第32話 お義姉さまの言う通りに
※メルティア=ユミゴール視点
翌日になり、わたくし、イザーク王太子殿下、エリザベッラ男爵令嬢は王宮内にある最上級のサロンで顔を合わせた。
「メルティア、話とはなにかな。定例開催のお茶会は明日のはずだ。それに今日は給仕係もいるけど関係あるのかな」
「エリザベッラ嬢ですわ、殿下」
「そうか。それで用件はなにかな」
殿下は興味のありなしがはっきりされている。
この一幕だけでわたしの名前は覚えているのに、彼女の名前は覚えていなければ、気にも留めておられないことが分かる。さて、エリザベッラ男爵令嬢は気づいているのかしら。
「イザーク様! 昨夜、イザーク様の声を聞きました! 私が生けたお花は本当に捨ててしまわれたのですか!?」
「余の声を聞いた? おかしなことを。と言いたいところだが、どうして昨夜の行動を知っているのかな。ねぇ、メルティア、教えてよ」
「イザーク様! 今は私のご質問にお答えください!」
あまりにも無礼な態度。
さすがにエリザベッラ男爵令嬢を咎めようとした時、イザーク殿下が
「余はメルティアに聞いているんだ。きみの返答では納得できないからね」
「乙女の勘ですわ、殿下」
「そういうものなのか」
「な、な、なんですかそれ!? 私の返答では納得できないとおっしゃったばかりなのに。勘の一言で片付けられて納得されたのですか!?」
「もちろん。メルティアは子供の頃から余のことを知る人物だ。メルティアの言うことはいつも正しく、納得させられる」
結局は"何を言ったか"が重要なのではなく、"誰が言ったか"なのよ。
あなたがいくら理論立てて説明しようともイザーク殿下は納得されない。なぜなら、殿下はあなた自身のことを知らないから。
でも、わたくしならたった一言で殿下を納得させることができる。
これがお兄様とアンねぇ様にはない、わたくしたちだけの絆。
「殿下、エリザベッラさんは殿下のお口から聞きたいそうです。なぜ、お花を捨ててしまわれたのか、その理由を」
「面倒な。でも、メルティアが言うなら仕方ない。余は国花しか部屋に飾らないと決めている。以上だ」
「それは誰かに強要されているのですか?」
「まさか。余の意思だ。余は国の王になるのだから、国の象徴を愛し、身近に置くのは当然のこと。それを勝手に変えられると余の仕事が増える。邪魔をしたいのなら即刻、解雇するがどうする?」
あまりにも残酷な問いかけにエリザベッラ男爵令嬢が小刻みに震えている。
しかし、根性だけはあるようで諦めずに食らい付いていた。
「でも、私が摘んだ花を綺麗だとおっしゃってくださいました!」
「……あぁ。綺麗ですか? と聞かれたから肯定しただけだ。誰も部屋の花を替えて欲しいとは言っていない」
エリザベッラ男爵令嬢は肩を落とし、またしても両目に涙を浮かべた。
「どうして泣くんだ。ねぇ、メルティア、余が泣かせてしまったのか?」
「いいえ。殿下は何も悪くありませんわ。ときに殿下、わたくしは殿下にこちらのご令嬢のことをもっと知っていただきたく、こんな物をご用意しましたの」
取り出したのはアンねぇ様からお預かりしたメモを模写した羊皮紙。
相変わらずの達筆で紡がれていた文章をわざわざ、わたくしの汚い文字で書き直しましたの。
実際に目を通すイザーク殿下も「メルティアの字だ」とつぶやかれていた。
恥ずかしいですわ。
必要であることは分かっていますけど、あえて羞恥を晒させるなんてアンねぇ様は意地悪です。
「…………これは事実なのか」
「はい。本人に聞いてみましょうか」
「な、なんの話をされているのですか!?」
すっかり蚊帳の外だったエリザベッラ男爵令嬢が金切り声にも似た声で叫び、イザーク殿下はまたしても
「エリザベッラ男爵令嬢はウィリアンヌ=キャスミュット伯爵令嬢の当時の婚約者に、自分の名前を使って婚約破棄をチラつかせれば彼女の嫉妬心が煽れるぞ、とたぶらかした。なんだこれはくだらん。」
イザーク殿下が
「正式にウィリアンヌ=キャスミュット伯爵令嬢の婚約破棄が成立すると成功体験を得たエリザベッラ男爵令嬢は次にイザーク王太子とメルティア=ユミゴール公爵令嬢の婚約破棄を画策。最終的に自らが王太子の婚約者となり、男爵家の昇爵を目論んでいる」
最後まで読み終えたイザーク殿下の目つきが変わった。
先ほどまでは興味を抱く対象にならなかった
「ここに書いてあることは事実なのかな。ねぇ、メルティア?」
「はい。確かな消息筋からの情報ですわ」
少しはエリザベッラ男爵令嬢に興味を持ったようだけど、それでも殿下は彼女を相手に取らず、わたくしとだけ会話を続けられた。
「じゃあ、この人と、この人を余にあてがおうとした男爵家は罪に問われることになるのかな」
「さようでございます。まだ陛下にはお伝えしていませんが、これが明るみになれば国家を揺るがす大問題になるかと存じますわ」
「余も同じ意見だよ。さすが、メルティア。では、次の一手はもう講じてあるのかな」
「はい。イザーク殿下のお手を煩わせるような真似はいたしませんわ」
全てはアンねぇ様の手中。
ここまで上手く話を進められるなんて、やはりお
実際にはあの
これも誰が言うかですわ。
この告発をアンねぇ様ご本人がされたとしてもイザーク殿下は信じもしなければ、納得もされない。
だけども、わたくしからであれば話は別。
ここまで織り込み済みで、わたくしに文章の書き直しを指示したのだとするならば、アンねぇ様は切れ者なんて一言で済ませることができない。
あの
それなのに、ここまでエリザベッラ男爵令嬢を追い詰められるなんて。賢者とでも呼ぶべきかしら。
「あともう一つ。エリザベッラ男爵令嬢は何か勘違いをなされているのです。そちらの訂正をお願いできますか」
「なにかな?」
「どうやら殿下がわたくしを愛していないと思っていらっしゃるようで」
「愛しているとも。メルティアは余と共にこの国の未来を守ることを誓う、いわば同志。心から国を愛する者を愛さない理由なんてどこにもない」
「ということは、国を愛していない方はどうなるのですか」
「余が愛することはないというだけの話だよ」
ばっさりと切り捨てられたエリザベッラ男爵令嬢はそれ以上の反論をしなかったが、イザーク殿下は無自覚のままで彼女の背中を踏み倒すような発言をなされた。
「余とメルティアの間には誰も割って入ることはできないぞ。我らの婚約は父である国王からの命令。あえて邪魔をするとなれば、それは国王に刃向かうということ。すなわち反逆行為だ。礼を言うぞ、メルティア。逆賊を見つけることができた」
「もったいないお言葉でございますわ」
その後、エリザベッラ男爵令嬢はその場で拘束され、投獄。
可及的速やかに余罪も調べられ、男爵家にも家宅捜査が入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます