第二十六話:魔族に勝ったけど、本当に勝ったのか分からない
第二十六話:魔族に勝ったけど、本当に勝ったのか分からない
「いくぞおおっ!」
僕はかけ声を上げ、ショートスピアを掲げて突っ込んでいく。
皆激しく消耗している。ここは体温を戻した張本人である僕が攻めなければ。
「『フロスト・ニードル』」
動き出した僕に合わせて、フロームが魔法を発動する。
対象は僕だけじゃなく、跪いている京月さん、渡会くん、武富くんもだ。
「『編集・温度 / +10℃』っ!」
僕は井藤さんのことを分かって体得した『万物の編集』で、僕と三人に迫る氷の棘を溶かす。
フロームは複数対象への同時行使を難なくやっているが、僕もかろうじてできる。かなり精神を使うけど。
「いつまでもつかな?『フロスト・ニードル』」
「っ!!『編集・温度 / +10℃』!」
もう一度同じ流れをする。確実に、僕の魔力切れを狙ってるね。
苦しいけど、ここは耐えるしかない。
氷の棘が生み出されては溶けていき、飛び散った水でどんどん周囲が濡れていく。
まずい。これだけ周りが湿気てしまったら、武富くんの『ヴィヴィッド・トゥインクル』が使えなくなる。
「『フロスト・ニードル』」
「『編集・温度 / +10℃』っ!」
三度目の撃ち合い。
魔力を浪費させられていること、『ヴィヴィッド・トゥインクル』が撃てなくなっていることがフロームに見透かされている。
「どうする、十海くん?」
僕の切羽詰まった様子を見て、傍らの京月さんが話しかけてきた。
「そうだね。なんとかして、やつを火口に突き落とせれば」
「でも、武富くんの『ヴィヴィッド・トゥインクル』は……」
「うん、使えない。渡会くんの『グレネード』も」
こうも水が充満していると、どちらも無理だ。
「……」
「……」
だが、少し前の方にいる二人は戦意を失っていない。
「なにを、話しているッ!」
急にフロームが地面を凍らせ、でっぷりとした下半身を滑らせてこちらにやってくる。
特殊魔法が無力化された二人を差し置いて、僕と京月さんから片づける作戦か!
「無視すんなっ!」
「はああっ!」
渡会くんと武富くんが短剣とグローブで襲いかかるも……。
「『フロスト・ウォール』ッ!!」
フロームは左右に氷の壁を作った。
さながらボブスレーの滑走路だ。僕たちとフロームをつなぐ氷の一本道ができ上がる。
来る!
「『ストーン・アロー』っ!」
「『ファイア・ストリーム』っ!」
フロームの巨体が音を立てて滑ってくる間に、僕と京月さんはほぼ同時に魔法を発動した。
京月さんはガナムトを倒したときの要領で、後ろに下がりながら前にいる僕に当たらないように山なりで石の矢を発射。僕は凍った地面と氷の壁を溶かす意味合いも込めて、火炎の潮流を放った。
「くすぐったいな」
だが、フロームはぶよぶよとした下半身に人間形態の上半身を引っ込めてガードした。
そのまま弾丸のように溶けかかっているコースを滑り、僕たちに突っ込んでくる。
あれ、もしかして……。
人間の体には魔法が通る?
「死ねええええエエッ!!」
そう思うや否や、高速のフロームが突っ込んでくる!
その瞬間、渡会くんと武富くんが氷の壁をよじ登ってくるのが視界の端に移る。
「「『ストーン・ピラー』!!」」
ドゴオオオオオオオンンンッッ!!!
突如として僕の前に生えた石柱に、猛烈な速度のフロームが衝突した。
「ぐう、わあああっ!」
「ひゃあああっ!」
ものすごい衝撃の余波がこちらにも伝わり、僕と京月さんは吹き飛ばされて斜面を転がり落ちていく。
「はあ、はあ……」
数秒後。
僕はなんとか立ち上がって火口付近まで歩くと、そこは事故現場と化していた。
氷と岩の破片と、青い血がそこかしこに飛び散っている。ところどころに青黒い肉の塊が散乱している。
渡会くんと武富くんが息を合わせて建立した石柱はフロームが衝突したことにより傾き、半分ほど崩れていた。
そして衝突面には、ひときわ大きな肉塊が横たわっていた。石柱に破裂した体をめり込ませ、ピクリとも動かない。
「作戦、成功だね……」
僕はボロボロの体を維持しながら、かろうじて呟く。
「うん、がんばった」
優しい声とともに、後ろから京月さんが肩を貸してくれる。
特製の滑走路を拵えたフロームは、勘違いをしていた。湿気で特殊魔法を満足に使えない渡会くんと武富くんなら、『フロスト・ウォール』を破って自身の突進攻撃を妨害できないだろうと。
でも、その考えは甘かったと言わざるを得ない。僕がちょっと前にやったように、氷の上に乗るということを考慮していなかったんだから。
僕が言わなくても、僕がさっき『フロスト・ピラー』に乗ってみせたことで、二人はすぐに思いついた。『フロスト・ウォール』の上に乗り、土属性の魔法で妨害してやれば、フロームの熱い脂肪を貫通して必殺の一撃を与えられると。
衝突の瞬間、フロームはかなりのスピードが出ていた。いくら魔法への耐性が高いと言っても、猛スピードで石柱にぶつかったらひとたまりもない。
というところまで考えが及び、魔法で実行してくれた。ほんとすごいよ、渡会くんと武富くん。
「大丈夫か、二人とも?」
「派手に吹っ飛んでったからな」
武富くんと渡会くんもやってくる。
渡会くんは自分で投げたグレネードの爆風に巻き込まれて擦り傷が多いけど、そんなに負傷していないように見える。
問題は武富くんだ。『フロスト・ニードル』が刺さっているせいで、体中から血を流している。
「武富くんこそ」
「あ、ああ大丈夫だ。『フローズン』」
彼は普段と変わらない口調で、『凍らせる』という意味の英語を唱えた。
すると周囲が少し冷え、彼の体に薄い氷が張る。
「やつの魔法を見て、俺も学習した。空気中の水分を凍らせるイメージでやってみたが」
「傷口を凍らせて無理やり止血したんだね。荒療治だけど」
「ああ、だから早くサラサに……」
武富くんが若干声につらさを滲ませて言った途端。
カラ、と石が動く微かな音がした。
「みんな!」
「ああ、痛かった」
声とともに、石柱から立て続けに音が鳴る。
ぐじゅぐじゅぐじゅと肉がうごめき、中から人型が出てくる。
フロームの上半身だ。
ぐちゃぐちゃになった下半身を引きずりながら、両腕で這っている。
「まさか、あのタイミングで魔法を…撃たれるとは。そこの二人は、撃った直後で撃てないと、とと思っていたが……」
「俺たちが撃ったんだよ。氷の壁を昇って、上から」
「そうか……」
息も絶え絶えに話しながら、フロームは僕たちの方ではなく、火口の方へ這っていった。
人間にとって、魔法を使うときはイメージと魔力と集中力が必要なことを、この魔族は知っているのか。
魔法を頭で練って口で発露する、人の相手に慣れている。『分かるようになる魔法』を使わなくても、ガナ村を襲ったのはこいつだと確定していいだろう。
「もう、湿気も落ち着いたね。気にせず『ヴィヴィッド・トゥインクル』が撃てる」
「ああ、間違いない」
僕は武富くんに目配せをし、フロームにトドメをお願いする。
彼が歩み寄っても、フロームは全く動じることなく火口の縁を目指していた。
「観念しろ、魔族が」
「人間……風情が、偉そうな口をき、利くな」
冷たい言葉の応酬。
もう魔法を使う余力がないのか、フロームの口からは罵倒しか出てこなかった。
「これがガナ村の恨み、そしてサラサ様の恨みだ」
死にかけの魔族の三歩ほどの距離に、武富くんが立った。
拳を握って大きく振りかぶる。
「ガナ村?サラサ……?「この技は、『ヴィヴィッド・トゥインクル』の応用版だ」
フロームの呟きが、武富くんの口上によって阻まれる。
え?今なんて言った?
ガナ村、サラサ?口の動きだけじゃ分からない!
「拳で殴りつけた瞬間に、高圧の電流を瞬時に流し、相手を吹き飛ばしながら感電させる。それが……」
「しら……「『ヴィヴィッド・インパクト』!!」
バリイィイィィィィッ!!
武富くんの渾身のストレートがフロームの胸に埋め込まれ、その着弾点から黄緑の閃光が弾ける。
「ァァァァ…………」
青色の魔族はその体を黒く焼け焦げさせ、瞬く間に吹き飛んで火口へと落下していった。
なにか。
なにか大切なことを見逃している気がする。
「終わったね」
僕は口ではそう漏らしながらも、浮かない表情のまま火口を覗き込む。
サラサ火山はただ、その黒い穴をぽっかりと開けているだけだった。
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