第12話 鈴見さんの悩みと杏さん襲来

 玄関から戻って

 「ごめんね鈴見さん…さっきはスマホ忘れてしまって返信できなかったんだよ」

 昨日、大学に行ってサークルに忘れ物をしてしまい朝一で取りに行っていたのだった。

 途中で気がついたがすぐ戻るつもりだったから…


 「こちらこそ急に来ちゃってごめんなさい…それとこれ半分だけど薬代として受け取って欲しいの、本当、残りは頑張ってまたダンジョンで稼ぐんでもう少し待ってて…」

 彼女は封筒を俺に差し出してくる。


 俺はそれを見て…

「ん…その~鈴見さん…お金はいいよ、菅生さんのは公務だから謝意を断るのもアレだから受け取ったけど、本当言うとね…この前、使ったポーションはタダみたいなものだから…」

「タダ?」

 不思議そうな顔で返してくる鈴見さん。


 俺は薬鞄を呼び出すと突然、目の前に鞄が現れる。鞄を置きながら中からハイポーションを出して置く。

「この鞄は出自は秘密だけど使ったら24時間で補充されるんだよ。今は12時間経つと補充されるんだけどね…だから実質タダみたいなものだからお金はいいよ」

 鈴見さんは口を開けて目も大きく見開いて俺の顔と鞄、ハイポーションの瓶を見比べる。



「すいませんお見苦しいところをお見せしまして…」

 鈴見さんはすっかり落ち着いたようで…


「まあ、お茶も冷めてるから新しい飲み物出すよ」

 俺は新しく持ってきたコップにジュースを注いで勧める。


「あ、ありがとう」

 鈴見さんはコップを受け取ると喉が渇いていたのかゴクゴクと良い飲みっぷり~


 しかし鈴見さん…救出した時は顔も汚れて身体が辛そうな表情だったから分らなかったが、こうして面と向かって座って見てみると凄く可愛い人なんだなと分かる。容姿も可愛らしくて探索者の時とまるで違う事に今更ながら気づくなんて…


「あ、あのさっきの転移や薬鞄の事も誰にも言いませんから…」

 飲み終えてそうはっきりと告げる真剣な顔に一瞬、見惚れていると


「どうしたんですか?」


「いやこちらこそありがとうね~そ、そういえば相方さんの具合はどうなの?」

 俺は誤魔化す様に話題を変える。


「はい、冥耶は今は家で休んでます…でも…」

 悲しそうな顔で…

「でも、もしかしたらもう探索者としてはダメかもしれません」


「駄目なんだ…」


「やっぱりあれだけの体験しては、心が折れてしまうのは仕方がないと思います」

 実力があっても身体が丈夫でも心が折れてしまえば、立ち上がる事もできなくなるのは探索者だけではないことだろう。


「鈴見さんは探索者続けるの?」


「私達のパーティは冥耶以外、3人とも亡くなったので…私も今は新しいパーティ募集を探してる真っ最中でして、神宮司さんみたいにソロで活動できれば良いんですが…流石にそう簡単には…」

「そうか~パーティか…普通は必要だよな」

 俺は好きでソロやってるし迷惑かけたくないから…だしな~

 俺のスキルはな…

 そんな事を考えてると~



 ピンポーン!



「ん?…今日はやたらとお客さん来るなあ~鈴見さんちょっと待っててよ」


 俺は特に気にせず玄関を開けながら

「どちらさまですか?」

 と聞きながら見ると…

「お久しぶりです~カムイさん!」

 そこには杏奈さ…じゃなくて杏さんが立っていた。

「あれ、久しぶりだね…今日はどうしたの杏さん」

「今日こっちの方で用事あったんで帰りに寄らせてもらいました」

「あ~じゃあ上がってよ…知り合いが来てるけど大丈夫っしょ?」

「はい~失礼します」


 客間に通すと鈴見さんと杏さんが初顔合わせ


「はじめまして~杏です」

「え?あ、あの鈴見華鈴です…神宮司さん、彼女は?」

「ああ彼女は…(俺の趣味の事、言ってなかったけど~まあ大丈夫か)俺の趣味の友達だよ」

「ほうほう~カムイさんのお友達と言うとコスプレイヤーですか?」

「こ、コスプレイヤー?」

 目を真ん丸として驚いてる様子だった


「あ~鈴見さんは探索者やってる人だよ」

「なんと!~ではカムイさんのパーティ仲間なんですね…じゃあもう孫空冴のコスプレで火面破滅波見たんですか?この前、空冴の瞬間移動で私の部屋まで来て教えてくれたのに~今度見せてくれるって言ったのに全然連絡してくれなくて本当、カムイさんって焦らすの好きなんだから~」


「…へ?」

 鈴見さんはあっけに取られて呆け顔になっていた。


「…(しまった~口裏合わせておくの忘れてた!!!)」


(どうすればいいんだ?)

「あれ?!お二人ともどうしたんですか?」

 杏さんだけ俺たちの顔を見て不思議がってる。


「神宮司さん…」


「はい!」

 俺は背筋を伸ばす。


「孫空冴のコスプレ?…火面破滅波?…瞬間移動?…もしかして神宮司さん…」

「ごめんなさい!!」

 俺は土下座して謝る。


「その…嘘をついてごめんなさい!!!」


 その後、俺は土下座しながら鈴見さんに孫空冴のコスプレ姿で鈴見さん達を守った事、そして知らないと嘘を付いていた事、そして自分のスキル、職業コスプレイヤーとキャラインストール、クリエイトの事の説明に追われた。


 杏さん事態が呑み込めず、頭にクエスチョンマークをいくつも炸裂していた。



「その分かりましたから…神宮司さん…頭を上げてください」

 鈴見さんはそういうと俺に声をかける。


「スキルは人にとって致命的なものになるし嘘ついたのは仕方がないですし謝る必要ありません。だから気にする必要はありませんよ。」


 俺はその言葉にホッとして顔を上げたが…

「まあ確かに~空冴の事、聞いて嘘つかれるのちょっとムッとしましたけどね…その力で私達を助けてくれたのだから感謝こそすれ謝る必要はないですから…だから気にしないで…」

 しかし目には薄っすらと涙が溜まっていた。


「本当ごめんね…鈴見さん」

 俺は再び土下座を完遂する事になる。




 …で~どうしてこうなった?

「はいでは~孫空冴のコスプレ披露です!!!どうぞカムイさん!」

 杏さんは気軽に、鈴見さんはワクワクした顔で俺の方を見ていた。

「えええ~では孫空冴のコスプレ始めさせて貰います~」


【キャラインストール】孫空冴


 彼女たちの前で俺は孫空冴のコスプレをして立つ…


「おおおお~孫空冴のコスプレだ!!!…良いじゃないですか!」

「本物の孫空冴だ…」

 杏さんはカメラマンの目になり、鈴見さんは憧れの人物に会えたファンみたいな顔で俺を見ていた。


「超サイカ人はできるんですか?3は?もしかして黒歴史の4は?もしくはゴッド?」

 杏さんはテンションアゲアゲの状態で聞いてくる。


「まだ覚えてないよ~多分あるとは思うけどね、瞬間移動が最新」


「確か雷王拳使ってましたよね~身体中に電気のスパークが光ってましたよね」


「おお~雷王拳とはまたマニアックな…」


「流石に部屋の中で雷王拳使うと不味い気がするからパス」


「「ええええーーーー」」

 2人はついさっき初めて会ったとは思えないシンクロさで俺に不平を言う。


 「コスプレか…学生の頃やってみたいなとは思ったけど、なかなか敷居が高かったしやり方も分からなかったからできなかったんですよね」


「ならやりましょうよ!」


「え?」


「衣装なら私持ってますし〜最近は配信の度に着てますよ!!」


「配信?」


「私、動画の配信者でもあるんで着る服が、意外と面倒臭くってウィッグ被ってコスプレ衣装着てやってるんです」


「まあ…お試しに着てみるのも良いかな〜」

 俺はそんな光景を微笑ましく見ていると…


(ん?!あれ何か違和感が?)

 俺はスマホを覗くとステータスに新たな項目が追加されている事に気がついた。




 コスプレイヤーフレンド

 ・立花杏奈 〈貸出可〉

 ・鈴見華鈴 〈貸出可〉

 


 これは…



 

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