第12話 薄氷のステージ2


「いやまあ何ですか?! 何で僕らこんな所に呼び出されて、何をやらされているんでしょうか?」


「ちょっ! アドリブはやめんかい!」


「そう言うてもカヤタニ、こんな訳の分からん所で訳の分からん事、やらされる身にもなってみなさいよ」


「コラ! ダケヤマ、筋書き通りに進めんかい!」


 ガランとした石造りのホールに、二人の会話がこだまする。

 好奇と敵意に満ちた七人の騎士達の視線が、容赦なくテーブル上のコンビを貫く。

 視線を泳がせたカヤタニが、半ばヤケクソ気味に叫んだ。


「コント! 一対一の真剣勝負!」


「今こそ、貴様との決着を付けるときがやって来たな!」


「何やねん、カヤタニ。道場破りかぁ? 柔道着なんか着て偉そうに」


「そうや、俺とお前どっちが本当に強いのか、日本一の男を決める勝負の時が来たんやで」


「そうなんや、マジでやるつもりですか、ホンマに?」


「言っておくがな、ダケヤマ~、俺は柔道五段の黒帯やで。その首をへし折ってやるから覚悟しいや」


「何やねん! 俺かてソロバン二段の腕前やで。暗算も伝票もできるし、電卓よりスゴいんやで」


「何言うとるねん! 舐めとんのか、コラ! 一発勝負じゃ~!」


「はあああっ! 珠算奥義、ソロバンで顔をバシ~っ!」


「ぐええっ! なんちゅう強さなんや、ソロバンの有段者は~!」


 カヤタニが迫真の演技で、フラフラと騎士の円卓上に倒れた。



「……ぶふっ!!」


 円卓の七騎士の中でも特に笑い上戸のダイナゴンは、我慢できなかったのだろうか。ほっぺを風船のように膨らませると、鼻から思わず噴き出した。


『ヨシ!』


 心の中で手応えを感じたカヤタニは、卓上で伏せていた顔を上げた。ちょうど目の前にいたアスカロンとはニッコリしている。ガッツポーズのまま、瞬間的に周囲を見廻すと、団長とルンバ・ラルが苦虫を噛み潰したような顔でこちらを睨んでいる。


『ヤバい!』


 そう思ったカヤタニを穴金アナキンは、相変わらずの無表情で見つめ続ける。頬がほんのり赤くなっているのは、倒れたカヤタニの大きなお尻が目の前にあったからだ。


「……ぶふっ!!」


 たまたまカヤタニのパンチラを超どアップで見てしまったトムヤム君は、鼻血の方を噴き出してしまった。

 正にこの場は、カオス状態に陥りつつある。


「アカンで、ダケヤマ! この人らは柔道もソロバンの事も全く知らんのとちゃうか?」


「俺が懇切丁寧に教えといたろか?」


「アホか~! 今からギャグを説明してどないすんねん!」


 焦るカヤタニを尻目に団長の無頼庵ブライアンは、微妙な空気越しに侮蔑の表情を投げかけてくるのだ。



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