第47話 衰退の前触れ



 懐に踏込んで確実に神官の認識外からの斬撃。


 リアはこれでまた一人、自分にダメージを与えれる可能性のある者を屠れたと思った。


 油断や手加減そんなものをした覚えはないが、どこか気が抜けていたのもまた、確かなのかもしれない。


 自身の剣を止めた相手。

 眩いほどの聖光のオーラを纏い、白に包まれた剣聖。


 元々、白色だった髪は光源を放ち白色光はくしょくこうに輝いており、身に纏っている漆黒の鎧は白金へと変貌していた。


 そして、感じられる魔力も先程より数割増しに思える。



 (この状態は……もしかして)



 一目でわかる程の超強化。


 明らかに先程より速く動き、認識するのもやっとだった筈のリアに追いつく動体視力。


 体感では先程まではLV70後半といったとこだったが、現在は80の壁を確実に超えている。



 こんなことが可能なもの。

 巡らせた思考と視界に、思い至る物は1つしかなかった。



 「貴方の剣、もしかして光剣クラウソラス?」



 鍔迫り合いによって刀身から火花を散らし、血剣にギリギリッと金属の擦れた音を響かせる両手剣に目を向ける。


 しかし碧い瞳だった剣聖はその白金の目をリアから逸らすことはなく、話すことはないと言わんばかりに無言で斬り払うと、次なる一手を差し込んでくる。


 そんな剣聖の攻撃を斬り払われず逸らすこともできたリア。


 しかし実際には衝撃に身を任せ、口元に笑みを浮かべると迫りくる光剣を難なく撃ち落とし、何十何百という斬撃を弾きながら構わず話しかけ続けた。



 「完全未強化のそれは、久しく見てなかったから気づかなかったわ。 貴方程になれば不満があるんじゃない? それ」



 目の前の剣聖に話しかける中、周囲から放たれる無数の聖属性魔法を何事もないようにステップと宙返りで躱し、直撃しそうなものは黒獅ノ血剣で叩き落とす。



 聖属性魔法の波が終わったと思えば、今度は剣聖が眼前まで迫っていえ、抱えた剣を振り上げる動作へと入っていた。


 向けてくる顔は憤怒に漲っており、ピリピリと肌に感じる殺気は更に濃度が増したように思える。



 「国宝である、我が国の光剣を愚弄するかッ!」



 振り上げられる光剣を血剣で圧し止め、何度目かわからない甲高い音を周囲へと響かせる。


 リアとしては怒気を含ませ言われたことに、クエスチョンマークを浮かべざるを得なかった。


 「……」


 (馬鹿にしたって……その剣は大器晩成型の武器tier1よ? 無強化の現状、未完成の主力スキルを除いたら本来の3割にも満たない武器。 鉄の剣より多少マシな程度の得物で向かってきて、馬鹿にしてるのはどっちよ。 叩き折ってあげようかしら)



 不満顔を浮かべながら剣聖の光剣を弾き、体勢が崩れた所にすかさず回し蹴りを叩き込む。


 白金の鎧は拉げることはなかったが、まるで鎧に大砲が当たったような鈍く重い音を響かせると剣聖は民家へと吹き飛び、壁を幾つも突き抜け数件先の家までその衝撃音と砂煙を撒き散らした。



 「クレイヴ卿ッ!」


 「なっ!? このっ魔族風情がぁぁ!!」


 「神の鉄槌を、喰らうがいぃぃ!」



 既に準備していたのだろう。

 残った神官たちは怒りと憎悪を露わにし、醜く歪んだ顔を向けながら一斉に手元の光をリアへと放ち始める。


 【戦域の掌握】内に剣聖が居ない事を確認すると、放たれる数十もの光槍を撃ち落とす。


 続けて口元に指を運ぶと【鮮血魔法】を発動しながら、周囲へと血をばら撒く。



 「お返しよ、対処してみせなさい」



 それは投射途中で形を変え、数百もの極小の血針となって残った神官と聖騎士、聖母へと雨の様に放たれる。


 聖母はいち早く反応し、血相を変えて【防護魔法】を自分の軌道上へと展開する。



 「大聖女様ぁ! 私を前にっ」


 「くっ、【防護魔法】―― 聖晶の守楯」



 聖母の前に割り込んだⅢの数字を持つ聖騎士に薄く淡い光を放つ膜が3重に張られる。


 そして他の神官も同じように慌てふためきながら展開するがその数は2枚であり、血針の衝突によって無慈悲にも容易く破壊されると、その純白のキャソックを赤黒く染めた。



 ガラスが割れるような音が絶え間なく鳴り響き、うっすらと影が見える砂煙の光景を只々眺めているリア。


 すると、側面から白銀が反射するのが映り込み、血剣を割り込ませる。



 「貴様ぁぁ! 何が目的なのだ!」



 砂煙に紛れ現れたのは胸元にⅡという数字を付けた聖騎士。


 手に持つは燃え盛る真っ赤な炎を剣に纏わせ、フード越しにも熱気を感じさせるほどの熱量もった炎剣。


 その剣からは微かに聖属性が感じられた。



 「目的? それを貴方に言う必要はないわ」


 「何故、魔族がここにいる? 貴様らは既に我ら人類種に敗北している! 大人しく滅されるがいい!」



 兜を被っていながらも容易に想像できる表情と気迫に加え、フェイスガードから感じられるは血走るような狂気じみた瞳。


 剣にエンチャントさせた炎は聖騎士の男に呼応するかのように勢いを増していき、一心不乱に振るう炎剣はその炎を空中へと燃え上がらせた。



 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 咆哮を上げながらがむしゃらに振り回す聖騎士を、冷めた目で見詰めるリア。


 先回りするかのようにその悉くを打ち落とし、数え切れない無数の火花を周囲へと撒き散らす。

 そして砂煙が落ち着いてきた頃、その瞳にはありありと驚愕の色を浮かべるのがはっきりと見えた。



 「はぁはぁ……がはっ、ぐぅぅ」



 そしてあからさまに重心を崩した男の隙に、リアは腕を斬り飛ばすと返した剣で首を狙う。


 だが、それは離れた砂煙から飛ばされた光の斬撃によって、阻止されることとなる。



 (あの程度でやれるとは思ってなかったけど、思った以上に復帰が早いわね……剣聖)



 瞬時に振り返した剣を引き直し、その場から飛び退いたリアは光の斬撃をローブ擦れ擦れで躱す。


 もちろん、打ち払うことも視野に入れた。

 しかし、視界が完全に良好ではない状況ではリスキーだと考え、無難な方法をとることにしたのだった。


 黒獅ノ血剣を創る上で使ったスキル《漆喰ノ剣》。

 これは聖属性の対抗スキルであり、打消す対象と同じ量の魔力MP、そして同じ方向と角度どちらも完璧に成立して始めて対象の無効化が行えるスキルなのである


 習得してからの練習は必須。

 失敗した時のリスクは一撃一撃に重きを置いているプレイヤー間では計り知れない程であり、使う人を選ぶスキルとして有名だったが、リアはこのスキルを重宝していた。



 それは、彼女の生まれながらに持っていた人間離れした反射神経と動体視力によって、習得してからは即戦力として弱点を補える最高のスキルへと昇華していたからだ。



 対象を失った斬撃はそのまま軌道上の建物へと衝突し、爆散すると周囲に土煙と破片を振りまきながら扉より遥かに大きな残痕を壁へと残す。



 「下がれ、セシル。 この真祖は私が討つ」


 「はぁ……はぁ、……クレイヴ卿」



 切断された腕を抑え、斬撃の出何処へと顔を向けるⅡの聖騎士。


 コツコツとした踵を踏み鳴らす音を響かせ、砂煙の中からその姿を表す剣聖。


 リアに蹴られた鎧部分は装飾が剥がれ落ち、露わにしている頭部からは出血が見られ目元にかけて一筋の赤い線をつくっていた。


 剣聖は強い意志を感じさせる目でリアへと視線を向けると、姿勢を低くして戦闘の構えを取る。


 すると何処からともなく開けた視界から聖母の【加護魔法】と【補助魔法】が発動し、付与されるとその存在感を何倍にも膨れ上がらせた。


 リアはそんな剣聖に気は向けてはいるものの、その視線は周囲へと向けていた。



 (うーん、粗方数は減らせたかな? 目も引けてることだし、次は教皇ね。 逃げられてないといいけど……レーテは大丈夫かな。 急がないと)



 目の前に構えを取り今にも斬りこんできそうな剣聖、そして負傷しながらも取り囲む聖騎士や神官、そして聖母。


 数にして最初の半分以下な状態に満足し、構えを見せた剣聖へと視線を送る。



 「残念だけど、もうここに用はないわ。 私って忙しいの」



 リアはフードの中から赤い瞳で一瞬だけ剣聖に目配せすると、周囲に見える一番高い建物へと跳躍していきその場を後にすることにしたのだった。


 後方から剣聖の「まさか、奴の狙いはっ!」と聴こえた気がしたが、気づいた所で結果は変わらない。



 数回の跳躍を繰り返し、屋根を蹴って塔に昇ると広場も含めて聖都市全体を見渡す。



 「さて、どこに……――居た」



 "聖神への祈祷"が行われる筈だった中央広場には人の影が見えず、あるのは磔にされ放置された異端者たち。


 複数人、お願いの対象と特徴が類似するものが見えたが、それは後であるとリアは視線を外す。



 見据えるは遠目に現在進行形で移動している一団。


 向かう先は不明だが、急ぎはするも焦る様子が微塵も感じられず、まだリアの情報が回っていないか、もしくは剣聖が向かったことによって安心しているのか、どちらかだろうとほくそ笑む。



 「愚かな教皇で助かるわ。 ……レーテを待たせているだろうし、もう少しだけ待っててね」



 リアは塔から飛び降りローブをはためかせながら空中で【万能変化】を行い、白い蝙蝠へと変化すると蝙蝠とは思えない飛翔で加速して目的の一団へと直行する。




 時間にして僅か30秒。



 人型でも同じ速度で駆けることは固有能力アーツやスキルを惜しみなく使い、更に障害物がなければ可能だろうが、それらが無限ではない以上無駄な消費であり、何よりも楽なことから【万能変化】での移動を選んだ。



 一団の上空へと辿り着くと考える間もなくスキルを解除し、空中へ投げ出される形となるリア。


 ローブをパタパタとはためかせ降下するとフードが捲りあがり、被り直すのも面倒であった上どうせ滅ぼすのだからいいか、と開き直ることにした。



 (結構な数居るなぁ。 血剣で蹂躙するのは簡単だけど、今回は派手に目を引きながら皆殺しにするのが私の役目。 美味しいところは我慢し続けてる、あの子にあげないとね♪)



 リアは空中で手首を噛み千切り、何時もより大量に出血する感覚を腕から感じながら、宙へと振り払って鮮血ばら撒く。



 【壊血魔法】《凝血化》《流血な身》―― 燦爛の剣雨



 宙にばら撒かれた夥しい血。


 それはリアが出血した量よりも明らかに異なる分量であり、それらは魔法発動と同時にまるで生き物のように血剣を形取る。


 体感で体力HPの1割に満たない程の減少を感じながら、僅か数秒にして上空には数百もの血剣が浮遊し、その切っ先を地上の一団へと向けることとなった。



 「手加減が難しいけど教皇以外、本気でいいわよね!」



 リアは素顔を晒したまま白銀の長髪を風に靡かせ、口元で笑みを浮かべると、その鋭い犬歯を覗かせる。


 大の字にして降下するリアは、後方で停滞する血剣を両手で仰ぐようにして一団へと魔法を放つ。



 すると放たれると同時に、一団は上空に向け何重もの光の障壁を展開し始めた。


 それは事前に詠唱していなければ間に合うはずのない障壁だったことから、恐らく一団の誰かしらが上空の異変に気付いたのだろう。



 血剣はリアの制御の元、教皇には加減を加えながら一団へと剣の雨を降らせることとなった。


 それは雨というにはあまりにも激しい土砂降り、いや土砂降りすら可愛く見えてしまうほどの絶え間ない衝突音と衝撃波を響き鳴らし、何重にも展開された光の膜は意味を成す事なく衝突と同時に呆気なく割散らかした。


 1本によって発生させる衝撃と振動、撒き散らす砂煙は建物1件を半壊させるレベルではあるが、数百本になるとそれはまるで地面を揺らすような激震へと代わる。



 全ての血剣が掃射され、余波と振動によって崩れてしまった民家の上へと、踵の音を響かせながら降り立つ。



 視界が悪く、完全には把握できないが気配的にまだ生存者は居るように思えなくもない。


 正直、やりすぎてしまったような気がしなくはないが教皇さえ殺さなければ大丈夫だと、ポジティブに考えることにしたリア。



 (【戦域の掌握】には反応なし、感知範囲外か。 煙たい、けど変に抵抗されるよりこっちの方が楽か。 さて、生存者を始末していこうかな)



 見てるだけでは時間が勿体ないと感じたリアは、砂煙で一寸先も見えない空間へと足を踏み入れ、目的の相手を直接探しに行くことにした。



 道中、僅かに息のある者に止めを刺し、運良くあの豪雨の中で生存した者も、認識する暇を与えない速度でその命を刈り取る。


 歩を進めるごとに強くなる血臭。

 その数は歩けば歩くほど夥しいほどに感じられ、一団の大半が絶命したのだと理解すると生存者がそう多い様にも思えなかった。


 目が見えなくても【戦域の掌握】は半径8m以内であれば手に取るようにわかるのだから、「範囲が狭い」「反応が間に合わない」というプレイヤーはやはり可笑しいとリアは思う。



 歩きながら、そんな事を考えていると、――漸く見つけた。



 徐々に視界が良好になっていく中、見えたのは白と金の装飾が施されたカズラを身に纏った老人。


 確か五角形の司教冠ような帽子を被っていたと記憶しているが、今の豪雨で無くしてしまったのだろうか。



 「なんなのだ、今のは一体なんなのだ!? ネシュミール! おるのか? ソーン! どこにおる? 皆、……儂の声が聴こえんのか?」



 広場で見せていた姿とは似ても似つかない姿。

 起きたことの整理が付かないのか、怯えと焦りがありありと見える表情で砂煙の中を見渡す教皇。


 純白だった筈のカズラは飛び散った破片や砂煙によって所々が黒ずんでおり、手に持った豪華な造りの長杖は手に持つというよりは、真っすぐに立つことのできない爺の支え棒と化している。


 見れば、教皇に対しては直接に攻撃を加えないよう調整した筈が、足元付近の裾を血で滲ませており、破けていないことから余波で負傷してしまったのだろうかと考える。



 「誰か、誰かおらんのか。 聴こえてる者が居るのなら、返事をしてくれんか?」



 破壊の痕跡が周囲へと広がる中、頼りない声が木霊し続ける。


 そんな哀れなお爺さんに見かねた始祖は、返事を返してあげることにしたのだった。



 「どうしたの? 私は聴こえてるわよ」

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