文学とタイプライター

エリー.ファー

文学とタイプライター

 小説を書く時に多くの問題が山積みになる。

 おそらく、解決されることはない。

 小説とは、小さく説く、と書かれているものである。

 決して、大きく説くことはできない。

 問題がなんであるかが分かるくらいだろう。

 誰もが取り組もうとして失敗するのは、その多くに言葉という壁が存在するためである。いずれ、誰かのために築かれる城の中で迷うようなものだ。

 分かったところで、その答えは自分のものではないと悟るほかない。

「安全地帯にいても、学べるものは少ないと思います」

「同じ考え方だよ」

「だとするならば、出ていくべきであると考えますが」

「いや、ここに残る」

「どうして、勇気が出ないんだ」

「勇気が必要ですか」

「あぁ、もちろん。どんな行動にも勇気は必須となる」

「寿命だけです」

「意味は分かる。しかし、それでも。体が動かないんだ」

「いつも、偉そうなことを言っているのに」

「全くだ。恥ずかしい限りだよ」

「私には多くの問題が解決する前触れのように思います」

「だから、連れて行ってくれ」

「嫌です」

「嫌がったとこで、もう渡してしまったよ」

「何をですか」

「魂さ」

「魂。オカルト的で気持ち悪いですね」

「正直でよろしい」

「それは志と考えてもいいですか」

「あぁ、構わないよ」

「古い考え方ですね」

「分かっている。分かっているとも。でも、しょうがないんだ」

「老いてしまった、ということですか」

「分かりました。背負いましょう。すべてもらっていきます。ただし、感謝もしませんし、これは一つの業務であると考えます。いいですね」

「あぁ。勝手にしてくれ」

「はい。勝手にします」

「あの、ありがとう」

「あなたみたいな人ばかりなんですよ。だから、こちらはこんなに成長してしまって、どこに行くにも簡単でしょうがないんです」

「羨ましいよ」

「あなたは、若い時も同じだったんじゃありませんか」

「あぁ。そう。そうかも。しれないな。そう、老いを言い訳にしていた。いや、そうじゃない。自分を言い訳にしていた」

「でも、あなたならしょうがないかもしれませんね」

「そうか」

「はい」

「そんな冷たいことを言わないでほしいな」

「元々、敵だったじゃないですか」

「あぁ、そうだった。きっと、これからもそうだろう。でも、この一瞬だけ繋がれた気がしたんだ」

「勘違いです」

「勘違いでもいいんだよ。社会が、世界が、他人が、真実が、本物が確かにここにはあったんだ。出会えていた。触れていた。感じられていた。記憶に残った。それで十分なんだ」

「気持ち悪い」

「あぁ。そう思うよ。お金もやろう。装備もやろう。知識もやろう。何もかもやろう。だから、できるかぎり、遠くに行ってくれ。誰も見たことのない景色を見てくれ」

「だから、だめなんですよ」

「え」

「誰も見たことのない景色というのは、見つけるものではなく、創り出すものです」

「あぁ。もう、嫌だ。どうして、どうしてなんだ。嫌になる。嫌になってくる。やめてくれ。どうしようもないものが襲ってくる。助からない。嫌だ。嫌」

「さようなら」

 世界が変わる夜が来る。

 きっと、誰も信じていない。

 世界は変わらない。

 世界が変わる必要なんてなかったのだ。

 自分が変わればいいだけなのだから。


「説教臭いですね」

「そうですかね」

「書き直してもらっていいですか」

「そうですね。考えておきます」

「いや、考えなくていいんで。ただ、書き直すだけでいいんで」

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