シナリオ習作
under_
第1話 息子からのプレゼント
人物表
石田圭太(38) 会社員
石田美香(36) 圭太の妻
石田祐也(5) 圭太の息子
吉川健治(44) 会社員
伊藤誠一(55) 会社役員
受付嬢
◯日野ソリューションズ・会議室
小さな会議室で、石田圭太(38)と吉川健治(44)が向かい合って座っている。
吉川は眉間に皺を寄せ、手に持った紙の資料に目を通している。
石田は肩を縮めて、吉川の様子を見ている。
吉川「うーん」
と、紙の資料をテーブルに置く。
石田「どうでしょうか、課長?」
吉川「これはまずいな」
石田、更に肩を縮めて、
石田「それは、どういう……」
吉川「言葉通りだ」
吉川、資料を人差し指で叩く。
吉川「提案の内容は悪くない。でもその良さがまったく伝わってこないんだ。これじゃ明日のプレゼンは失敗するぞ」
石田、ズボンのポケットから紺色のハンカチを取り出し、額の汗を拭う。
石田「すみません」
吉川「俺に謝ってる暇があるなら、早く資料を直せ」
石田「はいっ、すみません」
石田、テーブルの紙の資料を掴んで、駆け足で会議室を出ていく。
◯同・事務室(夕方)
自席でPCに向かう石田。
額にはたくさんの汗の滴。
紺色のハンカチで額を拭く。
◯同・外観(夜)
窓から明かりが漏れる、日野ソリューションズのビル。
◯同・事務室(夜)
石田の席の頭上だけ明かりがついている。
机の上に、真っ赤な字で埋め尽くされた紙の資料がたくさん置かれている。
石田、大きく背伸びをする。
◯駅・プラットフォーム(夜)
電車が通り過ぎていく。
電光掲示板に、「本日の運行は終了しました」と表示される。
◯石田家・リビング(夜)
ソファーに座ってテレビを見ている、パジャマ姿の石田美香(36)。
テーブルに、包装された平たい箱がある。
美香、欠伸をする。
ゆっくりとした足取りで石田が入ってくる。
石田「ただいま」
美香「おかえり」
と、石田へ振り返る。
美香「お仕事大変ね、誕生日なのに」
石田、きょとんとする。
石田「ああ、すっかり忘れてた」
美香がダイニングへ視線を向ける。唐揚げやケーキなどの料理が並んでいる。
美香「祐也も楽しみに待ってたのよ」
石田「悪いことをした。でも明日は大事なプレゼンがあって」
美香「わかってる」
と、テーブルの包装された箱を持ち上げ、石田に渡す。
美香「祐也から、誕生日プレゼント。パパ、お仕事頑張って、だって」
石田、驚いた表情で箱を見る。
石田「これを、僕に? 祐也が」
美香、微笑んで、
美香「お金を出したのは私だけどね。でも、祐也が選んだの」
石田「そうか、嬉しいな」
石田、ニヤニヤ顔で包装紙を外す。
外し終えたところで石田の手が止まり、真顔に戻る。
石田「祐也は、これを僕に選んだの?」
美香、困ったような表情を浮かべて、
美香「私も、考え直すように言ったんだけど、祐也はパパにはこれがいいって」
石田は箱から、戦隊ヒーロー、センシマンのキャラがプリントされた、赤いハンカチを取り出す。
◯同・祐也の寝室(夜)
ベッドで石田祐也(5)が寝ている。
石田が静かに部屋の戸を開ける。
祐也を愛おしい顔で見る
石田「ありがとう。パパ頑張るよ」
石田、手に持った赤いハンカチを見る。
◯ジャパン鉄鋼社ビル・外観
一番上にジャパン鉄鋼社のロゴがある、高いビル。
ビルの入り口に向かって、石田と吉川が歩いていく。
◯同・ロビー
ソファーに石田と吉川が並んで座っている。
石田は、紙の資料に目をじっと見ている。
石田の額にびっしりと汗の滴。
吉川「緊張しているか?」
石田、資料を見たまま、
石田「はい」
と、赤いハンカチで汗を拭う。
受付嬢が近づいてくる。
受付嬢「日野ソリューションズの吉川様、石田様。ご案内いたします」
吉川「ちゃんと準備したんだろ。なら、自信を持て」
と、石田の肩を叩いて、立ち上がる。
石田、手に持った赤いハンカチをじっと見つめ、大きく深呼吸してから立ち上がる。
◯同・会議室
大きなモニタがある広い会議室に、十人ほどの社員がコの字型に座っている。
一番奥に、伊藤誠一(55)が険しい表情で座っている。
石田と吉川が入室して、伊藤たちへ一礼する。
石田がモニタ前に移動する。
石田「それでは、弊社のプレゼンを始めさせていただきます」
モニタに「ジャパン鉄鋼社様向けMAシステムのご提案」と表示される。
◯同・外観
ビル頂上のジャパン鉄鋼社のロゴ。
◯同・会議室
真剣な表情でモニタを見つめる社員たち。
石田の声「この施策により、20パーセントの効率化が達成可能です」
小さくうなずく、伊藤。
会議室の隅で石田を見守る吉川。
吉川「(小声で)いいぞ、その調子」
石田、モニタから手元の資料に視線を向ける。
石田「それでは次の資料です」
モニタにグラフが載った資料が表示される。
モニタを見て、石田の開きかけた口が止まる。こわばった表情で、手に持った資料とモニタを見比べる。
吉川、首を伸ばして石田を見る。
石田は悲壮な面持ちで吉川を見る。
吉川「(小声で)まさか、資料を間違えたのか」
怪訝な表情で石田を見る社員たち。
眉間に皺を寄せる伊藤。
石田「えっと、そのう……」
石田、赤いハンカチを取り出し、額の汗を拭く。
資料を見たり、お互いで顔を見合わせたり、ざわつき始める社員たち。
伊藤、大きな咳払いをする。
びくりと体を震わす石田。
吉川、顔を青ざめる。
伊藤、ゆっくりと石田を指差す。
伊藤「それ……」
石田「(うわずった声で)はっ、はい……」
伊藤「そのハンカチ、格好いいね」
キョトンとする石田。
石田「えっ、ええっと……」
伊藤「どこで買ったの?」
石田「あの、昨日息子から貰いまして」
石田、手に持ったハンカチを見る。
唖然とした表情で伊藤を見る社員たち。
伊藤、周囲を見渡して、
伊藤「あっ、申し訳ない。歳取ると思ったことがすぐ口に出ちゃってね」
と、にこりと笑う。
伊藤「良い提案だと思います、続きをお願いします」
石田、息をのみ、
石田「ありがとうございます!」
と、伊藤へ一礼する。
石田、堂々とした声で、
石田「資料に間違いがありましたので口頭で訂正させていただきます……」
◯石田家・リビング(夜)
ソファーに座っている祐也。
石田、入ってくる。
石田「ただいま」
祐也「パパ、おかえり」
祐也、立ち上がって石田に駆け寄る。
祐也「お仕事どうだった?」
石田「こいつのおかげでバッチリだったよ」
と、赤いハンカチを見せる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます