The Collisions――星界の巨神同士の激突
シェパード
氷の魔王vs邪悪なブラックホール
第1話 いやもう勝手に戦ってくれ、やっぱり戦うな
登場人物
―ルリム・シャイコース…妖艶なる白蛆の魔王、肥えた大蛇のごとき麗人、己の
―レベル5の異常重力体…自我を持つ邪悪なブラックホール、星々を渡り歩くコズミック・エンティティ。
『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。
詳細不明(リニア時間線的観点では恐らくコロニー襲撃事件以前):魔王の
妖艶なる白蛆の魔王は己の領域を冷たく保ちながら、衆生の様子を観察していた。その様たるや、あえて記述として残そうとする思い上がった歴史家とていそうには思えない美があった。圧倒的なある種の超越的実体が己の棲家で佇むその様の美しさたるや、決して人間の能力で語り尽くせるようなものではなかった。
その魔王は幾星霜を
半透明の未知の素材で編まれた衣服を纏うその絶対者は全体としては肥え太った大蛇と蛆虫の中間のような姿であるものの、纏う美とその肉体の造形がこの世のものと思えぬ至高者の域であり、それ故に有毒で、見るだけでも死は免れないものと思われた。害すらある美は本来自然界に存在しておらず、そのために規格が合っていないのであろう。部屋の外からは廷臣どもが控え目に演奏する異界の弦楽器の音色が掠れて響き、それに満足した様子の魔王はこの世のものならざる妖艶な笑みを浮かべた。
するうちこの地に何やら異変が起き始めた。ぼうっと照らされる地下世界のような、あるいは永遠の月夜のようなこの冷たい
支配する実体がそう望まない限りは決してそうならないはずの地において歪むはずの無いものが歪み、景色が異常な様を見せた。遠方の氷河の山脈がレンズで歪んだかのような像に見え始め、魔王はやれやれと喉を鳴らした。その奇妙なクリック音が宮殿に響き渡った際に、本来的には不死で不滅の悪魔の中でも下等な部類が存在しないはずの死という結果を迎えて倒れ、おろおろとしながらも他の悪魔どもが死んだ同胞を宮殿の目立つ場所から恭しく運び出していた。それらの様は当然ながら全て把握している魔王はしかし、何かが侵入してきた事を感じており、許可無き訪問者が一体誰であるのかと推測していた。
かつて向こう側の宇宙に侵入して
例えばオニャンコポン卿やヴィシュヌ卿とは悪くない関係であろうし――と少なくともこの魔王は考えていた――他にもサソグア卿やロイド=ブソス卿、あるいはイサカ卿やオオマガツヒ卿らも己に対しては好意的に考えているものと推測していた。無論、最後にそれら美麗なる神々と会ってから文明が何度栄えては滅んだかすら数えてもいないが。確かに、思い返してみれば六本の腕を持つ直立する有翼の甲殻類じみた種族が信仰する神々の内、秩序を司るグリン=ホロス卿からその長い触腕で薙ぎ払われた経験について熟考すればそれは『嫌われていた』かも知れないが、しかしわざわざ前兆も無しに戦争を仕掛けに来るとも思えなかった。
己と同じ悪魔であろうかと考えたものの、しかし強大な悪魔は己の
魔王は空間が崩落して落下する空を気怠そうに眺めながら、しかしまさかわざわざ黙示録の四巨神の襲来であるとか、あるいはグレート・コンシューマーやエッジレス・ノヴァが己の使徒を刺客として送り付けないはずと推測した。
「では…あなたは一体どなたですかねぇ」
妖艶なる白蛆の魔王ルリム・シャイコースは部屋の天井を掻き消しながら、直接目撃せずとも発狂は免れない美しき笑みを浮かべながら上空に視線を送った。次元の壁を超えて地球各地で地震が発生し、余生を送るベテルギウスの表面の活動が乱れ、破壊された銀腺から尋常ならざる程の流出が発生して信じられないような光量が辺りを満たし、邪神クタニドの支配する未知の黯黒銀河とて星々が腐敗する寸前であった。
しかしそれらの自然界における恭しい振る舞いとは無縁である何かが暗い空に浮かび、尋常ならざる大渦巻きのごとく真の漆黒を形成していた。光すら飲み込む自然現象を異常な熱意で擬人化したかのような、己の意思を持つ邪悪が魔王の
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