第52話 姉妹吸血鬼の日常と可能性
懐から感じられる柔らかな暖かみに頬を緩め、可愛い妹と美しいメイドのおかげで不快感がすっかり消えていたリアは嬉し気に頷く。
「懲りずに頼んできたギャリックについてはわかったわ。 貴方は行きなさい、待ち人が待ってるのでしょう?」
「はい、感謝いたします。 それでは失礼いたします」
楽しみを置いてまで報告を優先したレーテは始めて見せた蕩ける様な満面の笑みを浮かべ、部屋を退出していく。
話し途中、本人の中では抑えていたつもりなのかもしれないが、あんな顔をされては長々と報告させるのも忍びないように思えた。
正直、リアとしては報告内容より彼女から溢れんばかりに感じられる高揚感が気になってしまい、早々に話しを切り上げ暇を出したのだった。
ギャリックから貸し出された部屋からご機嫌なレーテは退出し、室内にはリアとアイリスの二人だけが残る。
ベッドに腰掛けたリアは抱き枕のようにアイリスを背中から抱擁し、首元に顔を埋めながら思考に耽る。
ギャリックからの追加の依頼。
正直レーテが気になりすぎて全てを覚えているわけではないが大方の内容は把握しており、リアとしても面倒ではあったが受けてもいいとすら思っていた。
クルセイドア王国、聞いたことは数回あるかないかの聖王国の隣国。
情報網を広げる目的でも行くのもありだし、大国であるというのならアビスゲートの支部もある筈。
勲章を貰うついでに片手間に送り届けるのならいいだろう。
(ていうか、依頼対象の名前とか興味なかったからスルーしてたけど……プーサンって。 んふっ、……ふふっ、あははっ! そんな名前なのに家名は仰々しいわね。 黄色い髪で熊みたいな体格でもしていたら傑作よ)
内心でツボったリアは内面だけで留めるつもりが微かに肩を震わせ、閉じた口からも僅かに吐息が漏れ出す。
依頼についてはほぼ受注する形で決まっており、レーテのことや不快感が消えたことで全体的に機嫌が良くなっていたリア。
「お姉さま? 何をそこまで愉しまれているのですか」
「ふふ、色々と含めて気分が良くなっちゃっただけよ。 貴方こそ、もう機嫌は治ったのかしら」
後ろからリアが抱きしめてる為、アイリスは振り向けないが怪訝そうな表情を浮かべているのは容易に想像がつく。
そんなリアの言葉に思い出したようにアイリスはわかりやすくそっぽを向き、口を尖らせた様子で小さく呟いたのだった。
「べ、別に不機嫌だったわけじゃないですわっ。 ただ、私は少しでもお姉さまのお力になりたかっただけで……日光くらい、どうとでもなりますのに」
アイリスは今回の聖王国の依頼にて闇ギルド支部の留守番をリアから任されていた。
理由は幾つかあるのだが、リアとしては本来1人でいくつもりであった上、レーテに関しては本人の強い進言があったから同行を許した。
彼女にはリアから渡した指輪もあり、日光に大しての耐性はアイリスよりも高くなっていたからだ。
しかし、日光耐性を付けず
何が起こるか分からない上、一人なら確実に護れる自身はあったが二人だとどうなるかわからなかったからである。
だからアイリスにはもしもの時の為余計なことをさせないよう、闇ギルドとギャリックの監視を任せ留守番を言い渡していた。
ぶっちゃけ、リアが心配で堪らなく過保護を発動しただけに過ぎないのだが、アイリスとしてはそれを含めての不満だったらしい。
「ごめんなさい、貴方の力を信用していないわけではないけれど。 もし、貴方に何かあれば私はしばらくは立ち直れない自身があるわ。 心配性のこの姉を、許しては貰えないかしら?」
拗ねるように頬を膨らませ不満を口にするアイリスの肩に、顎を乗せながら耳元で囁くリア。
吐息が耳にかかってしまったのか、ビクッと肩を震わせるアイリスは振り向きながらその可愛い横顔を見せ頬を僅かに赤く染めていた。
「お姉さまは心配しすぎですっ。 お姉さまに比べたら脆弱なこの身ですが私、これでも上位吸血鬼ですわ」
「そうよね、貴方は間違いなくこの世界でも上から数えた方が早い程の実力者。 でもこればかしは……ね」
リアは拗ねてしまった妹をどう宥めるか考え、とりあえず絶えず漂う果実の様な香りに誘われ、魅惑するかのようにして髪の隙間から露わになった首を舐めることにした。
「ぺろっ」
「ひゃぁっ」
こんな辛気臭い場所には似合わない
(あら……ふふっ、口にはしないけどもう食べて欲しいのかしら? でももうちょっとこうしてたいわ)
リアは差し出された首元をペロペロと舐め、合間にキスをしてはその白い肌に赤い印を付けていく。
「っぁ、んっ……、くすぐったいですわ。 んっ……、っはふぅ」
「少ししょっぱいけど……それ以上に甘いわぁ、ぺろぉっ」
堪らず悶える小さな身体が抜けださないよう、抱きしめる腕を痛くないよう強める。
瑞々しい肌は透明な光沢を煌めかせて数か所に赤い印を付けると、我慢できなくなってしまったのかアイリスは微かに潤んだ声を洩らしながら振り向いた。
「お姉さまぁ……意地悪は嫌ですわ。 食べては、くださらないの……ですか?」
火照らせた赤い頬を魅せながら見詰めてくる赤い瞳は潤みを帯び、まるで懇願するかのような声を上げるアイリス。
そんな妹を視界に収めたリアのハートは絶対命中の剛矢がぶっ刺さる。
(ぐふっ! な、ななな、なんてっ可愛らしいお願いなの……!? もう少し味わってたかったけど、そんなお願いされたらお姉さまは……食べずにはいられないじゃない!!)
「あぁ、ごめんなさいアイリス。 貴方の反応が可愛くてつい……それじゃあ貴方の美味なる血を頂く前に、物事には順序があるわ」
「それはどういっ――んっ」
振り向くアイリスの小振りな唇を塞ぎ、固まってしまった彼女の可愛い口を何度か啄む。
数秒して漸く状況を把握できたのか、見開いた瞳の瞼をそっと閉じるアイリス。
「んむっ……ちゅっ、……はむっ……」
「ちゅ、んんっ、……はぁ、……はぅ」
脱力して完全に身を預けてくれるアイリスにリアは微笑み、気づかれないようにその体勢を高ステータスにものをいわせて足を広げ向きを僅かに変えさせる。
「?」とアイリスは何かしらの違和感を覚えたのか、閉じた瞳を開け周囲を見渡すも結局わからなかったみたいで再びその瞼を閉じた。
「ちゅ、……はぁ、はむぅっ……よそ見しちゃ、ダメよ。 れろぉっ」
油断ともとれた隙間に、舌を這わせ口内へと侵入させる。
アイリスはビクッとわかりやすい程に身体を震わせ、恍惚とした表情で瞬間的に瞼を開いた。
「れろぉ……はぁ、申し訳ございまっ、……んっ!」
「……ちゅうっ……ふぁぁ……はむっ」
原因をつくったのはリアだが謝ったのならそれはアイリスが悪いことになると暴論を掲げ、リアはお仕置きも含めて口内を蹂躙する舌を伸ばし、甘美な声を聞きながら控えめなそれを絡み取った。
どれだけの時間していたかはわからないが、口元を覆い尽くす唾液と濡れ響く音からそれなりにしていたのかもしれない。
狭い密室で殺風景というよりは酷く汚い部屋ではあったが、一定の空間には甘く蕩けるような濃厚な香りが漂よい続け、苺のように癖になる甘い香りがリアの鼻腔へと刺激し続けている。
完全に身を預けたアイリスは与えられる快感にまるで雛鳥の様に口を差し出し、リアもそれに応えるようにその果実を味わった。
「はむっ……んっ、ちゅっ……ぱっ……ご馳走様♪」
「……ふぁ、はぅっ、はぁはぁ……お姉さまぁ」
口元に溢れた水気をチロリと出した舌で舐めとり、潤ませた瞳と淫靡な雰囲気を全身から漏れ出させる可愛い妹へ微笑むリア。
そして上体を質の悪いベッドへと倒し、銀の長髪をバラつかせながらアイリスを優しく引き寄せ胸元へと乗せる。
(暖かい~、まるで幸せの布団ね。 食欲というか吸血欲と本能を刺激してくるこの匂いは、ちょっと危険だけどこの状況だと堪らないわ)
感じられるは柔らかい身体の感触と本能を刺激するかのような甘い香り、酔ってしまいそうな程に濃厚なそれに身を任せて、漏らされる熱い吐息にくすぐったさを覚えながら首元へと顔を埋めるリア。
「口内は味わったし、今度は貴方の体内にある血をちょうだい?」
「はい、存分にお召し上がりください……お姉さまぁ♪」
埋める牙は小さな抵抗はあれどすぐに肌を破り体内へと侵入すると、濃厚な甘美な血が口いっぱいに広がりだす。
「んっ……ちゅっ、んっ、……ぷはぁ……甘い」
「……はぅっ、んっ……、それは……よかったですわ」
何度か喉を鳴らしすも次から次へと溢れだす芳醇で甘美な血液。
内からも外からも甘すぎる匂いが広がり、加えて心まで沸々とした衝動が湧き上がってくるのを感じた。
リアは取りこんでいるのは自分の筈が、逆に取りこまれるような感覚に陥いり思わず笑みを浮かべてしまった。
(私とアイリスがぐちゃぐちゃに融け合って混ざり合ったみたいね、ふふっ。 相変わらず甘すぎるけど、癖になってしまいそうな味♪ ずっと飲んでたいわ)
数度飲んだだけで身体の力が漲るような感覚を覚え、体感だけでも数個の
バフの為に吸血してるわけではないが、吸血鬼は本来得た血によってその効果は変わる為、結果的に見れば得た効果だけでも自分とアイリスの相性が抜群に良い事がわかった。
もしかしたら心境にもよるんじゃないか、と頭の片隅で考えながらも吸血を再開しだすリア。
それから何度かの血を頂く中、アイリスはその間リアの首元や胸元、髪や手などをすんすんと鼻を鳴らしながら嗅ぎまわっていた。
正直、得られる血に夢中になってしまいそこまで気にしていなかったが、長い吸血を終え余韻に浸っているいま尚、続けられると流石に恥ずかしいものが沸き起こる。
「くんくんっ、っあふぅ……お姉さまは本当に、とてもとても良い香りがしますわぁ♪」
吸血されてる最中は時折甘い吐息を漏らし僅かに嬌声の声を口にしていたが、終えてからはまるで犬のように嗅ぎまわり、そして満足したように目を瞑り同じく余韻に浸り堪能するアイリス。
「そ、そう。 でも……貴方も本当に良い匂いよ。 どうしてこんなに良い匂いがするのかしら?」
恥ずかしい思いがありながらも本能ともいえるそれには抗えないリア、気持ちを切り替え抱きしめる力を更に詰めると暖かくぷにぷにとした体の胸元へと顔を埋める。
存分に快感と快楽を味わい尽くしたリアとアイリスは相手の胸元に鼻を寄せ合い、無遠慮に匂いを堪能し始める。
リアの口にした"匂い"は色々なものに対してのことを差し、恐らくそれはアイリスも同じではあった筈。
しかしリアとアイリスでは堪能できる数に相違があり、彼女の口にした良い香りというのがニュアンス的に"血の香り"だと感覚的に理解した。
リアとしては吸血されてみたいという欲求もあるし、純粋に彼女に自身の血をあげたいという気持ちもある。
だが気持ちは山々だが以前にも話した通り、始祖の血は真祖でもなければ堪えれるものでもなく、逆にダメージへとなってしまう。
心苦しい思いを感じながらも見つめ合いながら頬に手を添え、眉を顰めて微笑むリア。
「私も貴方に味わってほしい気持ちはあるわ。 でも、それをしてしまえば最悪、貴方は命を落とすことになる。 だからごめんなさい」
そんなリアの態度に対し、アイリスは勢いよく首を左右にぶんぶんと振り回した。
「いっいえ、その、私こそ申し訳ございませんわ。 本来であれば口にする事すら死に値する言葉なのに、お姉さまの優しさに甘えて……つい」
シュンとして俯いてしまったアイリスにリアは灰銀の髪を優しく撫でながら思考していた。
(うーん、どうにかして上げれるようにできないかな? 無くはないけど、
「1つだけ、方法があるわ」
「っ!?」
そういったリアの言葉に勢いよく顔を上げるアイリスの瞳には、隠しようもない程に期待の含んだきらきらとしたものが見えた。
リアはそんな可愛い妹の様子に苦笑しながらも、その瞳を真っすぐに見据えハッキリとした口調で言い放つのだった。
「貴方が真祖の吸血鬼になればいいのよ」
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