怪盗ソルシエ 〜雨ノ森市とお気に入りの喫茶店〜
冲田
第1話 怪盗ソルシエ
ある夜。テレビカメラは、雨ノ森駅から少し先の高台、いわゆる高級住宅街を映し出していた。
とある豪邸が
『あ! 住宅内に侵入していたと思われる怪盗ソルシエが今! 屋根の上に現れました! 紅い宝石……ルビーの首飾りは、予告通り盗まれてしまったのでしょうか⁉︎』
現地のリポーターが興奮気味に実況している。
『あ! 花火のような光とともに、何やらやけにカラフルな煙の様な……。煙幕のようなものでしょうか。火事ではない様です。
ああっ! やはり! カメラは怪盗ソルシエを見失ってしまいましたっ! 私の目からも確認できません。彼は一体どこに……。
警官隊や警備員が動き出しました。我々も追ってみましょう! ひとまず、スタジオにお返しします!』
画面は切り替わり、ニュース番組のスタジオが映し出される。神妙な顔をしたアナウンサーやコメンテーターが口々に話し始めた。
『いやぁ……怪盗ソルシエが雨ノ森市に現れてこれで被害は四件目。治安は大丈夫なんでしょうかねぇ。警察は何をやってるんでしょう』
『ソルシエは単なる空き巣とは違います。ですから、彼が現れたからと言って治安が悪くなるというのは、ないんじゃないですかね。警察を責めるのも、気持ちはわかりますが……奴は全世界的な大怪盗。相手が悪い』
『実際、ソルシエは捕まえられないものの、他の犯罪の検挙率はむしろ上がっていますね。市長も連日、安全安心の近未来都市と、アピールしています』
『彼はなぜ、この雨ノ森をターゲットにしようと思ったのですかね?』
『憶測でしかありませんが、急ピッチで開発の進む注目の都市ですから、流入してくる富裕層も多いと考えたのかもしれません』
『ではここで、改めて怪盗ソルシエがどのような人物なのか、振り返ってみたいと思います』
画面がVTRに切り替わった。これまでに撮られた怪盗の映像とともに、ナレーションが流れる。
『──怪盗ソルシエ。
トレードマークは黒い
主に宝石などの貴金属を、時に貴重な古美術品を盗み出す。
盗みの前には必ず予告状を出し、こっそり忍び込むどころか派手な演出で登場して確実に
己の存在を
彼の素性は 謎に満ちている。
盗みの手口は一切不明。どんな最新式のセキュリティをも突破してしまう。そのトリックは誰にも解けず、まるで手品か魔法のようだと人々は言う。
世界にその名を
彼が雨ノ森をターゲットにした真の目的は、一体何なのだろうか……』
とある喫茶店内。
従業員の控え室兼休憩室となっている部屋で ニュース特番を見ていたこの店のマスター ──白髪混じりの男性は、ふわとあくびをすると テレビを消した。自分には、縁のない話だ。
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