第3話 現在編パート1 合コン その3

「ソワソワ…ソワソワ……」

「奏人…」

「ど、どうした……?」

「めちゃくちゃ緊張してないか?」

「え、そ、そそそ、そんなことないぞぞぞぞぞぞ!」

先に、本日の合コン会場である居酒屋、除菌王に着いた俺と亮。

予約していた、座敷席に着き、他のメンバーが来るのを待っていた。

あと、余談だけど、除菌王ってなんだよ。

どう考えても、居酒屋につける名前じゃないだろ。

なんて…関係ないことでも、考えて気持ちを落ち着けようとするのだが…

「す、すまん…正直に言うと、めちゃくちゃ緊張してるわ!?」

「はぁ…奏人。ちょっと、落ち着けって。その状態だと、女の子達がビビっちゃうぞ?」

「すぅ…はぁ…すぅ…はぁ…」

深呼吸をして、少しずつ、心を落ち着かせていく。

「うん…少しマシになってきたかもしれない」

「まぁ、あんまりにもきつかったら、言ってくれよ?」

「あぁ、悪い」

人生初合コンって、こんなにも緊張するものなのか。

少し舐めていた。

これは予想以上に精神がすり減るみたいだ。

まだ始まる前なのに、こんな状態だったら、心臓がいくつあっても足りないんじゃないだろうか。

普段、異性と話す機会と言えば、母親か妹かバイト先の人くらいだ。

「うぅ…」

「奏人、相変わらず異性に耐性ないよな」

「しょうがないだろ? 恋愛難民なんだから」

「恋愛難民ねぇ…」

目を細めながら、俺の顔をまじまじと見てくる亮。

「な、なんだよ…」

「本当に恋愛難民か? 撫子(なでしこ)さんのこと、忘れちゃったのか?」

「っ……⁉」

こいつは、どうしてこのタイミングで、撫子の話を持ち出してくるのだろうか。

「お前…その発言、悪意に満ち溢れてるぞ……」

「いや、奏人が唯一、惚れた相手だからさ」

「…………」

「おいおい、そんなガチな反応しないでくれよ。それとも何か? 今になってから、あの時、告白しておけばよかった……なんて思ったりするのか?」

「………その話は、今、関係ないだろ」

「いや、今だからこそ、言わせてもらいたい。奏人、俺は思うんだよ。あの時、玉砕覚悟でも、撫子さんに告白して、奏人の想いを伝えるべきだったって…」

「……………」

「もしかしたら、両想いだったかもしれないだろ? 明らかに、撫子さん、奏人と話す時、いつもより楽しそうにしてて…どう見ても、脈ありにしか見えなかったんだが…」

「……………」

「おい、黙ってないで何か言ってくれよ」

こいつは、何を今さら言っているんだろうか。

もう終わった話なんだ。

今さら、どうこう言っても何も変わらないし。

「高校生の時の話なんて、今の俺にとってはどうでもいいよ」

なんて、言ってはみるものの、記憶に残っている時点で、どうでもよくないことなのだろう。

無意識とは怖いものだ。

「あの時、亮が背中を押してくれただろ?」

「ああ。それは純粋にやらないで後悔するよりも、やって後悔した方がいいって思ったから…」

「悪い。今だからこそ言えるんだが……」

俺があの時、最後のチャンスの日。

彼女に告白しなかったのは……

「撫子…好きな人がいたんだよ…」

「……………」

今度は亮が黙ってしまう。

「無理だと分かるのが、怖かったんだよ。俺は…」

「奏人…」

告白しなければ、もしかしたら…なんてタラレバを考えられる。

結果が分かってしまうと、どうにもできない。

結果を分からないままにしておけば、傷は浅くて済む。

俺はそんな逃げ腰で、初恋を終えたのだ。

「すまん…奏人…」

「今さら、謝るなよ。もう過ぎたことだ、忘れようぜ?」

忘れられないから、今でも頭の中にずっと残ってる…なんて亮には言えないよな。

余計に心配させてしまう。

「俺は全然、気にしてないからさ」

「そうか?」

「おうよ! …ってなわけで、今日は亮の金で食いまくって飲みまくるわ!」

「はぁ…そういう所は相変わらずだな…。まぁでも、ちょっとは緊張がほぐれたみたいでよかった」

「言われてみればそうだな」

あぁ、ついに俺…合コンなんていうロマンのかけらもないものに参加してしまったのか…。

なんて、心の中で呟いた時。

ふと、撫子のことをまた思い出した。

彼女と初めて話したのは、高校三年生の時だった……。


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