜は父
その後しばらく師匠の元に通い、修行した。
だが、正直あまり手応えが無い日々。
それもそのハズ、師匠に一方的にやられるばかりで、これといった気付きがあまり得られないのだ。
元々師匠は「何か見てたら相手の隙がわかる」みたいな感覚派で、人を教えるのには向いて無さそうだった、めっちゃ今更だけど。
そこで俺は一計を案じた。
夜、父とも立ち合いをお願いしたのだ。
最初父はかなり渋ったが、数日説得すると出掛けていった。
恐らく師匠に事情を話しに言ったのだろう。
知らないフリも大変だ。
翌日、師匠は普段と同じように振る舞っていたが、少しご機嫌だった。
どんな話があったかはわからないが、まあ、長年引っかかっていた事が解消し、肩の荷が下りたんだろう。
面倒くさいオッサンどもめ⋯⋯。
父も長いブランクがあったものの、俺と立ち合う事でかなり勘を取り戻していったみたいだ。
もちろん継続した修行を行っていないぶん、普通にやれば俺に軍配が上がるが、それでもかなり参考になった。
アルトがいた頃に自分の成長を実感出来たのは、やはり近しい実力の人間がいたからだ、という事実の再確認になった。
俺は師匠と立ち合う時は父のスタイルを参考に、父と立ち合う時は逆に師匠を参考にした。
それぞれになりきる事で、互いの良さを吸収出来ている気がする。
父の剣は、魅力を語るならその圧倒的な攻めだ。
一撃一撃が脅威なうえ、それを凌いでも次の攻撃への布石となっている。
師匠の剣は、やはり駆け引きに長けている。
僅かな動きで相手を操作し、生じた隙を的確に突く、その読みの精度。
二人の剣から、それぞれの良さを取り入れていく。
修行が進み俺が成長を実感するにつれ、二人は何か嬉しそうに見えた。
俺の成長を喜んでいるのか、それとも俺を通してお互いの剣を感じているのか⋯⋯まあ、どうせ聞いても照れ屋な二人は答えないだろうが。
──そして、一年はあっと言う間に過ぎた。
──────────────────
大会まであと一週間に迫った今日も、俺は師匠と共に稽古している。
最近は一方的に負ける事も少なくなっている。
そして、遂に──!
俺が繰り出した攻撃が、師匠の頭上で止まった。
無我夢中だったが、その事実がやっと俺に染み渡ってくる。
「や⋯⋯やった! やっと師匠から一本取れた⋯⋯!」
子供のころから長年師事して、初の快挙だ。
「ちっ⋯⋯まぐれでそんなに喜ぶな、馬鹿弟子」
「いや、少しは褒めて下さいよ!」
「うるせぇ、俺は負けて相手におめでとうなんて言える人間じゃないんだよ!」
子供か。
俺が内心で呆れていると、師匠はプイッと横を向きながら言った。
「ん、まあでも頑張ったな」
「やめて下さい! 師匠が褒めるなんて縁起でもない、また一回戦負けしちゃうじゃないですか!」
「いや、どっちだよ」
半眼で睨む師匠に、俺は頭を下げた。
「いえ、嬉しいです。ありがとうございます」
「⋯⋯ふん、まあ間に合ったな。今のお前なら優勝してもおかしくない」
「本当ですか!」
「ああ、でも油断するなよ。これから一週間は俺との立ち合いは休みだ。軽めに身体を動かしとけ」
「はい。当日は良いとこ見せられるように頑張ります!」
「いや、俺は見に行かない」
「えっ?」
俺の驚いている様子を見て、師匠は遠くを見ながら呟いた。
「他に用事がある⋯⋯いや、できた」
「気になる言い方ですね」
「だろ? まあ言わないけどな」
「でしょうね」
最近、師匠は練習していない時に物思いに耽っている様子だった。
何か思う所でもあるのだろう。
「じゃあ、次は俺の優勝報告ですね」
「ああ、期待してるよ⋯⋯頑張れ、フェス」
それは師には珍しい、真っ直ぐな激励だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます