『なんでも屋』との出会い
ネオン
プロローグ
「死んだ目ってなに?」
太陽のようなオレンジ色の髪の青年は、不思議そうな表情を浮かべて、カウンターの中においてある椅子に座っている男を正面から見つめて問いかけた。男はカウンターに足をのせて本を読んでいる。
「なんだいきなり」男は本から目を離して、青年に視線を向ける。
「あのね、この前、ユキが言われてた」
カウンターの中の男は、テーブル席に座って本を読んでいる男に目をやった。そして、にやにやしながら、
「そこにいるユキの目のことだよ。ねえ、ユキ」
と呼びかけた。
ユキと呼ばれた男は本から顔を上げ、「どうしました」と無表情で首を傾げた。本に没頭していて二人の会話が聞こえていなかったようだ。
「お前の目のことを死んだ目って言うんだぜって、トワに教えてやってたんだ。自覚ねーか?」
「自覚があるなし以前に、そんなこと考えたことなかったですね。まあ、否定はしませんよ。今の自分って、そう言われてもしょうがない気がします」
トワと呼ばれた青年は好奇心のままに、タタタッとユキの目の前に行って、ユキの瞳をじーっと覗き込んだ。ユキは拒まず、無表情で見つめ返している。
しばらくして、トワはユキから目を離すと、
「あー、わかんない! 目は目だよ? ユキは生きてるから生きてる目だよ。死んでないよ。ただの普通の目玉だよ」と、チンプンカンプンな様子で、カウンターの中の男に向かって叫んだ。
男は声を上げて笑った。バカにする意図は感じられない。ただ単に面白くて仕方ないといった様子で、笑い声をあげている。
「死んだっつーのは、ただの比喩だ。たとえただけで、本当に死んでるわけじゃねーの。ま、いつかわかるさ。毎日ユキの目でも見つめてみたら? な、死んだ目のユキ」
男はからかうようにユキを見た。ユキは返事はせず、本に目を戻して、一言、トワに声を掛けた。
「トワは知らなくていい事です」
トワは不満そうな声を上げたが、ユキはわれ関せずといった様子で本を読み進めている。トワは不服そうな様子でユキから離れ、男の正面の椅子に座ってふくれた。
「ユキは冷たいねぇ」
男はカウンターから足を下ろすと、くつくつと笑いながら、トワの頭をポンポンとなでた。何度か頭をなでられると、トワの表情が気持ちよさそうに和らいだ。
「ユキの目の目が生き返ることはとーぶん、ねーぞ。もしかしたら、永遠に死んだままかもな。だから、トワ、遠慮せずにユキの目を観察すればいい。いつか、死んだ目ってのが何か理解できるかもな」男はにやつきながら言った。
「でも、ユキが冷たい」トワはしょんぼりした様子で呟いた。
「あんなのただのテレカクシだ。安心しろ、お前がやることを、あいつは拒まねえよ」
「そうかな?」
「俺が言うんだから間違いねぇ」
「そっか!」トワの目がキラキラと輝いた。「確かに、ムゲンが言うなら間違いないね! ムゲンに言われた通り、これから毎日ユキの目を観察してみる」
「だってさ、ユキ。聞こえてるんだろ。トワの気がすむまでは付き合ってやってね、死んだ魚の目のユキくん」
男は笑いをかみ殺しながら、呼びかけた。
ユキは顔を上げることなく、大きな舌打ちをした。
ムゲンは大爆笑。
トワは「死んだ魚の目って何? なんで魚?」と不思議そうにムゲンを見ている。
この物語は、簡単に言ってしまえば、なぜユキの目が死んでいるのかということを語るためだけの物語である。
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