第六話 妻との再会
しばらく休憩すると、スズネは自分から歩き出した。
元気になってくれてよかった。
「ミュ? ミュアアアア!?」
崩れた岩の坂道を登ると、大きく開けた空間――広間に出た。
天井は岩肌そのままので洞窟の中だけど、床は石畳だし壁や柱のような人工物も配置されている。もうこれは、完全に部屋だね。
そして一番目につくのが、大きな祭壇みたいな装飾だ。ここは、地下に作られた教会や神殿のような施設なんだろう。
とても荘厳で、神秘的な場所だ。
「ミュ? ミュア!」
部屋の様子に見とれていると、スズネが呼びかけてきた。何かに気づいたのか、前足で祭壇の方を指し示している。
よくよく見ると、黒い物体が盛り上がってるな。あれはなんだろう?
俺たちはその物体の方へ向かった。
「ミッ…………」
その物体が何であるか悟ったのか、スズネが瞬時にピタッと俺に張り付く。
それは――おそらく女性のこと切れた姿だった。
うつ伏せになって倒れていて顔の様子はうかがえないが、見える手はすでに骨になっている。ここで亡くなってから、かなりの時間が経っているのだろう。
誰にも見つけてもらえずに、ずっと一人でここにいるのか……。
「ミュア……ミュア……?」
あまりにも不安そうな声でスズネが鳴くので、俺は触手で撫でて落ち着かせる。
それにしても、この人は何者なんだろう?
着ているドレスは時間が経ってボロボロになっているけど、装飾の宝石や金細工は煌めきを残している。きっと、高貴な身分の人なだろうな。
あと気になるのが、身体やドレスから伸びている角や尻尾……それに翼も。この世界の人々は、こういった器官が付いているのか?
「ミュウ」
やっと落ち着いたのか、スズネは俺から離れて亡骸の前へと進む。
そしてゆったりと座ると、俺にも隣に来いと視線を送る。
そうだな。見ず知らずの人だけど、ご冥福をお祈りしないとな。
この世界のやり方を知らないから、異世界のやり方になって申し訳ないが……どうか安らかにお眠りください。
《スキル 黄泉送り を 習得しますか?》
触手を二本伸ばして手を合わせる風にしてる俺に、天の声が響く。
そういうスキルもあるのか。バトルに必要そうなものばかり見ていたから、全然気づかなかったよ。
もちろん習得する。この人のために、祈りたい。
《スキル 黄泉送り を 習得しました》
よし、早速スキルを使おう。
「ミュア〜ミュア〜」
優しい鳴き声とともに、淡い光が女性とスズネを包む。スズネも、同じスキルを習得したのか?
俺も横に並んで、一緒に祈らせてもらおう。なんて言えばいいか分からなけど……なむなむなむなむ……。
《スキル 黄泉送り を 発動》
天の声と共に、俺の体も淡い光に包まれた。なんだか不思議な温かさが、体の内側に広がっていく。
しばらくすると、女性の体が淡い光となって空間に溶け始めた。まるで魔素だまりの光のよう……。
「ミュア……?」
女性の姿が薄れるのに合わせて、脳の中に不思議な映像が途切れ途切れに流れてくる。これは、この人の記憶なのか……?
祭壇の前に、女性と男性が立っている。着ているドレスから見て、女性はこの人だろう。竜のような角や翼を持つ、とても美しい人だ。
男性も竜のような角や翼を携えている。……それどころか、手や足もドラゴンのような鱗や爪をしているな。より竜に近い種族なんだろうか?
二人はとても愛し合っているようだ。そして、この場所で何か――儀式のようなことを行おうとしている。
「ミュ……」
しかしその儀式は、失敗してしまったのだろうか?
ぐったりとしている女性を抱きしめて、泣き崩れる男性。やがて男性の体は変化していき、大きなドラゴンになってしまった。
「ミュア……」
ここで映像の流れ込みが終わってしまう。
現実に戻されて女性が倒れていた場所を見ると、強い魔素の光を放っている。これがこの世界の、最期の姿なのかな。
俺とスズネはどちらともなく身を寄せ合い、その光を見つめる。
「ミュ……ミュア……」
光は徐々に空間に溶けていった。悲しい最期だったんだな……どうか安らかに眠って下さい……。
「ミュ?」
女性が倒れていた場所には、女性の姿もドレスも跡形もなく消えていた。その代わりに、一本の剣が落ちている。
これは一体……?
《竜姫の剣 を 発見しました》
竜姫の剣? あの女性、お姫様だったのか。
これって、持って行ってもいいのかな? ああでも、俺たち剣が持てないじゃないか。
試しに触手を伸ばしてみるも、うまく持ち上げられなくて落としてしまう。引きずるくらいは出来るけど、武器として扱うのは無理だな。
「ミュア!」
剣の処遇についてあれこれ考えていると、スズネが視界に入り込んできた。何か言いたそうだな。
「ミュアミュアミュア!」
ピンと猫立ちをしたかと思うと、スズネはみるみる大きくなっていく。いや、人の形に変化している……?
顔立ちも猫から人間のように変化して、前足も五本指の手の形になった。猫耳やしっぽ、体毛も全身残っているが形はすっかり人間の子供だ。
それに、すごく見覚えのある顔……。
「ュア……ぁ……ぅん……」
あぁっ!! 寿々音の妹さんところの姪っ子ちゃんだ!!
毛の色は白いけど、顔立ちや髪の質感がそっくり。
いや、本当にそっくりだ! 間違いない!!
そっくり!!
そっくり……
そ……そ……そ……………………
「ヒロ……ぁキ……」
そっ!?
●●●あとがき●●●
本日三話目、最後の更新です。
明日は二話分更新予定です。
どうぞよろしくお願いいたします!
■■■■
天の声
《竜姫の剣
ドラゴンの娘 が 残した 想い
変わり果てた 恋人 を 救い
家族 に 謝罪 を 伝えること を 望む》
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