オー・ドロボー怪盗紳士小池が盗む
九里方 兼人
プロローグ
薄暗い四畳一間の部屋で、モジャモジャ髪に四角い眼鏡の男が一人ラーメンを啜っている。
細身で小さめ、中年と言うのもお世辞になりそうなその男はコタツに入ってテレビを見ていた。
『ご覧ください。この美しい装飾。世界に二つとない幻の宝石を』
テレビ画面には『砂漠のバラ』という名を付けられた宝石が映し出されている。
ほーっ、と男はしばしラーメンをすする手を止めて見惚れていた。
『砂漠のバラとは本来石膏や重晶石で出来ている物なのですが、砂漠などの自然環境で板状に結晶化した物が重なってバラのような形になる事からそう呼ばれています』
テレビでは砂漠のバラについて解説している。
『それが石膏ではなく、シンハライトの結晶で出来ているのがこれなのです』
どこで発見されたのか等は様々な憶測が飛び交っていて未だ謎が多い。それを最新のカッティング技術で精巧にカットしたのがこの『宝石砂漠のバラ』なのだそうだ。
幾枚もの板状の煌く宝石がバラの花のような形を作っている。ややブラウンに光り輝く姿は砂漠のバラという名を冠するに相応しいと言えた。
男は少し伸びたラーメンを啜る作業を再開する。
『この宝石は、板状の石を人為的に組み合わせた物ではありません』
保管場所となる美術館の警備責任者らしき人物が画面に映って解説を始めた。
自然の作り出した奇跡で、宝石ながら儚く脆い。
それがより貴重で希少なのだと、まるで支配人であるかのように得意げに語る。
『ウチで保管するしかありませんよ。何しろ我が美術館は日本一、いや世界一の警備システムを誇るんですからね。どんな泥棒だって盗めません』
と高らかに笑い、リポーターは苦笑しながら『ありがとうございました』と締める。
テレビを見ていた男は不意に箸を止めた。
「いかん。いかんなぁ。どんな泥棒も盗めないだって?」
立ち上がって拳を顔の前で握り締め、テレビに向かって呟く。
「この私がプロの仕事と言うものを教えてやらねばなぁ」
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