56.自分の分は確保して休息を取る
生まれてから守られ、大切に育まれ、十分な教育を与えられて大人になる。衣食住の不自由はなく、地位による多少の束縛はあっても困窮することはない。これが貴族で、その代わりに政略結婚を受け入れ、領地や家のために己を駒として扱う覚悟が求められた。無理なら最初から家を出ればいいの。
「あと
人ではなく物として数える。
「二人だよ」
どうやら到着までに死亡した罪人は数えていないようね。擦り切れずに屋敷まで到着して生存した三人のうち、残りは二人。意外と優秀かしら。シルの頬に手を当ててお強請りしてみた。
「一人は頂戴ね。たまには運動しなくちゃ」
「同席しても構わない?」
「ええ。手出ししなければ問題ないわ」
物騒な会話なのに、シルはうっとりしていた。シモン侯爵家から嫁を取るくらいだもの。変態だけど優秀な彼は、実家の内情をある程度は調査済みでしょうね。
あの家に生まれたから、婿はどこかで攫うしかないと考えたけど。こうして嫁に貰ってくれる男がいると思わなかったわ。彼がありのままの私を受け入れるなら、私も寛容にならないとダメね。変態な性癖以外、基本的に欠点はないんだし。何より私を愛してくれている。
「もちろん、邪魔なんてしない」
笑顔の夫を前に、ここで私がダウンした。お腹痛い。蹲って温石をぎゅっと抱く。マノンに教わったらしく、背中の温石を押し当てながら、シルはゆっくり腰を撫でてくれた。
普通の夫はこんなことしないのよ。それも貴族男性なら尚更。そう呟いたら、彼は首を横に振った。
「俺のために痛みに耐えてくれる女性、それも愛しい妻だ。出来ることはすべてしたい」
ああ、本当にこの人なら私の痛みを代わりに受ける方法があれば、実行すると思う。異世界に生まれ直して、男尊女卑が一般的な時代に育った私が、ここまで大切にされるなんて。すべてにおいて運がいい。シルに求愛された時は逃げることばかり考えたけど、物語が破綻した今なら受け入れても大丈夫そう。
温かさから眠気に襲われ、ぼんやりしながら目を閉じる。あ、いけない。このままでは眠ってしまうわ。
「シル、お父様に連絡して……調査を」
「すでにロザリーを行かせた。安心して休んでくれ。まずは君の体調が優先だよ、レティ」
なるほど、ロザリーが顔を見せない理由がわかったわ。専属侍女なのに、どこへ消えたのかと思った。シルの言う通り、まずは体調回復。それからお父様の調査結果を待って、背後にいる者を洗い出して処分よ。
シモン侯爵家の女に手を出して、無事で済むはずがない。次の世代はルーベル公爵家の名も、悪名が轟そうね。温石を抱え直し、私は呻いた。カッコつかないわ。
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